ページの先頭です

「決定的な10年」の2年目が始まる

COP26「1.5℃目標」と今後の動き

2022年1月11日 環境エネルギー第2部 永井 祐介

近年、企業経営における気候変動問題の重要性がますます高まっている。特に昨年はCOP26に向け、国や企業の削減目標や取り組み強化、石炭火力に関する議論の高まり等のさまざまな動きがあった。今後を見通すうえで、COP26を理解することは重要である。そこで本稿では、COP26最大の注目点である「世界目標の強化」や「国別の目標・取り組み強化」の成果と、今後の動きについて紹介したい。

世界目標とは、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて何℃以内に抑えるか、そして世界の温室効果ガス排出をいつまでにどれだけ削減するか、ということである。2015年COP21で合意したパリ協定*1では気温上昇を「+2℃より十分に低く」するために、「21世紀後半に温室効果ガスの実質ゼロ(排出量と吸収量を同量にする)」という目標に合意した。それに対し、COP26のグラスゴー気候合意*2では「+1.5℃」に抑えるために、世界のCO2排出量を「2030年に2010年比45%削減」「2050年頃までに実質ゼロ」にする必要がある、と合意した。

この新目標を理解するうえで、COP26に向けてIEA(国際エネルギー機関)が発表したロードマップ*3が参考になる。そこでは、2050年までにCO2実質ゼロを実現するために必要な事項が、電力・熱、産業、運輸、建物等の分野ごとに示されている。具体的には、「先進国は2035年、世界全体では2040年に電力部門のCO2を実質ゼロ」「先進国は2030年、世界全体では2040年までにCCUS(CO2の回収・利用・貯留)を行わない石炭火力発電を段階的廃止」「2035年に内燃機関自動車の新規販売を終了」等が必要とされている。実質ゼロへの移行方法は国によって異なりうるが、「1.5℃」や「2030年に2010年比45%削減」とは、このような急激な変化が必要な目標であることを認識しておく必要がある。

COP26に向けて、各国は2030年目標を強化したが、その内容は世界目標に対して不十分であった。そこで今年のCOP27までに、各国はパリ協定の目標に整合するように必要に応じて目標を強化することとなった。そして、各国の2030年目標と取り組みの強化に向けた作業計画をCOP27で採択し、COP27から毎年ハイレベル閣僚会合を行うこととなった。つまり2030年目標や取り組みの強化は、今後も政治レベルで議論されることとなった。昨年同様、G7やG20等で2030年目標や石炭火力発電の扱いが議論されるだろう。COP26合意文書に盛り込まれた「排出削減対策が取られていない石炭火力発電*4の段階的削減」が、今後強化される(たとえば、「削減」を「廃止」に強化、年限を記載等)可能性もある。IEAロードマップ記載の各種事項(2035年に内燃機関販売終了等)を国際目標にしようという動きも強まるだろう。2022年G7の議長は、政権交代により気候変動対策にさらに積極的となったドイツ、2023年G7の議長は日本である。日本がすぐに目標強化をすることは考えにくいが、目標達成に向けた取り組み強化や、石炭火力発電の扱い等についてさらに踏み込むことが求められうる。

6年前、パリ協定が合意された際の筆者のコラムでは、「21世紀後半の開始まで、あと35年。皆さんのビジネスはどうなっているだろうか。」と書いた。今の世界の要求はそんな悠長なものではない。2020年代が「決定的な10年(critical decade)」なのである。この10年で、いかに早く太陽光や風力発電などの確立済み技術を大量導入し、実質ゼロに必要な蓄電池や水素等の技術開発・実証を進めるか。それが、気候危機を回避するためにも、実質ゼロへの社会変化の中で企業が勝ち抜くためにも、必要である。「決定的な10年」の2年目が始まった。今年の行動が、世界と企業の将来を決める。力み過ぎもダメだが、そんな気概で私も取り組んでいきたい。

  1. *1 パリ協定(PDF/4,300KB)
  2. *2 グラスゴー合意(PDF/135KB)
  3. *3 IEA グローバルエネルギー部門の2050年ネットゼロ・ロードマップ(PDF/4,800KB)
  4. *4「排出削減対策が取られていない(unabated)」石炭火力発電を削減、と聞くと、高効率なものやアンモニア混焼を行うものは対策を実施しているので削減の対象外と思う方もいるかもしれないが、そこは明確ではない。むしろ、IEAのネットゼロ・ロードマップでは、排出削減対策とはCCUSのことであり、CCUSなしの石炭火力について、先進国は2030年までに段階的廃止が必要とされている。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2021年6月
EUタクソノミーの最新動向と日本企業への影響
―今年公表予定のトランジション・ブラウン基準に要注意―
―『GPNコラム』 VOL.14(2021年6月9日発行)
2021年2月23日
移行ファイナンス元年始まる
―ICMAガイダンス解説―
『日経ESG』 2021年2月号
2020年12月23日
トランジションファイナンス
―企業の脱炭素戦略発信と資金調達の新手法―
ページの先頭へ