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高度な土木技術が都心の地下を変える

2020年2月10日 サイエンスソリューション部 徐 敏

はじめに

新元号「令和」がスタートした2019年をもって、西暦2010年代は幕を閉じた。この10年間、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催もあり、首都圏交通網が地下空間の利用を前提に大幅に改良建設されることになった。首都圏三環状道路整備を中心とし、都市における地下空間の活用が改めて注目されており、当社でも当該分野における構造物の解析業務等に取り組んでいる。本コラムでは、筆者が特に注目した地下空間活用の現状と展望について紹介する。

都心の地下構造の進展

まず、首都圏鉄道に関しては、駅部の改良・拡幅、地下化などの工事が数多く行われている。2013年3月には、東急東横線の渋谷駅が地下化され、副都心線との相互直通運転が開始されたことで、利便性が向上した。また、2017年12月には、東京メトロ銀座駅と銀座の複合商業施設「GINZA SIX」を結ぶ地下通路が開通し、この街を訪れる人々の移動が便利になった。そして、2019年11月末には、相模鉄道とJR線をつなぐ「相鉄・JR直通線」が開通している。この「相鉄・JR直通線」の綱島駅付近については、当初は東急東横線直上に2階建ての高架構造を作ることが計画されていたが、周辺環境や道路交通への影響を考慮し、地下化されることとなっている。

次に、首都圏高速道路整備に関しては、2005年から地下空間の建設が始まった首都高速中央環状線が2015年3月に全線開通し、大井ジャンクションと高松入口間のトンネル(山手トンネル)は、全長18.2kmで日本一長い道路トンネルとなった。また、現在建設中の東京外環トンネルは「東京外かく環状道路」の一部として、東名ジャンクション(以下、「JCT」と呼ぶ)~大泉JCTをつないでいる。

地中拡幅部における切拡げ技術の発展

このような改造や整備のための地下建設では、首都圏の地下にある既存の交通網との交差や、大深度の複雑な地下条件での設計と施工が、技術面での大きな課題となっており、それらの課題を解決するため、様々な新技術の開発が行われている。

ここでは、首都高速道路中央環状品川線と大橋JCT (図1)の分岐合流部を建設する大橋連結路工事で用いられた地中拡幅部における切り拡げ技術について紹介する。

従来、高速道路の出入口における、断面形状の変化を伴うJCT工事では、地上部から掘削する開削工法によりトンネルを構築し、既設の本線トンネルに接続する方法が採用されてきた。一方、大橋連結路工事では、交通量の多い地上の幹線道路を長期間の通行止めにすることはできず、また、沿道にはビルが林立し、さらに陸橋や河川などの重要構造物下でもあったため、開削工法による分岐合流部の施工は困難であった。このため、大橋連結路の工事においては、地中で2本のトンネル間をアーチ形状のセグメント(拡幅セグメント)で接合する地中拡幅という新工法が採用された*1。この工法では、並走する2本のトンネルの区間を地中からの掘削だけで一断面に変え、拡幅セグメントにより一体化する。2本のトンネルは、1本が外径12.3mの本線トンネル、もう一本が建設当時に供用中の大橋JCTへつながる外径9.5mの大橋連結路トンネルである。左右に並ぶ2本のトンネルをつなぐ拡幅部分は、完成時には内部の横幅が約21mに達する大断面となる。この非開削工法の施工手順を図2に示す。この大橋連結路の工事は、地中拡幅部における切り拡げ工法を用いた、世界で初めての施工事例である*2


図1 大橋JCT概要図
図1
(出典:道路行政セミナー資料2013.07、首都高速道路株式会社)


図2 切拡げ工法の施工手順イメージ図
図2


また、東京外環トンネルでも大規模な地中拡幅工事が行われている。国土交通省関東地方整備局の「東京外環トンネル地中拡幅部における技術開発業務」の資料*3によると、東名JCT、中央JCT、青梅街道ICの地下空間整備においても、それぞれの工事への適用性や信頼性を満足するよう、様々な新しい切拡げ工法が開発されている*4

おわりに

都心の地下にはすでに多く施設が建設され地下利用が進んでいるが、現在、2023年開通予定の都道環状2号の地下区間、2026年完成予定の東京駅前地下バスターミナル、2027年完成予定のリニア中央新幹線(9割弱トンネル区間)が建設中である。さらに、首都高速道路日本橋地下化ルートの建設、品川駅地区再開発、羽田空港への新線などのインフラ整備も計画されており、都心の地下のさらなる複雑化が予想される。

今後、鉄道の延伸工事、地下高速道路の拡張、地下街・地下通路の建設においては、本コラムで紹介した地中拡幅部における切拡げ工法のような新しい技術の開発と実用化が望まれる。

参考文献

  1. *1一般財団法人国土技術研究センター、第17回国土技術開発賞 優秀賞受賞技術概要
  2. *2日本大改造2030、この国を変える250のインフラ事業、日経BP社
  3. *3国土交通省関東地方整備局、東京外環トンネル地中拡幅部における技術開発業務発表資料、平成27年12月22日
  4. *4シールドトンネルにおける切拡げ技術、土木学会、トンネルライブラリー第28号
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