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持続可能なバイオマスエネルギー事業の実現に向けて(2)

バイオマスエネルギー事業の課題と対策

2020年11月19日 グローバルイノベーション&エネルギー部 境澤 亮祐

バイオマス事業の経済性

連載第1回では、バイオマスエネルギーの事業モデルの多様性と現状について述べたが、今回は地域資源を用いた木質バイオマス発電事業の経済性について取り上げる。

木質バイオマス発電はFIT制度開始以降、輸入材を活用した大規模な50,000kW以上の専焼バイオマス発電が主に導入されているが、地域資源を活用する場合、資源量の関係から設備の発電規模は2,000kW未満が一般的とされ、地域分散型電源としての活用が期待されている。大規模なバイオマス発電であれば、化石燃料を用いた火力発電で見られるような、蒸気ボイラータービン式(BTG)が一般的であるが、数千kW規模まで縮小すると発電効率が大きく低下することが知られている。そのため、欧州では小規模でも高効率に電気および熱を生産できる技術として、蒸発温度の低い有機シリコンオイルを活用したオーガニックランキンサイクル(ORC)やバイオマス原料の熱分解ガス化が普及している。

林野庁の「木質バイオマスエネルギー利用動向調査」によると、我が国においては2019年度時点でORCを用いたバイオマス発電設備の導入台数は10件、ガス化発電設備は44件となっている。BTGの231件と比較すると数は少ないが、FIT制度における2,000kW未満の間伐材等由来の木質バイオマス発電事業の買取価格が40円/kWに設定されて以降、海外製の設備を中心に急速に増加しつつある。しかしながら、買取期間が終了した後の事業継続については多くの課題が存在し、いまだに見通しが立っていないのが現状である。

このような状況を踏まえ、NEDO「バイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業」では、FITなしでも成立可能な地域における熱電併給事業モデルの開発に取り組んできた。本稿ではORCを活用した985kWeの熱電併給モデル事業について概説する。なお、各諸元の詳細についてはガイドライン*を参照されたい。

下図は、実証事業におけるFS調査で20年間の収支バランスを分析した結果である。まず、支出については20年間で60億円と見込まれ、うち設備導入に係る初期コストが14.7億円と、同じ発電規模のBTGと比較してはるかに割高となっている。それにも関わらず黒字が見込まれる理由として、以下の2つの工夫がある。

1点目は、収益について、熱販売による収益が電力販売以上に得られていることである。FIT制度の開始以降、売電事業に注目しがちであるが、バイオマスの持つ熱量に対する発電効率が高いものでも30%程度であることを踏まえると、エネルギーロスとなる排熱を用いた収益モデルを確保することは事業の成立に大きく寄与する。

2点目は燃料費である。経済産業省 資源エネルギー庁「林業・木質バイオマス発電の成長産業化に向けた研究会」において木質バイオマス発電のコストの7割が燃料費であることが示されているように、全てのバイオマス発電の事業成立には燃料調達コストは大きな課題となっている。通常のFIT制度を利用するBTG発電設備で利用される木質チップ燃料は10,000円/t前後であり、仮に下図で取り上げた事業モデルにおいてこの燃料価格を採用したとすると、20年間の燃料費は50億円となり大幅な赤字となる。しかしながら、本事業モデルでは、地域で処理が課題となっている未利用木材や製材端材やバーク(樹皮)、選定枝等の安価なバイオマス資源を広く調達することで、燃料調達コストを一般的な木質チップの1/3まで削減することを計画している。

ORCを活用した985kWeの熱電併給モデル事業における20年間の収支バランス
図1

※売電価格は15円/kWh、熱販売価格は2円/MJを想定
出所:NEDO「バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針」

事業成立に向けた事業者の工夫

ここで挙げた「事業者の工夫」はORCを用いたバイオマス事業に限られたものではなく、FIT終了後の地域資源を活用した小規模な木質バイオマス事業性の確保において必須といえる。本実証事業においてFS調査から実運用段階まで進めた事業者は、熱需要先に隣接するように発電設備を設置することや、発電効率に対する設備コストを考慮して熱利用や蒸気利用のみに焦点をあてた計画を行っている。燃料調達についても、建築廃材や、製材工程で発生する枝葉・バークなど従来では廃棄物として処理されてしまうような未利用バイオマスを活用することでコスト削減に取り組んでいる。

ただし、これらの原料はいずれも燃焼利用を想定したものであり、近年増加しているガス化発電においては原料の品質に大きく依存することに注意が必要である。同じ樹種であっても地域によって成分比や含水率が異なることがあるため、事業化の検討時には稼働済みの事業者に依頼して、自らの地域資源のガス化が可能かをあらかじめ把握することが必要だろう。

今回は取り上げることができなかったが、メタン発酵技術を活用したバイオマス事業においては、主な原料は廃棄物処理費用として収益換算できるが、ガス生産量の安定化のために一部の原料を有償で購入する事例もある。また、発酵時の副生物である消化液は農業における液肥として利用できるが、利用先がない場合は適正に処理を行う必要があり、コスト増大の要因となりうる。

前回、バイオマスエネルギーは「捉えどころのない」エネルギーであると表現したが、事業化に向けて障壁となりうる課題や対策は当然ながらここで紹介したものにとどまらない。事業開始後の想定外事項の回避や、障壁の克服の参考として現在策定中のガイドラインやチェックリストがこれらの検討の一助となれば幸いである。

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