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サプライチェーンの強化を目指して

脱炭素化に向けたサプライヤーとの協同

2020年7月28日 環境エネルギー第2部 小林 将大

2020年4月、SBTイニシアチブ*1から中小企業向けSBT申請書が公開された。その概要を見ると、温室効果ガス排出削減目標の対象となる活動や目標認定に必要な審査費用などが通常のSBTと比較して軽減され、人的・金銭的リソースに限りのある中小企業にとっても申請のしやすいものとなっている。中小企業向けの方法論を策定した理由として、SBTイニシアチブは、「世界的な気候行動において中小企業が重大な役割を果たすことを認識し、(中略)中小企業向けに方法論を策定した」と述べている*2。中小企業に脱炭素化を促すこうした動きは国内においても進展しており、環境省は2018年より中小企業に対して中長期排出削減目標・再エネ100%目標設定を支援している。

中小企業の脱炭素化は大企業にとっても大きな意義をもたらす。近年、大企業はCDP質問書*3などを通じて、自社の温室効果ガス排出量のみならず、サプライチェーン全体での排出量を開示・削減するよう迫られている。このため、大企業には調達物の製造に伴う排出など、サプライヤーにおける排出についても管理することが求められている。ほとんどの大企業においてはサプライヤーに中小企業が含まれているため、彼らが脱炭素化を進めることは、大企業から見ると自社のサプライチェーン全体での排出量が削減されることになるのだ。

では、サプライヤーの脱炭素化に向けて大企業が協力できることとは何か。それは取り組みに必要なノウハウの共有である。冒頭にも述べたように、中小企業が持つ人的・金銭的リソースには限界があるため、脱炭素化を進めようにも取り組みの方向性・手段がわからず、取り組みが行き詰まることは多い。このため、すでに自社での取り組みを通じてノウハウを持ち合わせている大企業が協力することが、サプライヤーの脱炭素化の鍵となるのである。実際、脱炭素化の先進企業であるKelloggは、サプライヤーに対して温室効果ガス排出削減目標を設定させるとともに、取り組みを進めるうえで参考となる資料を彼らに提供している。また、Appleは、地域ごとの再エネ市場および政策に関する情報を提供する「SupplierCare」というプラットフォームをサプライヤーに対して提供し*4、彼らが再エネ調達を行うのを手助けしている。こうした取り組みが一助となり、Kelloggは調達金額全体の76%にあたるサプライヤーから毎年の排出量報告を受けている*5。また、Appleは44社のサプライヤーから、再エネ100%での生産のコミットを得ている*6。このように、すでに取り組みを進めている大企業が知見を共有することで、サプライヤーの脱炭素化が促進されるのである。

ESG投資などの拡大に伴い、企業の脱炭素化はリスクを避け機会をもたらすものとなった。そこでは自社の排出のみに限らず、自社がかかわるサプライチェーン全体での脱炭素化が評価されている。サプライチェーンを強化し「持続可能な」企業であることを示すために、サプライヤーとの協同が必要なのではないだろうか。

  1. *1国際的なNPO、シンクタンク、環境保全団体などが共同で運営するイニシアチブ。SBTイニシアチブは、企業が設定する目標がSBT(Science Based Targets:気候科学に基づき設定された、パリ協定が求める水準に整合した温室効果ガス中長期排出削減目標)の水準を満たしているかを審査し、目標の認定を行う。
  2. *2Science Based Targets Call to Action Target-Setting Letter for Small and Medium-Sized Enterprises
    (PDF/902KB)
  3. *3国際的なNGOであるCDPが企業に対して環境情報の開示を求めて送付する質問書。
  4. *4Apple「サプライヤー責任 2018年進捗報告書」
    (PDF/12,880KB)
  5. *5Kellogg, Conserving natural resources across our supply chain
  6. *6Appleプレスリリース(2019年4月11日)
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