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化学物質アセスメントの視点で見る

脱炭素化のカギとなるCCUS技術

2021年12月13日 環境エネルギー第1部 青木 建樹

2020年10月に菅内閣総理大臣(当時)は2050年カーボンニュートラルを宣言し、「経済と環境の好循環」を作る産業政策であるグリーン成長戦略を実現することを明言した。この具体的な目標、現状の課題および今後の取り組みが「2050年カーボンニュートラルを伴うグリーン成長戦略*1」として取りまとめられた。

本戦略の目標達成には電力の脱炭素化が大前提とされており、再生可能エネルギーの導入拡大とともに「CO2の分離回収」が併設された火力発電も必要最小限で使用せざるを得ないとしている。また、「CO2の分離回収」を行ったうえで「貯留」または「利活用」する、いわゆる「CCUS技術」に期待が集まっている。CCUS技術は、国内ではまだ実証実験レベルではあるが、この10年のうちには導入されていくことが予想される*2

CCUS技術の導入に向けては、技術開発と並行して、この技術が気候変動の緩和に貢献する一方でほかの環境影響を生じさせないかを十分に確認していく必要があるだろう。たとえば、CO2の分離回収技術として化学吸収法は有力な技術だが、CO2吸収液成分や微量な分解生成物の一部には、人や生態系への影響が懸念される物質が含まれる可能性がある。そのため、NIPH(ノルウェー公衆衛生研究所)やNILU(ノルウェー大気研究所)などの海外機関では、排出される化学物質のリスク評価を行い、その結果、人や生態系に対する影響評価や排出抑制対策の重要性を指摘している。

このような諸外国の懸念を踏まえて、環境省では、CO2の分離回収時に環境中に微量に排出される化学物質(CO2吸収液成分など)が環境に与えるインパクトをあらかじめ事業者が評価し、低減する手法を開発するべく実証事業を実施している。この結果はリスク評価の事例集として取りまとめられることになっている*3。将来的には、この事例集を参考にして事業者が事業の計画段階で地域特性・設備の特徴に合わせたリスク評価を実施し、排出抑制対策別のリスク削減効果と費用に応じた対策オプションを選択できるようになると考えられる。

冒頭で述べたとおり、CCUS技術の普及拡大は脱炭素のカギになると期待されており、市場規模としても拡大していくことが見込まれる。他方、当該技術は前述のような化学物質を起因とするリスク評価に関する課題以外に、低コスト化や分離回収効率、回収したCO2の活用方法などの課題についても検討を行う必要がある。筆者は、CCUS技術がカーボンニュートラルに貢献するためにも、これらの多数の課題点を一つひとつクリアし、真に社会課題を解決する要素技術となることを期待する。

  1. *1https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html
  2. *2経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」
    (PDF/1,766KB)
  3. *3環境省 CCUSの早期社会実装会議(第3回) ※資料1-1-1、資料1-1-2、資料1-1-3
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