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業務デジタル化と業務見直しの重要性

2021年2月5日 経営・ITコンサルティング部 斉藤 俊之

企業を取り巻く環境と経営課題

2020年初頭に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大により、企業を取り巻く環境、ステークホルダーの価値観は一変し、多くの企業で現状のビジネスモデルや事業形態の変更など、企業の経営・事業体制を一から見直す必要に迫られている。人口減少や労働力の高齢化による人手不足、他業種との労働力確保競争の激化等に起因する「労働力の低下」、場所、時間にとらわれない働き方や生活様式、またそれらの価値観の変化による「働き方の多様化」といったこれまでの環境認識に加え、発生したリスク事象の影響による外部環境変化や不確実性に対応する「レジリエンスの欠如」等も加わり、労働力低下に打ち勝つ高い労働生産性と環境変化に対応した次世代業務の確立は喫緊の経営課題として必然的に浮かび上がる。

これらの経営課題に対して取り組むべきアクションはさまざま考えられるが、その1つとして、業務デジタル化の推進が挙げられる。業務デジタル化とは、紙やハンコ、人手作業といった“アナログ”を廃止し、エンドツーエンドでデジタルを前提とした業務に再構築することである。そのうえでテクノロジーを活用し、人材リソースに頼らない業務の自動化、省人化を実現するのである。

近年、業務の自動化を実現する技術として注目され、活用されてきたものとして、RPAやOCRといった技術があるが、これらはあくまでアナログが残存する前提での業務効率化技術にすぎない。真の自動化には、業務の起点から終点までの各工程をデジタルに置き換え、そもそも紙やハンコ、人手作業を発生させない業務プロセスの構築が必要であり、その考え方に基づいた新たな技術が必要になる。

高まる業務デジタル化の機運

業務デジタル化を実現するテクノロジーとして最近注目されているのが電子取引サービスである。電子取引サービスとは、当事者間での取引の情報をこれまで紙の文書等で取り交わしていたものを、インターネット等のネットワークを介してデジタルデータで取り交わす、いわば取引文書の電子化を実現するサービスである。中でも各企業で爆発的に導入が進んでいるのが、契約書の電子化を実現する電子契約サービスで、これまで当事者間で紙の文書を郵送や手渡し等の手段で取り交わし、契印、割印を施していたものを、電子文書をインターネット等のネットワーク上で取り交わし、電子署名を施すことで、紙、ハンコの廃止、人手作業の大幅削減、コスト削減を実現するものである。このような電子取引サービスは、従来のように手元のコンピュータや会社のサーバーに個別に導入する方式ではなく、ネットワーク経由でサービスとして提供されるクラウド方式が主流となっており、従来の導入方式よりも比較的安価かつ短期間での利用が可能となっていることも、普及が進んでいる要因の一つとして挙げられる。

このようなテクノロジーの台頭の一方で、各法制度の緩和や見直しの動きも著しい。国税関係帳簿書類の電子保存要件を定める電子帳簿保存法は、これまでその複雑さ、対応の難易度の高さにより、同法を活用した電子化に踏み切る企業は少数であったが、2015年以降段階的な要件の緩和が行われ、対応に着手する企業は年々増加している。2020年12月に発表された令和3年度税制改正大綱では、同法のさらなる緩和が示されたところである。また電子署名法は、最近主流となっている電子契約の署名方式である立会人型電子署名について、内閣府の規制改革推進会議にて法的効力を認める答申が示され、法的効力に懐疑的であった企業に対し電子契約サービスの導入を後押ししている。

このように、近年のテクノロジー、法制度双方の急速な進展により、業務デジタル化の機運はますます高まっているといえる。

業務デジタル化実現に不可欠となる業務の見直し

では、業務デジタル化は、前述したようなテクノロジーを適用するだけで果たして実現するのだろうか。経費精算業務の一部プロセスを例に考えてみたい。

  1. 業務に必要な備品を現金で購入、領収書を受領
  2. 立替精算の申請書(EXCEL)を起票し、経費情報を入力
  3. チェックリストに従って申請内容を確認した後、領収書を添付した申請書とチェックリストに押印し、上長に回付
  4. 上長はチェックリストを用いて申請内容の確認を行った後、申請書とチェックリストに押印し、経理部門に送付

ここに、昨今導入が増えている経費精算ツールを導入してそのまま業務に適用した場合、以下のようなフローとなる。

  1. 業務に必要な備品を現金で購入、領収書を受領
  2. スマートフォンの経費精算アプリのカメラ機能で領収書を撮影(OCR機能で読み取られた経費情報は経費精算ツールへ自動反映)
  3. チェックリストに従って申請内容を確認した後、領収書を添付した申請書とチェックリストに押印し、上長に回付
  4. 上長はチェックリストを用いて申請内容の確認を行った後、申請書とチェックリストに押印し、経理部門に送付

経費精算ツールの導入によってプロセスが変更となったのは2.の経費情報の入力部分のみで、他のプロセスは変わらず紙、ハンコ、人手作業が残ったままとなっており、効果はかなり限定的である。ここで、(1)現金の廃止(法人カード等のキャッシュレス決済の活用)、(2)チェックリストの廃止(システムでの自動チェック)、(3)上長の確認箇所はシステムがアラート通知した箇所のみにするという業務の見直しを行った場合、以下のようなフローとなる。

  1. 業務に必要な備品を法人カードで購入、領収書を受領(経費情報(決済データ)はカード会社から経費精算ツールに自動連携)
  2. 経費精算ツールに反映された経費情報にエラーがないことを確認し、申請ボタンを押下(申請情報は上長に自動回付)
  3. 上長はアラート箇所がないことを確認し、承認ボタンを押下(申請情報は経理部門に自動回付)

以上のように、業務の見直しを行ったうえで経費精算ツールを導入することで、紙、ハンコがなくなり、人手作業も大幅に削減される。同時に、紙、ハンコを扱わないため場所を問わず処理を行うことができ、テレワークも可能となる。業務デジタル化とその目的である労働生産性の向上、そして環境変化に対応した次世代業務の確立の実現には、テクノロジーの適用と同時に業務の見直しが必要不可欠である。

業務デジタル化推進のポイント

業務デジタル化にあたっての業務の見直しの重要性を述べたが、推進面でも重要なポイントを述べておきたい。

まず1つが経営層の強いコミットである。業務デジタル化の実現には業務の大幅な見直しと変更が必要となるが、それを進めていくためにはトップダウンによる関係各部門や職員の危機意識および改革意識の共有、統一が不可欠である。すでに業務デジタル化で一定の成果を収めている企業では、トップ自ら改革の推進や新たなビジネスモデルの開拓に動いており、経営層のコミット度合いが成功に直結するといっても過言ではない。

業務の見直しに際しては、実際に対象となる業務に従事している職員の協力が不可欠であるが、職員のみでは現状のやり方やルールを根本から否定し切れず、またその思考が改善の障害となっていることに気づかないことが多く、結果として導き出される改善策も矮小化してしまう可能性がある。対象業務のシステム開発・保守事業者や、BPR手法等を用いた業務改革を得意とするコンサルティング事業者などの第三者の知見やノウハウを借りて推進していくことも有効だろう。

冒頭で述べた経営課題の解決のために、業務デジタル化に向けた取り組みは全ての企業が避けては通れない道である。各企業また社員各人が自分事として真正面から向き合い、取り組む覚悟が必要だ。

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