ページの先頭です

CO2を資源に!CO2有効利用「CCU」技術への期待

2020年8月31日 グローバルイノベーション&エネルギー部 野原 珠華

近年、気候変動の原因といわれている二酸化炭素(CO2)を削減するだけでなく、大気に排出される前にCO2を回収し利用する「CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)」技術が、CO2を有用な資源に変えるイノベーション技術として注目を集めるようになった。

CCUには、CO2を炭酸ガスやドライアイスとしてそのまま利用(直接利用)する方法や、CO2を他の物質に変換して資源として利用(間接利用)することで大気中への排出を抑制する方法がある。特に間接利用では、メタンやメタノール、エタノール等の燃料や化学品だけではなく、コンクリートやポリマー、バイオマスへの吸収など用途は多岐にわたる。

従来の化石燃料由来の燃料や化学品等の製品を、CO2を原料として製造した製品へと置き換えることで低炭素化を図ることができ、気候変動対策としてのメリットがある。さらに、CCUの原料となるCO2や水素を国内で調達すれば、輸入に頼る石油等の代替品を国内で製造できるようになるため、日本のエネルギーセキュリティ向上に貢献できる可能性がある。

CCUによるCO2削減はどの程度の規模だろうか。Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)が2016年11月に発表したCCUのロードマップ*には、CCUによる世界全体のCO2削減規模の見通しが掲載されている。2030年には、コンクリートで6億トン、建築資材で3億トン、燃料で7000万トン、メタノールで500万トン、ポリマーで10万トンのCO2を削減できるとしている。政策的な支援があった場合には、そのCO2削減量の見通しがコンクリートで14億トン、建築資材で36億トン、燃料で21億トン、メタノールで5000万トン、ポリマーで200万トンに増加する。

ただし、「CO2削減規模」と「CO2利用量」はイコール関係ではないことに注意したい。CO2を原料とした大規模製造が可能になっても、CO2は安定した物質であることから、変換に多大なエネルギーを消費する。製造や輸送の過程で必要となるエネルギーが化石燃料由来では、その過程でCO2が大量に排出される。また、CO2を製品にしても、短期間で消費され大気に放出されてしまうと、CO2削減効果が低くなる。製造から消費までのライフサイクル全体を通して、既存の製品と比較してCO2が削減されていないと、気候変動対策としての意義が小さくなってしまう。CO2を削減していくためには、LCA(Life Cycle Assessment)ベースでCO2排出量を評価し、適切なCCUを選択していく必要があることから、CCUにおけるCO2排出量評価の考え方などに関する議論、方法論等の整備が早急に必要となる。

また、CO2を資源として長期的に利用していくためには、十分なCO2の量を安定して調達する必要がある。一方で、現状の主なCO2供給源である製鉄所や製油所、アンモニアプラントに加え、将来のCO2供給源となる可能性のある火力発電所では、今後、低炭素化や統廃合などによりCO2の供給能力の減少や偏在化が予想される。CCUの普及のためには安定的なCO2供給の確保が必要となるため、製造プロセスで必ずCO2が排出されるセメント製造工場や、バイオマス発電所、大気中からの直接回収(Direct Air Capture:DAC)など、新たなCO2供給源の開発が必要となる。

加えて、化学品や燃料の製造には大量の水素を必要とするものが多く、水素の調達も課題となる。水素を低炭素かつ低コストで調達するためには、安価な再生可能エネルギーと水素供給のインフラ整備などの課題がある。

ライフサイクル全体でCO2が削減されているのか、十分なCO2や水素を安定的にどのように調達するかなどを見極める必要があるが、CCUは気候変動と資源問題の双方の解決に貢献できる、期待の大きい技術である。CCUを普及させるうえでは、CCUの技術開発はもちろん、CCUに必要な再生可能エネルギーや水素などの発展も重要となる。日本全体で、これら技術を発展させるための政策の舵取りをバランス良く行っていくことが望まれる。

  • *Carbon Dioxide Utilization(CO2U) --ICEF Roadmap 1.0
ページの先頭へ