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越境学習体験記

企業の副業解禁が個人のキャリア形成にもたらすもの(前編)

2021年3月11日 社会政策コンサルティング部 福田 志織

「この仕事、手伝ってもらえたらうれしいです」

友人が新たに立ち上げようとしているビジネス構想を聞きながら、その理念の素晴らしさやサービスの面白さにわくわくしていたある日、思いがけずその友人から冒頭のお誘いをいただいた。筆者が属するみずほフィナンシャルグループで「副業」が認められるようになってから、数カ月が経った頃だった。

「やってみたい」と「わたしにできるかな」を行きつ戻りつしながらチャレンジしてみた副業の世界。本稿ではその体験談を一つの素材として、企業の副業解禁が社員「個人」のキャリア形成にもたらすものについて考えてみたい。

副業・兼業をめぐる機運の高まり

個人的な体験談をご紹介する前に、少しだけ「副業・兼業*1」をめぐる近年の社会動向を概観してみよう。2017年、政府の「働き方改革実現会議」による「働き方改革実行計画」において、副業・兼業が「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効」とポジティブに表現された。その後、経済産業省・中小企業庁や厚生労働省の研究会等で、副業・兼業等に関する今後の方向性の取りまとめや、ガイドラインの策定などが行われ、2018年1月には厚生労働省が公開しているモデル就業規則の改定*2へとつながった。いわば、産業政策と雇用政策の両面から、副業・兼業推進の議論が行われ、推進の方向性が明文化されてきたといえる。

また企業側でも、自社で雇用する社員が副業を行うことを容認・許可する動きや、逆に企業が外部の副業人材と業務委託契約を結んで仕事を依頼するケースが増加してきた。地方自治体も例外ではなく、山口県や神戸市など、行政が副業人材の公募を行う動きも生まれている。

副業解禁をめぐる企業のねらいとしては、社員が社外で得た経験やネットワークを将来的な企業競争力につなげる、社員のキャリア志向が多様化する中で個々のキャリア形成を支援する、また社外経験を志向する人材を自社につなぎとめるといったものがあるだろう。

社員個人のキャリア形成と副業

では実際に、どの程度の企業が副業を認めているのだろうか。当社が従業員数300名以上の企業を対象に実施したアンケート調査*3では、「副業を認めている」と回答した割合は38.7%に上った。一方で、実際に副業を実施している社員は「ほぼいない」が18.1%、「5%以下」が39.7%と、企業において副業を認める動きは広がってきているものの、実際に副業を行うのは一部の社員にとどまっている状況がうかがえる。(図表)


図1


副業をめぐっては、その法的な位置づけや労務管理の難しさ、社員の副業経験を送り出す企業の競争力にどうつなげていくか、受入れ企業はどのように外部人材の力を最大化していくか、といった広い論点があるが、本稿では冒頭に記載の通り、企業の副業解禁が社員「個人」のキャリア形成にもたらすものについて考えてみたい。

副業を通じて感じた2つのこと

筆者が属するみずほフィナンシャルグループでは、2019年10月より副業が解禁された*4。外部環境や社員の就業意識が変化する中、社内外で通用する専門性を培うべく発表された「新人事戦略」の一環として、勤務時間外に自ら業を営む形での「副業」が認められることになったのだ。

そのような中、たまたま冒頭のような経緯があり、友人が開設を準備していた「親子向けコミュニティスペース」(親子の遊び場、レンタルスペース)の経営企画やオペレーション設計、マーケティング等の業務を個人として請け負うことになった。当グループの「副業」は上述の通り勤務時間外に行うことが定められているため、副業に使う時間は本業と家事・育児以外の週に数時間程度だったが、オンライン会議でアイディア出しをしたり、様々な資料を作成・レビューしたり、週末には潜在顧客層を対象としたイベントを開催して反応を見たりと、事業立ち上げ期における多種多様な業務を経験させてもらった。副業にチャレンジする中で感じた利点は多くあり、ここで語り尽くせないが、自身のキャリア形成という観点では、[1]普段とは異なるタイプの業務に従事することで、スキルや経験の幅を広げることができたこと、[2]普段の業務で身につけているスキルや行動様式を相対化することできたこと、の2点が挙げられるだろう。

続く後編では、この2点について具体的な体験をご紹介しながら、本業とは異なる環境に身を置くことが、個人のキャリアや本業の仕事にどのような影響をもたらすかについて考えていきたい。

  1. *1「副業」と「兼業」は、いずれも本業以外の仕事で収入を得ることを意味し、二つの用語に明確な意味の違いはない。中小企業庁・経済産業省の発表資料等では「兼業・副業」、厚生労働省の資料等では「副業・兼業」と表記されているため、本稿においては、国の施策に関連する記述では「副業・兼業」という用語を用い、それ以外では「副業」に統一する。
  2. *2労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定が削除、副業・兼業についての規定が新設された
  3. *32021年2月上旬、インターネットモニター調査を実施。調査対象はモニター登録者のうち、[1]勤務先企業の業種が「農業、林業」「漁業」「鉱業、採石業、砂利採取業」「公務」以外、[2]勤務先企業の従業員数が300名以上、[3]人事業務を担当、[4]課長クラス以上、のすべてを満たす者300名。
  4. *4https://www.mizuho-fg.co.jp/company/structure/c_culture/index.html
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