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脱炭素社会と金融の役割

2020年2月14日 環境エネルギー第2部長 加地 靖

パリ協定に準拠した温室効果ガスの排出削減目標を国だけではなく企業も設定する。その理念のもと、2015年に登場したSBT(科学に基づく削減目標)から認定を受けることは、脱炭素化というドラスティックな変化に対応できる企業の証と見なされ、気候変動対策における一大ムーブメントに成長した。実際、英国の国際環境NGOであるCDPが2020年1月に発表した企業の気候変動対策に関する報告書においても、日本で同対策に積極的な企業が増えつつあることが示されていた。

SBTの影響力はこれにとどまらず、2020年はさらなる拡大を見せようとしている。永らく検討が続いていた金融機関向けSBT(金融版SBT)のルールづくりが、いよいよ大詰めを迎えたからだ。金融版SBTにおいて、パリ協定に準拠した削減目標の設定対象となるのは、金融機関による投融資である。金融機関は自らの事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減に加えて、投融資のあり方そのものを脱炭素化させる未来が見えてきた。

これまでも環境対策への取り組みに先進的な製造業や流通業などでは、自らの事業活動に伴う温室効果ガス排出量のみならず、自社が扱う商品やサービスのサプライチェーン上から間接的に排出される量についても把握・管理し、排出ゼロに向けてチャレンジしていく活動が推進されている。このように、気候変動対策の対象は自社だけではなく、影響力の及ぼす範囲へと拡張しつつある。金融業界においてもその波が押し寄せてきた形であり、こうした流れは、気候変動対策に積極的に取り組む企業には追い風となる一方で、対応が遅れるとみた企業からは資金が遠ざかる恐れがある。

金融業界では、1月に、米資産運用最大手のブラックロックが投資先企業と顧客投資家に対してESG(環境・社会・ガバナンス)を軸にした運用を強化する方針を表明し、また、欧州中央銀行が気候変動問題に取り組む役割を探っていく考えを示すなど、2020年はこれまで以上にESGの中でも気候変動に対する取り組みが注目される年になると考えられる。今後、金融機関に対しては、企業の気候変動関連情報を単に評価や格付けに使用し、状況次第では資金を引き揚げるということをするのではなく、たとえば気候変動対策が遅れている企業が何をどのように取り組めば環境先進企業にキャッチアップすることができるのか、その企業の持続可能性といった中長期的な視点でのフィードバックやアドバイスにも活用し、社会全体での脱炭素化支援を行うパートナーとしての役割が期待されることになっていくだろう。

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