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環境ビジネスの海外展開におけるリスク評価

2020年3月26日 環境エネルギー第1部 齊藤 聡

世界的に伸び続けている環境インフラの需要に応え、環境性能の高い技術を有する我が国企業も、海外諸国において事業展開を進めてきている。環境インフラ事業は、途上国・新興国において比較的新しいタイプの事業であることが多いため、事業環境が十分には整っていないことを考慮に入れ、建設・運営に関するリスクや、種々の契約や取り決めによって定められる関係者間のリスク分担などについて、評価を行うことが望ましいとされている。

大規模事業(最低でも百億円規模など)においては、資金調達のリスクを低減するため、これまでに諸々のリスクの評価方法が体系化されてきた。だがこのような評価は事業資金のあり方によらず、海外事業化の検討にあたって広く実施しておくべきものだということができよう。このリスクは、(1)コマーシャルリスク、(2)マクロ経済リスク、(3)政治リスクの3つに大別されることが一般的である。

(1)のコマーシャルリスクは、事業自体や市場に内在するリスクをいう。仮に事業に用いる技術が実証済みで導入実績が十分にあるものだとすれば、完工リスク(計画通り建設できるか)、環境リスク(環境影響評価は必要か)、運営リスク(性能や費用が計画通りか)などについては概ねクリアされることが前提視される。一方で、収入リスクや原料供給リスクが課題となることが少なくない。

たとえば、再生可能エネルギー事業の収入リスクは、発電した電気を売る先の政府系電力会社等との契約によって大きく左右される。また国によって、再生可能エネルギーを購入するうえでの優遇条件や考え方が異なっており、それがリスクに直結する。支払いが計画通り得られることについてもゼロリスクとは限らない。

再生可能エネルギーの場合、原料供給リスクの原料とはエネルギー源を意味する。たとえば、地熱発電を実施する前には、リスク低減策として、実際に発電に十分な熱が得られるのか試掘を行わなければならないとされており、そのための数十億円の支払いが結果を伴うものなのか、また誰が負うものなのかなどが課題となる。あるいは、廃棄物発電に用いる廃棄物が期待通り収集されるかどうか未知数であることが多く(量が少なかったり、生ごみばかりで発電に適さなかったり)、特に廃棄物の管理制度がまだまだ整備段階にある途上国では、その担保策がリスク低減策にもなる。

すなわち、こういった起こりうる事象を収入リスクや原料供給リスクとして「見える化」し、契約に反映する(安定的な長期契約とするなど)ことが必要というわけである。

事業採算性を左右するのは、前出のコマーシャルリスクに関する事業の収入や原料供給のあり方だけではない。(2)のマクロ経済リスクは、事業者が外部から資金調達する場合に、金利や為替の変動など主に金融的な要素によって生じる経済的なリスクのことをいう。たとえば、事業の収入の一部が「円建て」や「米ドル建て」でなく「現地通貨建て」の場合、為替レートが仮に変動すれば、事業採算性が少なからず影響を受けることとなる。典型的なマクロ経済リスクの1つである。

(3)の政治リスクは、戦争や騒擾(そうじょう)のような極端な事象だけでなく、現地の法令が突然変えられるなど、政府の読めない動きも評価対象となる。たとえば、事業の開発ライセンスや締結するはずだった契約が一方的に破棄されたとしたら、それまでの準備に要したコストを誰が負うのかなど問題が発生しうるというわけである。

このように、環境ビジネスの海外展開における事業リスクは、事業の内容や体制を固める作業と並行して把握し関係者間で共有しておくべきものであり、事業の検討状況に応じて評価を実施しておくことが望ましいと考えられる。

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