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無人航空機の産業活用の未来

ドローンと空飛ぶクルマに向けた期待

2020年2月26日 経営・ITコンサルティング部 西村 和真

ドローンは事業化段階に突入し、無人航空機は次のステージへ

遠隔操作や自動制御等によって無人で飛行可能な航空機(以降、「無人航空機」と呼ぶ)のうち構造上人が乗れないもの(以降、「ドローン」と呼ぶ)については、DJI社やParrot社、3D Robotics社等から比較的安価な機体や、さまざまな用途に利用可能な機体が実用化されている。それにより空撮等のエンターテインメント分野をはじめとして、測量やインフラ点検、農薬散布等のさまざまな分野・用途でドローンの活用が進んでいる。一部のドローンを活用する事業者では、すでに実証実験だけでなく、実運用として活用され、ドローンは本格的に事業化を検討する段階に突入しつつあるといえる。

並行して、より一層の活用推進に向けた環境整備に係る検討も着々と進められている。経済産業省および国土交通省では、ドローンの利活用をその飛行方法によって、遠隔操縦かつ目視内(レベル1)、自律・自動操縦かつ目視内(レベル2)、無人地帯(山岳地、海水域、河川、森林等)での目視外(レベル3)、有人地帯での目視外(レベル4)の4つの段階に大別し、必要な制度や仕組み(管理体制等)等について検討を行っている。また、官民の関係者や専門家等で構成される「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」においては、空の産業革命に向けたロードマップを作成・更新し、それらの実用化に向けた環境整備に関する歩みを進めており、すでにレベル3の要件が示され、申請等を行うことにより、その方法での利用が可能になっている。さらに今後、2022年度以降には、レベル4の実現に向けた環境整備が進む予定になっている。そのほかにも、許認可申請のデジタル化や飛行情報の共有を目的としたドローン情報基盤システム(DIPS)の稼働や、事前登録した識別番号(ID)発信の義務付け、ドローンの運行管理システム(UTMS)の研究開発など、ドローンの安全な利用に向けた環境整備も進んでいる。

無人航空機をめぐる検討は、ドローンにとどまらず、次のステージに移ってきている。それが、空の移動革命と呼ばれる、いわゆる"空飛ぶクルマ"の実現である。空飛ぶクルマには、現時点で明確な定義があるものではないが、経済産業省によると「『電動・垂直離着陸型・無操縦者航空機』などによる身近で手軽な空の移動手段」とされており、ドローンよりもより重量のある(人が乗れる程度)積載可能重量(ペイロード)を持つ機体である。経済産業省では、2018年に「空の移動革命に向けた官民協議会」を設置し、空飛ぶクルマの実現に向けた技術開発と環境整備についてロードマップを示したところである。

このように、無人航空機は、1つの方向性として、構造上人が乗れないドローンの領域から、より大型化した空飛ぶクルマと呼ばれる領域に進展しようとしており、それらの産業用途についても同様に進展しようとしている。

ドローンの活用推進に求められるソフトウェア開発

無人航空機は、空を飛ぶという最大の特徴に加え、「見る・計測する」「運ぶ」「その他(作業等)」の特徴を活かし、空からの点検、測量、運搬、農薬散布などの作業といった機能を担っている。無人航空機の産業用途は、その大きさや性能(ペイロード、航続可能時間・距離等)によって異なる。たとえば、小型のドローンでは一般的にペイロードと航続時間・距離が小さいため、搭載した小型のカメラ等を活用して主に空撮や狭い範囲の巡視等で利用されている。中型のドローンでは、ペイロードや航続距離・時間がより大きくなり、大型のカメラやセンサーを搭載した点検や、より広範囲の点検等に用いられるほか、ペイロードを活かして物資の運搬、物流等にも用いられている。

ドローンは、このような用途において、すでに実証実験だけでなく、実運用としての利用も一部で始まっている。しかしながら、ドローンを利用する事業者が実証実験段階から実運用として利用するにあたり、さまざまなニーズが出てきている状況にある。現在は、それらのニーズに対応し、ドローンそのものや、ドローンで取得したデータのビジネス活用を支援するサービス(DaaS:Drone as a Serviceとも呼ばれる)を、ドローンメーカーやドローンを活用したソリューションを提供する事業者(インテグレーター)が開発している。

ドローンの領域においては、すでにさまざまな汎用的かつ性能の高い機体が実現され、開発の中心は機体よりもソフトウェアに力点が置かれている。その1つは、点検する対象物を認識し、自動追従するソフトウェアの開発である。たとえば、電力分野では、2019年2月に関西電力が、東芝デジタルソリューションズ、アルプスアルパインと連携し、架空地線の点検等を行うための自動追尾点検技術の試験導入を開始することを発表したほか、2019年10月には、東北電力と日本電気が、送電線をドローンで自動追尾するための「ドローン用送電線自動追尾撮影ソフトウェア」の試行導入を開始した。

今後は、ドローンメーカーやインテグレーター側の立場では、個別の分野に対応して開発した技術を分野問わず利用可能となるように一般化し、さまざまな分野に展開または流通可能とすることで、実証実験から実事業への活用促進につなげ、ドローンのさらなる普及に向けて着実に歩みを進めていくことが期待される。また、ドローンを活用する事業者側の立場では、実証実験等を通じて自社におけるドローンの活用領域を見極め、効率的な活用に必要なソフトウェアの整備や、運用体制の検討等の実運用に向けた基盤整備を進めていくことが重要である。

空飛ぶクルマの実現によって期待されるさらなる用途の拡大

空飛ぶクルマのようなドローンよりもさらに大型の無人航空機の開発もまさに進められている。その実現に向けては、米国Bell社や、仏Airbus Helicopters社など欧米の企業のほか、我が国ではNEC、SkyDrive、テトラ・アビエーション等によって開発が進められている。また、2020年1月に開催されたCES 2020では、これらの空飛ぶクルマに関するコンセプトの発表も行われた。たとえば、米Bellは「Bell Nexus 4EX」、韓国の現代自動車は米Uberと共同開発した「S-A1」を発表し、いずれも4人程度の人が運べ、100km程度の航続距離のものであった。これらの大型の無人航空機は、1人または複数人の人を無人で運べるというだけでなく、人を運べる程度のより多くの物資を空から無人で運搬可能という利点を生かし、産業用途としてもさまざまな可能性を秘めた技術である。大型の無人航空機の実現によって、表に示すように前述したドローンにおける無人航空機の活用用途を、より重い/多くの物資を運ぶ、または、より広い範囲での活用等に用途を拡張すると考えられる。

開発途中ではあるが、産業界からもドローンの活用を踏まえて、すでに具体的なニーズも出てきている。東京電力パワーグリッドでは、最終的に1トン級の運搬が可能な無人航空機の実現を目指すとしている。これは、現在、山間部など重機が入れない場所などにおいて、工事の度に運搬用のモノレールを都度建設するなど、膨大なコストがかかっているためである。電力分野に限らず、インフラ設備の場合、台風などの災害時において樹木が倒壊し道路が塞がれてしまうことで機材の運搬が難しく、復旧に時間がかかるなどの課題がある。そのため、より低コストかつ空を利用した新たな運搬方法として大型の無人航空機に期待が高まっている。経済産業省が2018年に実施した「送電線点検等におけるドローン等技術活用研究会」で取りまとめた「送電線点検等への活用に向けたドローン等への共通要件」では、工事における運搬の用途において、一機で50kg以上の積載が可能であることがニーズとして挙げられている。

もちろん、大型の無人航空機の実用化に向けては、飛行安定性や緊急時の対応等の安全性・信頼性の確保、航続距離・時間の向上、騒音等の技術面、運行管理・管制システムの構築、離発着場/充電・給油場所の運用面でさまざまな課題が山積みしており、それらの課題を着実に解決していく必要があることはいうまでもない。しかし、無人航空機は空という空間を活用する手段の1つであり、さまざまな無人航空機を実現することが空という空間の価値を最大化すると考えられる。

平成の時代では、ドローンが実現し、そのドローンが本格的に事業化を検討する段階まで進んだ。令和という新しい時代においては、空飛ぶクルマが実現し、さらには大型の無人航空機が事業化する可能性は十分にある。この事業化は、空という空間の活用を拡張させ、人やモノの移動を劇的に変化させるものであり、無人航空機のさらなる発展や活用が、人々の豊かな生活の実現や、移動に関連する産業の発展に寄与していくことが期待される。

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無人航空機の産業用途
  無人航空機の大きさ(目安)

(全長1m未満)

(全長1m~4m程度)

(全長4m以上)

見る・計測する ホビー用、空撮、巡視、計測、圃場管理(狭小)など 点検(大型カメラ、センサー等を用いるもの)、圃場管理(中範囲)など 左記のうち、比較的大きい・重い、または飛行距離が必要なもの
運ぶ 機材、電線、医薬品、少量の物資など約4kg未満のもの 商品の配達、部品など約4kg~約30kgのもの 重機、人など約30kg以上のもの
その他(作業等) 電波の中継機、警備など 農薬散布、ロボットアーム(打音検査、ゴミの撤去等)など 左記のうち、比較的大きい・重い、かつ飛行距離が必要なもの

西村 和真(にしむら かずま)
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 チーフコンサルタント

自動運転や無人航空機(ドローン)、AR・VR・MR等のデジタル・モビリティ領域に関する調査研究・コンサルティング、実証実験に携わる。デジタル技術の社会実装に向けた政策立案支援やデジタル技術を活用したビジネスの創出・事業化支援を担当。

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