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持続可能なバイオマスエネルギー事業の実現に向けて(1)

バイオマスエネルギーを取り巻く現状

2020年10月14日 グローバルイノベーション&エネルギー部 境澤 亮祐

2020年6月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より「バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針*」(以下「ガイドライン」)が公開された。本ガイドラインは、再生可能エネルギーの1つであるバイオマスエネルギーの発電事業について、将来的に固定価格買取制度(FIT制度)等による政策措置がなくとも持続的な事業運営を可能とするために、事業者が留意すべき点や考慮すべき情報を取りまとめたものである。

当社は、NEDO「バイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業」において本ガイドライン策定業務を受託しており、現在、年度末の最終版公開に向けてガイドラインのブラッシュアップを行っている。本連載では、バイオマスエネルギーを取り巻く現状について解説するとともに、現在公開されているガイドラインの内容や活用法を紹介する。

バイオマスエネルギーの全体像

数あるエネルギーのなかでもバイオマスエネルギーほど捉えどころのないものはない。第一に、「バイオマス原料」という言葉から何を思い浮かべるだろうか。燃焼目的の木材や、メタンガスを生み出す生ごみや汚泥などの廃棄物、または輸送燃料であるエタノールを作るためのサトウキビなどの農作物を連想する人もいるだろう。これらはいずれも正解である。たとえば木材原料だけ取り上げても、国産材/海外材、山林材/製材工場の端材/住宅等の建築廃材などさまざまである。エネルギーの利用方法についても、発電、熱、熱電併給、輸送用燃料などに分かれ、加えて熱ならば蒸気や温水供給のように細分化が可能である。さらには、原料とエネルギー利用方法に応じて、当然ながらエネルギー変換技術も異なる。その意味で「バイオマスエネルギー」という言葉の中には数えきれないほどの事業モデルが存在しているといえる。

発電・熱利用を目的としたバイオマス事業モデルの例
図1

出所:みずほ情報総研作成

バイオマスエネルギーの導入状況・バイオマス事業の課題

国内で主に利用されているバイオマスエネルギーは電気と熱であるが、特に発電利用においてFIT制度が開始された2012年以降、導入が急速に進んでいる。バイオマス発電においては5つの原料種の区分で20年間の調達価格が設定されており、ほとんどの区分において世界的に見ても高い水準での買取価格が設定されている。国内におけるバイオマス発電の導入の歴史を振り返ると、FIT制度開始前の1990年代から2000年代後半は、産業廃棄物事業者や自治体といった、バイオマスに関わりのある主体による建築廃材、家畜ふん尿や生ごみなどの廃棄物の適正処理や有効活用が主目的であった。一方で、FIT制度開始後は、高い買取価格を背景に、これまでバイオマスに関わりのなかった民間事業者による「ビジネス目的」としての発電事業が急増した。

その結果、FIT制度の開始によって、バイオマス発電設備の導入容量は、制度開始からおよそ8年で約230万kWから約460万kWと倍となった。

こうした急速な普及は再生可能エネルギーの普及という観点からは望ましいことである一方、重要な課題も明らかになった。第一に、このような導入拡大の背景には、計画時点で頓挫してしまう事例が多数存在することが明らかになっている。先に、バイオマスエネルギーは「捉えどころのない」という表現を用いたが、さまざまな原料の調達や、それらに適したエネルギー変換技術や安定稼働ノウハウ、事業リスクなどの「正しい情報」の入手が困難なことが、特に国内の地域資源を活用した小規模なバイオマス発電事業に新たに参入した事業者にとっての障壁となっている。この点については第2回で詳しく取り上げる。

ガイドラインのねらい

このような背景から、NEDOは、国内資源によるバイオマス事業を検討する事業者に向けて、構想段階から運転開始までの全体事項を「体系的」に整理した同ガイドラインを策定・公開している。大きな特徴として、これまでに検討されてきた事業の失敗事例についても注目し、留意事項や失敗リスクをまとめるとともに、並行して行われている地域自立システム化の実証および事業性評価の結果を踏まえた、事業者の「課題解決策・工夫」を整理している。これらは事業リスクを最小限にするためのチェックリストとして公開しており、事業計画時点での検討事項の抜け漏れを防ぐことを目的としている。

本ガイドラインは多種多様なバイオマス事業を取り上げているため、解説量も相当のものとなっているが、本編第2部以降については、事業の検討が本格化してきた事業者が事業の種類に合わせてチェックリストを参照し、逆引き的に利用できるものとなっている。バイオマス事業への参入を検討している事業者、地域活性化や地域内での資源循環、バイオマスエネルギーに興味のある事業者の一助となるべく、さらなるブラッシュアップに取り組んでいきたい。

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