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持続可能なバイオマスエネルギー事業の実現に向けて(3)

地域におけるバイオマスエネルギー事業の意義

2021年1月27日 グローバルイノベーション&エネルギー部 境澤 亮祐

バイオマスエネルギーのメリット

前回(連載第2回)は、バイオマスエネルギー事業の経済性を成り立たせるうえでの課題や各事業者が実際に行っている工夫について取り上げた。これまで述べてきたように、バイオマスエネルギーは「捉えどころのない」エネルギーである。特に、地域資源を活用した事業は輸入材発電事業のような大規模化が難しく、スケールメリットが発揮しづらいことに加えて、その事業の成功は資源量や地形、熱需要先など地域特性の影響を大きく受ける。そのため、他の再生可能エネルギーに比べて実現までの難易度が高く、事業性を確保することが難しいものとして事業関係者からも認識されている。では、各地域が再生可能エネルギーの導入を推進するうえで、バイオマスを選択するメリットはどのようなものがあるだろうか。それは地域への波及効果にあると考えている。

太陽光・風力・中小水力などの再生可能エネルギーと比較すると、バイオマスエネルギーはエネルギーを供給するための地域資源の調達や、原料の加工、エネルギー変換設備への投入工程でコストが加わる分、事業単体で見た経済性の確保が困難であることは第2回でも述べた。一方で、これらのコストが地域関係者に支払われる場合、バイオマスエネルギー事業は他の再エネ事業と比較して雇用効果やバイオマス原料を提供する上流の事業者の利益を生むことにつながり、サプライチェーン全体として大きな経済的な波及効果が期待できる。

地域経済性分析

このようなバイオマス発電所の建設から運用時の原料調達、エネルギー供給事業におけるトータルとしての地域への経済効果はこれまで定性的には評価されてきたものの、定量的な可視化が十分なされてきたとはいえない。こうしたサプライチェーンで発生する地域経済効果を分析する有効な手法の1つとして産業連鎖分析がある。本手法はドイツのエコロジー経済研究所(IOW)が再生可能エネルギー導入の結果もたらされる地域への経済効果を評価する手法として開発したものである。

木質バイオマス発電を例にとって金銭の流れを示す。一般的に再生可能エネルギー事業が地域に直接的な経済効果をもたらす要素として、(1)バイオマスエネルギー事業者の利益、(2)設備・建設関連事業者の利益、(3)運転・維持関連事業者の利益、(4)バイオマス事業者・関連事業者の従業員可処分所得(所得から税金を引いたもの)、(5)自治体地方税収、(6)地方銀行の利息収入に分けることができ、(1)については地域内外の事業者やスポンサーの出資比率、その他についてはいずれも各役割をどの程度地域内の事業者に委託するかによって変動する。これに加えてバイオマスエネルギー事業の場合は、(7)バイオマス原料の製造・流通・処理に関する事業者の利益が加わり、これが地域経済効果に大きく寄与することとなる。また、実際の金銭のやりとりは行われないものとして、利用されるバイオマス原料が低品質のものであり、これまで廃棄物処理を行っていた場合は、(8)廃棄物処理費用の削減効果が、バイオマス事業の開始によってエネルギー消費者が従来価格よりも安価にエネルギーを調達できる場合は、(9)エネルギー消費者のエネルギー費用削減効果も経済効果として考えることができる。これらの総額は、バイオマス事業の開始前のエネルギー調達を地域外の事業者から調達していた場合、直接地域外に流出していた金額であり、バイオマスエネルギー事業を開始したことで新たに地域内に循環した経済効果と考えることができる。NEDO「バイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業」において現在策定中のガイドライン*では、運用段階に進んだ実証事業を対象に定量的な分析を行っており、いずれにしても事業総額の数倍の地域経済効果が見込まれている。


バイオマスエネルギー事業における地域経済効果の考え方

図1

出所:みずほ情報総研作成

自立した地域バイオマスエネルギーの促進に向けて

一般的にバイオマスエネルギー事業単独で収益性が低いと判断される場合は、事業者はその事業を断念することが多いと考えられる。一方で、地域経済性分析によって地域全体としてメリットを定量的に可視化し、十分な実施意義が見込まれると判断される場合には、自治体などの地域コミュニティやステークホルダーが当該事業者を経済的な面や、その他の面で支えることで、当該事業を推進できる可能性がある。具体的には、地域内の事業者が得られる収益や雇用効果から、自治体による当該事業への財政支援の実施や、地域内の事業者が共同実施者として参画する場合もあるかもしれない。このような分析は自治体の政策決定や地域における合意形成に有用なものであり、自治体や地域のステークホルダーの支持を得ることは、事業の安定性を向上させることにつながる

もちろん、バイオマスエネルギー事業の開始によって地域が得られるメリットは経済性だけではない。適切な森林管理や分散型電源の設置による災害対策、再生可能エネルギーの活用による環境価値などは、今後カーボンニュートラルを掲げた我が国のエネルギー構成に大きく貢献するだろう。

本連載では、3回にわたってバイオマスエネルギーの現状から可能性について触れてきた。「捉えどころのない」エネルギーの活用には事業者自身がバイオマスエネルギーを理解し、自らの地域の現状を把握したうえで、地域内の関係者を巻き込んで実施する必要がある。現在策定中のガイドラインやチェックリストは、こうしたバイオマスエネルギーの意義や、事業の進め方を確認することができ、2021年春に公開予定の最終版では、これまでバイオマスエネルギー事業に関わりのなかった方々の利用も想定して改訂を進めている。バイオマスへの理解や事業の工夫、関係者との合意形成など、事業成功に向けての取り組みは決して容易なものではないが、既存事業者の事例や有識者の意見を盛り込んだ本ガイドラインが、少しでも地域バイオマス事業成功のヒントとなれば幸いである。

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