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仮想通貨から生まれた新たなデジタル技術への期待

非金融分野におけるブロックチェーン

2020年12月9日 経営・ITコンサルティング部 石原 範之

ブロックチェーンの誕生

仮想通貨*1のビットコインは2009年に誕生した。ビットコインは、ネットワーク上の端末同士が直接通信を行うネットワーク方式によるデジタル技術に基づく新しいタイプの通貨である。誕生からまだ11年しか経っていないが、時価総額は20兆円を超え、そのほかの仮想通貨も含め金融とデジタル技術を融合したフィンテック分野の中で重要なサービスの1つとなった。

ブロックチェーンは、ビットコインなどの仮想通貨を実現するための根幹となるデジタル技術である。データ構造が、ブロックと呼ばれる単位でデータをまとめ、そのブロックをチェーンのようにつなげてデータを保存することから、そのような名前で呼ばれている。ブロックチェーンは従来のシステムと異なり、データを分散させて保存することで、データの改ざんが困難で、中央管理者が不要な仕組みを実現している技術であり、企業や業界を跨ぎデータの流れを効率化することで、社会変革を起こし得る次世代技術として期待されている。政府が我が国の目指すべき未来社会の姿として提唱した「Society 5.0」でも、実現を支えるデジタル技術として、IoT、AI、ロボットに並びブロックチェーンが挙げられている。

ブロックチェーン技術の活用

ブロックチェーン自体は基盤的なデジタル技術であり、仮想通貨以外にも利用することができる。ブロックチェーンを用いたシステムにはさまざまなメリットが期待できるといわれており、たとえば、2016年の経済産業省のレポート*2では、システムが中央管理者不在でも安定維持されること、データの改ざんが困難なこと、安定したシステム(ゼロダウンシステム)の構築・運用が可能なことなどが挙げられており、そのほかにも不特定多数の利用者間で情報共有が容易なこと、利用者間で直接取引(決済)を行えることなどがメリットとして挙げられている。

そのため、ブロックチェーンは金融分野にとどまらず、非金融分野においても幅広い分野で新しいデジタル技術として活用の検討が進められている。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が昨年発表した「非金融分野におけるブロックチェーンの活用動向調査」の報告書*3の中では、100を超える活用に向けた取り組みの事例リストが示されている。取り組みの内容は、地域通貨や企業などによるポイントの発行、著作権・電力・ゲーム内アイテムなどの取引、サプライチェーン上の食品や製品などの流れを管理するトレーサビリティ管理、電子化した紙書類の改ざん防止と交換、データ共有、デジタルな証明・登録などさまざまである。これら以外にも多くの活用を検討している事例があり、ほぼ全ての業種で活用の検討が進められているといってもよい。

PricewaterhouseCoopersによる世界の企業経営幹部600人を対象にした調査*4では、84%の企業がブロックチェーンに少なくとも何らかの関与をしていると回答している。

非金融分野における取り組みの注目分野

活用に向けた取り組みの多くはまだ実証の段階であるが、積極的な取り組みが行われている。今後大きな変革をもたらすことが期待される分野を2つ挙げる。

1つ目は食品や工業製品のサプライチェーン管理である。この分野では多くの関係者が国を跨ぎ存在している。また、サプライチェーンは現在、大規模かつ複雑になってきており、安全性、効率性などの問題が生じてきている。国境を越えた複数の事業者間で効率的な情報の共有、トレーサビリティ確保、手続きや伝票・証明書の電子化を高い信頼性で実現する技術として、ブロックチェーン利用の取り組みが進んでいる。IBMが提供する「IBM Food Trust」はブロックチェーンを使用した食品サプライチェーン・ソリューションである。Walmart、Carrefour、Nestle、Doleなどのグローバルな大手小売り企業、食品企業が利用し、さまざまな検討を進めている。ブロックチェーンを利用することで、参加者全体の情報共有と履歴管理によるサプライチェーンの効率化・透明化が期待できる。

2つ目は電力の分野である。地球環境問題を背景に、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーによる発電設備の導入が増加している。従来の電力システムは火力発電所や原子力発電所などの大規模な発電設備から需要家へ電力を届ける集中型であった。一方、再生可能エネルギーの発電設備は分散しており、家庭などの需要家が自家発電の余った電力を売るなど、双方で電力の売買を行う分散型のシステムに移行している。分散型の電力システムを構築する技術としてブロックチェーンへの期待が高まっている。オーストラリアのエネルギー領域に特化したソフトウェア開発会社であるPower Ledger社は、エネルギー取引や環境商品取引(再生可能エネルギー利用証明書や炭素クレジット*5など)でブロックチェーン技術を活用したプラットフォームを提供している。ブロックチェーンは、変わりつつある電力システムにおいて、分散化に対応したデータの収集・管理、電力取引、決済などを行う仕組みの中核的な役割を担うデジタル技術として期待されている。

ブロックチェーン技術に対する期待と展望

ブロックチェーンは幅広い分野で活用の検討が進められているが、多くは開発・実証の段階で、今後、開発段階から事業化段階の間に存在する「死の谷」と呼ばれる障壁を越えなければならない。

ビジネスとしても、現在さまざまなブロックチェーンの特徴を活かした新しいビジネスモデルの検証を行っている段階であり、すぐに企業の収益に貢献することは難しいかもしれない。しかし、既存のシステムが抱えるデータの信頼性向上、参加者間の効率的かつ安全制の高いデータ共有などの課題を、従来のシステムとは異なる仕組みで解決できる。非金融分野において、秘匿性の高い医療情報などの安全な共有、不特定多数の企業間における取引情報の電子化によるトレーサビリティ向上と効率化、決済を仮想通貨で行う自律的な相対取引市場の構築などの変革を起こし得る新たな技術である。一時期の過剰な期待は薄れつつあるが、新しいサービスの提供が着実に増えている。今後もどのような新しいサービスが生まれ、そのサービスがSociety 5.0に向けた社会変革を起こしていくか、この仮想通貨から生まれた新たなデジタル技術の動向*6に注目したい。

  1. *1政府は仮想通貨の名称を「暗号資産」に変更しているが、本コラムではなじみのある「仮想通貨」の名称を使用した
  2. *2ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査(経済産業省)
  3. *3https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20191223.html
  4. *4世界のブロックチェーン調査2018(PricewaterhouseCoopers)
  5. *5先進国間で取引可能な温室効果ガスの排出削減量証明。
  6. *6ブロックチェーンの有用性を官民共同で検討し、活用・実装を推進する「ブロックチェーン官民推進会合」が一般社団法人新経済連盟、内閣官房IT総合戦略室の主催により2020年9月に発足された
    (https://jane.or.jp/proposal/pressrelease/12039.html)

石原 範之(いしはら のりゆき)
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 シニアコンサルタント

エレクトロニクス、情報処理、環境エネルギー技術分野に関する調査研究・コンサルティングに従事。ブロックチェーン、半導体、超電導技術に関する技術動向調査、市場動向調査、技術ロードマップ策定、実証プロジェクト支援等に携わる。

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