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国土交通データプラットフォームの整備とデータの利活用

建設業のデジタルツインの実現に向けて

2021年3月26日 サイエンスソリューション部 小坂部 和也

はじめに

デジタルツインとは、「コンピュータの中に、あるモノの実物相当を作ること」と言えるだろう。コンピュータの中でそれが今後どのようになるかを予測できれば、実際のモノについて、何らか課題に直面しても容易に解決する、最も良い成果を得るための条件がわかる、等の効果が期待できる。

建設業では国や自治体が多数のデータを保有していることが特徴で、国土交通省により近年デジタルツインに関するプロジェクトが立ち上げられている。ここでは、その代表的なものである国土交通プラットフォームの整備や、三次元の仮想都市モデルの構築を目指すProject “PLATEAU”の事例について紹介する。

多くのデータをつなぐ ―国土交通データプラットフォーム―

国土交通省においては、位置情報を含めた多種多様なデータを連携する試みとして、国土交通データプラットフォーム(以下、「国土交通DPF」)の整備計画を2019年5月に策定した*1。この計画では、国土交通省が保有するデータと民間等のデータを連携する、つまり多くのデータをつなぎ、デジタルツインにより業務の効率化や国土交通省の施策の高度化、産学官連携によるイノベーションの創出を目指すことを目的としている。将来、国土交通DPFが連携する対象データとしては国及び民間が保有する、国土、経済活動、自然現象に関する多種多様なデータが、整備する機能としては三次元データ視覚化機能、データハブ機能、情報発信機能が計画されている。

2020年4月には、橋梁、トンネル、ダム等のデータ8万件、地盤のボーリング等のデータ14万件を対象に、地図上での可視化、検索、ダウンロードに関する機能が実装され、ver 1.0として公開された。以降もデータが追加され、2021年2月にver 1.3が公開されている*2

国土交通DPFはブラウザで閲覧することができる。視覚的にわかりやすい構成であり、ユーザーは画面左側のパネルで自治体とデータ種類を選択すると、画面右側のパネルで地図情報と合わせて該当データを確認することができる。さらに、該当データのアイコンをクリックするとその詳細が表示される。橋梁データの場合の画面と遷移の例を図1に示す。画面中央に示すようにデータの概要が表示され、点検結果の画像が含まれるものであれば、ユーザーは画像をクリックして拡大して確認したり、データの保有先に移動したりすることもできる。

今後も国土交通DPFから連携するデータが増えるだけでなく、その間の接続機能が整備、改良される見込みであり、さらにユーザーの利便性が向上するものと期待される。

三次元の仮想都市を作る ―Project “PLATEAU”―

上述の国土交通DPFは、各機関が保有している多種多様な既存のデータに着目したものであり、共通のプラットフォームを介してユーザーがデータにアクセスしやすくなることで、業務の効率化や今後のイノベーションの創出を狙いとする取組である。次に、同じようにデジタルツインを目的とし、三次元の仮想都市を作ることにフォーカスしたプロジェクトを紹介したい。

コンピュータの中に三次元の都市を作るプロジェクトとしては、通称バーチャルシンガポール*3やバーチャルヘルシンキ*4と呼ばれるものが先行した事例として知られている。国内においても、2020年12月にProject “PLATEAU”(プラトー)*5が国土交通省から発表された。このプロジェクトは都市に特化したプロジェクトと言え、建物の形状、高さ等の三次元の形状データに、建物現況、土地利用現況等の情報を組み合わせて、三次元の都市モデルを構築するものである。

図2は、PLATEAU VIEW*6で千代田区の建物モデルを表示し、東京駅上空の視点から丸の内、皇居方面に向けた状態の画面である。建物が三次元で可視化されるだけでなく、一部はより詳細なデータ、例えば東京駅丸の内駅舎のドーム等も再現されていることがわかる。

Project “PLATEAU”では今後全国約50都市の三次元都市モデルの整備、ユースケースの事例等の公開やオープンデータ化を予定しており、都市モデルを活用した都市計画、まちづくり、防災、都市サービスの創出等を目指している。

おわりに データを合わせて使う ―データ利活用のための技術開発―

国土交通DPFやProject “PLATEAU”は、データへのアクセス性を向上させたり、モデルを作成してオープンにしたりする動きであるが、現時点においては、ユーザーがデータを可視化して、その可視化された結果を利用するような使い方が主である。少しずつ具体的なユースケースは出てきているものの、特に膨大なデータをどう入手して、どう利用するか、という観点でまだ課題があると言える。

この課題を解決する取組の1つを簡単に紹介したい。2019年に立ち上げられた「都市丸ごとのシミュレーション技術研究組合」では、データの検索、入手に用いるメタデータの自動作成技術や、データの自動変換、統合に関する技術開発を行っている*7。例えば、都市の地震のシミュレーションを行う場合、そのデータ作成を人間が手動で確実に行うには多大な工数を要するが、ある条件では自動化により従来の概ね半分程度まで作業時間を短縮できるようになっている。今後、このデータの自動変換、統合の技術開発だけでなく、国土交通DPFとの接続やデータの検索、入手も含めた自動化等により、作業時間が1/10以下となるような大幅な効率化が期待されている。

今回紹介したデータをつなぎ、作るプロジェクトがさらに進み、それを利用するという技術が確立され、様々なデータに適用できるようになれば、簡単に都市スケールの様々な現象がリアルタイムに予測できるようになるかもしれない。また、近年特に入手、活用がしやすくなった個人の位置情報との融合が進めば、いわゆるスマートシティやMaaSの分野で、さらに新しいサービスが出てくるかもしれない。今後も、このようなデータ作成や提供の枠組み、関連技術の進展に期待したい。

図1 国土交通DPFの画面と遷移の例(国土交通データプラットフォーム ver1.3 *2を基に作成)
図1


図2 PLATEAU VIEWの画面の例(PLATEAU VIEW Ver0.2.1 *6を基に作成)
図2


  1. *1https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000066.html
  2. *2https://www.mlit-data.jp/platform/
  3. *3https://www.nrf.gov.sg/programmes/virtual-singapore
  4. *4https://www.virtualhelsinki.fi/
  5. *5https://www.mlit.go.jp/plateau/
  6. *6https://plateauview.jp/
  7. *7全, 小坂部, 田嶋, 亀田, 大谷, 堀, “インフラデータプラットフォームでのデータ連携効率化のための基礎的研究”, 第2回「i-Constructionの推進に関するシンポジウム」, 2020.
  • *記載のURLは、本稿執筆時(2021年3月8日)に確認。

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