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シナリオ分析 ―ガバナンスへの活かし方

2020年2月21日 環境エネルギー第2部 村上 智美

令和元年を迎えた2019年度をTCFD元年と呼ぶ人もいる。年度末が近づき、次年度に向けて対応を考え始めている企業も多くいることだろう。

TCFDへの対応として、多くの企業がまずシナリオ分析を実施したのではないだろうか。その中で気候変動にかかわるリスク・機会や財務的影響を想定し、それに対する戦略のレジリエンス(強靱性・弾力性)を評価し、それらをどう開示するか検討したはずだ。では、次はどうするか。

そこで立ち返って、TCFDが示すシナリオ分析プロセスの記載を思い出してほしい。その冒頭に記載されているのは、「以下を確認すること:(1)シナリオ分析が戦略的なプランニングやリスクマネジメントプロセスに統合されたガバナンスを有すること、(2)取締役会委員会等が監督権限を持つこと、(3)関与する社内外のステークホルダーとその方法」。つまり、TCFDの開示で忘れてはならないのは、“現在の戦略のレジリエンス”にとどまらず、不確実な事業環境において、都度レジリエントな戦略を立案し、遂行し続けられる“レジリエントな組織”であるか、という視点だ。

そうした組織の仕組みづくりの起点としては、まず、シナリオ分析の結果をもって取締役会、経営層、各関連組織に、気候変動に関連する事業環境の不確実性を理解してもらうことが重要だ。その認識の共有がされることで、取締役会、経営層がリスクマネジメントの在り方や自社の戦略・対応策をはじめとするさまざまな要素の監督・マネジメントを適切に行うことができるはずだ。その不確実性はどこから来ているのか。それはいつ頃確実になりそうなのか。それらを含め、リスクマネジメント上、何をモニタリングしておくべきなのかを共有しておくことが考えられる。

また、そうした検討をするにあたり、必要ならば、取締役会や経営層がさらなるシナリオ分析の深堀りや拡張を指示することもあるだろう。たとえば、TCFD勧告の作成に携わっていたユニリーバでは、全体的なシナリオ分析実施後にテーマを選定し、段階的なシナリオ分析の拡張・深堀りを行っている。

当然ながら、シナリオ分析を行った結果として、何が現状の戦略に含まれる想定内の事項で、新たな示唆として何が認識されたのかの共有が、戦略・対応策の評価や見直しにつながる。そして、戦略の実行状況をモニタリング・マネジメントするための指標・目標が妥当なのか、どのようにモニタリングし、監督・マネジメントすべきなのかも議論されるべきだ。

これら一つひとつを、どのように組織間で情報共有し、検討し、意思決定し、監督していくのかという仕組みづくりを行うことで、TCFDが求めるガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標の記載が充実するはずだ。

シナリオ分析の実施がゴールではない。ぜひ、その結果を経営に織り込むための次のアクションにつなげてほしい。

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