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電力用蓄電池活用ビジネスについて考える

2020年11月27日 グローバルイノベーション&エネルギー部 佐藤 貴文

リチウムイオン電池などの蓄電池は、電気を持ち運べるというメリットから携帯電話やノートパソコン、自動車などに使われ、現代の生活で蓄電池を使わない日はないといってよい。電気を持ち運べることが蓄電池のメリットであるといったが、近年は「持ち運べない」蓄電池も普及が進んでいることをご存じだろうか。

この定置型蓄電池の主な用途は電気の一時的な貯蔵で、停電対策、太陽光発電の自家消費量向上、電気料金の節減などさまざまな目的に用いられる。日本では家庭向け蓄電池の導入が進んでおり、2019年度の出荷量は約800MWhと市場は2018年度比164%の急成長を見せた*1。現在、家庭向け定置型蓄電池は設置費用が高額になる傾向があるが、「停電しない安心感」などお金に代えがたい価値が受け入れられ市場が拡大しているとみられる。電力用蓄電池*2はこれまで家庭向けが中心であったが、菅総理の所信表明演説などをきっかけに大型の電力用蓄電池も注目され始めた。

菅総理は同演説においてグリーン社会の実現、すなわち2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにし、再生可能エネルギー(再エネ)を最大限導入すると述べた。IEA等の研究で示されている通り、風力や太陽光のような天候に依存する再エネが電力供給の大部分を占める社会では、蓄電池や揚水発電等による電力貯蔵が必須という考えが主流だ。日本でも2050年に再エネを大量導入するならば電力用蓄電池が必要になるだろう。

電力用蓄電池が社会に広く普及し、再エネの主力電源化を支えるためには、蓄電池自体が投資回収可能性を持つ必要があると筆者は考える。本稿では電力システム改革などを念頭に、現時点で想定される定置型蓄電池活用ビジネスの可能性について考えてみた。

蓄電池で投資回収する方法は、電力取引に使う方法と、電力消費の効率化に活用して電気料金を節減する方法の二通りに大別できる。前者については、相対取引を除いて蓄電池が取引できる電力市場は、卸電力市場・需給調整市場・容量市場の三市場である*3

卸電力市場は実際に発電された電力量を取引する市場で、30分ごとの電力価格が需要と供給で決まる。イメージとしては原油等の取引市場に近く、安い電気を購入・充電しておき、市場の電力価格が上昇した際に販売・放電することが可能だ。最も価格変動が大きい時期には20円/kWh以上の値差が生じることもある。2021年度から開始される需給調整市場は、周波数制御・需給バランス調整を行うために、指示があったときに発電または需要抑制(蓄電池なら充放電)できる価値を売買する。発電機の回転運動がなく燃料も使わない蓄電池は、充電・放電の高速制御が簡単で需給調整市場に参加しやすい。容量市場は、4年後の国全体の供給力(発電できる価値)を取引する市場で、市場の運営を行う電力広域的運営推進機関が買い手となる。2020年9月に第1回入札結果が発表され、予想外の高値での落札になったため話題を集めた。

これらの市場取引を組み合わせると、大型蓄電池の投資回収は可能な水準に到達しつつある。断言できないのは、蓄電池のメーカーや機器の構成によって投資額に幅があり、かつ電力市場の価格は電源構成・電力政策に依存するため市場で期待できる収入に不確実性があるためである。今後、市場に参加する蓄電池が増えると市場での蓄電池の価値が下がる恐れもある。

もし市場価格の変動リスクが取れないならば、蓄電池を需要家側で自家消費の効率化に活用して電気料金を節約するモデルはどうだろうか。期待できそうなのは、蓄電池のkW価値を活用するというモデルだ。

単純な例をあげて説明したい。ある建物で使える電力の最大値は電力会社との契約値で決まる。普通は24時間365日いつでも契約上限いっぱいの電気を使わないため、最大需要電力が30kWの場合、最大値となる時間帯に蓄電池に貯めた電気で10kWまで賄えれば、契約電力を20kWに抑えることができ基本料金を節減できる。1年を通して安定的かつ予見可能なコスト削減が見込め、市場取引と併用すれば投資回収予見性が高まる。

また、この手法を応用すれば、将来普及が見込まれる電気自動車(EV)の急速充電器の維持コスト節減にも効果がある。EVの普及には急速充電器の普及が重要といわれるが、契約電力の基本料金が高くなるため、導入は足踏み状態となっているという指摘もある。急速充電器の使用頻度が低い時間帯をデータから予測して事前に蓄電池を充電しておき、EVの充電時に放電すれば、最大需要電力を抑制でき、基本料金を節減できる。加えて、電力需要を平準化でき、配電設備への負荷軽減が可能なため、電力インフラへの社会投資コストを抑制できる利点もある。

蓄電池はかつて非常に高価だったが、大量生産により急速に価格が低減し、前述のようなビジネスモデルの成立可能性が高まっている。さらに価格が低下すれば、ここで述べた以外にもさまざまなビジネスが生まれる可能性がある。将来的に、補助金などに頼らない自立的な定置型蓄電池のビジネスモデル誕生に期待したい。

  1. *1一般社団法人日本電機工業会 定置用リチウムイオン蓄電システム出荷実績
  2. *2リチウムイオン電池のように、何度も充電して再利用できる電池を蓄電池または二次電池という。
  3. *3一般的に家庭用の小規模蓄電池は単独で市場取引に参加することはできないが、アグリゲーター(需要家側の発電機や電力需要抑制機器を集中して制御し、その電気的な出力を小売電気事業者や送配電事業者等に提供する事業者)を介して参加することができる。

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