ページの先頭です

制度改革により何が変わったのか?

再エネ電力調達の最前線

2022年2月8日 環境エネルギー第2部 小林 将大

2020年10月の菅元首相による「カーボンニュートラル宣言」を皮切りに、国内企業においても温室効果ガス排出量の算定・削減を進める動きが加速している。その中でも再エネ電力調達は、基本的な排出削減対策の1つとして、多くの企業において検討・実施されているところである。

このような状況の中、資源エネルギー庁は電力需要家の再エネ電力へのアクセスを高めるために、2021年度に 2つの大きな制度改革を実施した。1つは非化石価値取引制度(非化石証書)*1の見直しであり、もう1つは発電事業者と電力需要家の直接電力取引契約(オフサイトコーポレートPPA)の解禁である。前者については、これまで膨大な供給量がありながらも電力需要家のニーズに応えられていなかった非化石証書を、“安く、質の高いものを、買いやすく”するよう見直したものである。

まず、「安く」という観点では、これまで1.3円/kWhであったFIT非化石証書の入札最低価格を0.3円/kWhに引き下げた*2。これにより、0.1円~0.3円/kWh前後である海外の再エネ電力証書とも遜色ない水準で、非化石証書が購入可能となった。次に、「質の高いものを」という観点では、これまで電源種や産地情報が付与されておらず、RE100*3においても基本利用が認められていなかった非化石証書の質を、産地情報等のトラッキングを実施することで向上させた。これにより、特に全量トラッキングが予定されているFIT非化石証書についてはRE100にも基本利用可能となると資源エネルギー庁は整理しており、質の面でグリーン電力証書など他の再エネ電力証書にも比肩するものとなった。最後に「買いやすく」という観点では、これまで直接購入できなかったFIT非化石証書を電力需要家が直接購入できるようにした。これにより、電力需要家が直接購入可能な再エネ電力証書の供給量は数十倍に拡大し、電力需要家の再エネ電力へのアクセスは格段に向上する見通しである。

では、今後の再エネ電力調達は、安く、質の高いものを、買いやすくなった非化石証書に任せておけばよいのかというと、そうではない。なぜなら、非化石証書による再エネ電力調達のハードルが下がったということは、「証書による再エネ電力調達」の価値が下がることを意味するためである。実際、RE100は2021年3月に公開した新たな基準文書*4の中で、需要家自らが電源への投資を行い再エネ発電設備を増やす「active approach」と、従来から存在する再エネ発電設備やFIT等の施策で導入された再エネ発電設備から調達する「passive approach」を区別し、RE100参加企業は前者に取り組むことを推奨している。再エネであれば何でもよい訳ではなく、新たな再エネ発電設備の設置につながる取り組みを評価する方向性を示しているのだ。

ここで重要となるのが、もう1つの制度改革であるオフサイトコーポレートPPAの解禁である。これまでは電気事業法上、発電事業者と需要家は直接電力取引契約を結ぶことができなかったが、自己託送制度*5の範囲拡大により、発電事業者と需要家の直接契約が可能となった。これにより、電力需要家が再エネ発電設備の設置に直接関与する形で、再エネ電力調達を実施することができるようになった。今後は同スキーム等を活用しながら、新たな電源投資につながる再エネ電力調達に取り組む企業が増加していくだろう。

非化石価値取引制度の見直しとオフサイトコーポレートPPAの解禁という2つの制度改革により、企業の再エネ電力調達環境は大きく変化した。これまで再エネ電力調達を実施してきた企業、また新たに再エネ電力調達を検討する企業のいずれにおいても、コストや評判等の観点から、自社の再エネ電力調達戦略を改めて見直す・検討することが重要である。

  1. *1電力系統に流入する電力の環境価値(非化石電源で発電されたという価値)を証書として取引できるようにしたもの。固定価格買取制度(FIT制度)を通じて国が買い取った電力の環境価値を証書化したFIT非化石証書と、FIT制度以外で電力系統に流入する電力の環境価値を証書化した非FIT非化石証書が存在する。
  2. *2なお、非FIT非化石証書については最低価格が0.6円/kWh、最高価格が1.3円/kWhに設定された。
  3. *3企業の事業運営における消費電力を再エネ100%にすることを目指すイニシアティブ。
  4. *4 RE100 TECHNICAL CRITERIA Version 3.0(2021年3月22日)(PDF/423KB)
  5. *5自社敷地外に設置した自社電源から、電力系統を介して再エネ電力を調達すること。今般の制度改革により、発電事業者と電力需要家が資本関係等を有する「密接な関係」でなくとも、共同で組合を設立することにより他社間での託送が可能となった。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2020年7月28日
脱炭素化に向けたサプライヤーとの協同
―サプライチェーンの強化を目指して―
ページの先頭へ