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5Gサービスの事業化を加速させるために

アプリケーション開発事業者が5Gビジネスに参入するべき3つの理由

2022年3月2日 経営・ITコンサルティング部 伊藤 新

5Gの現状

日本における5Gのインフラ環境は順調に整いつつある。大手通信キャリアが2020年春から商用5Gを開始した後から2022年現在に至るまで、そのカバーエリアは拡大してきた。さらに、2021年12月には、岸田首相が議長を務めるデジタル田園都市国家構想実現会議において、5Gの整備目標が引き上げられ、2023年度末に人口カバー率9割を目指すことも示された。また、通信キャリアの基地局だけでなく、端末の普及も加速している。実際、5G対応のスマートフォンは2020年春に比べて大幅に増加し、2022年現在はiPhoneを始めとした主要機種のほとんどが5G通信に対応している。

5Gを活用したサービス(5Gサービス)についても、「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」という3つの特徴を活かした、さまざまな実証実験が実施されている。高速大容量を活かせば4Gでは伝送できなかった高精細動画のリアルタイム伝送が可能となると期待され、たとえば、高精細カメラで撮影したスポーツイベントの映像にCGエフェクトを付加してライブ配信する実証実験などが行われている。また、低遅延や多数同時接続を活かした取り組みとしては、工場内の設備を遠隔から自動制御することを目指す実証実験などが試みられている。

しかし、このように5Gのインフラが整備され、多くの実証実験が行われているものの、5Gサービスの事業化という観点ではあまり進んでいないのではないだろうか。実際、5Gの取り組みを進めている事業者に課題を聞くと、5Gサービスの事業化の難しさを指摘する声は多く、また、5Gサービスの魅力を実感しているユーザーも多くはないと考えられる。

アプリケーション開発事業者が求められている

5Gサービスの事業化を加速させるには、法人や個人を含むより多くのユーザーに5Gサービスを訴求していく必要がある。そのためには、基地局等のインフラだけでなく、個々のユーザーが求めるアプリケーションを増やしていくことが重要であろう。

過去を振り返り、こうしたインフラとアプリケーションに関わるサービス普及の参考となる例として、スマートフォンの登場と普及が考えられる。スマートフォンというハード(インフラ)だけでなく、SNSからゲームまでの多種多様なジャンルのアプリケーション群があったからこそ現在のような普及に至っている。

そう考えると、5Gは政府等の支援や通信キャリア各社の投資によりインフラ側が先行している状態であり、リアルタイムで映像処理を行うシステムなど、5Gの特徴を活かしたアプリケーションを提供する事業者の参画が求められているのではないか。

5Gビジネス参入のメリット

こうした現状から、アプリケーション開発事業者の視点からも、5Gビジネスに参入するメリットが存在すると考えられる。それは、5Gビジネスに参入する際に、インフラ側、つまり通信キャリアから、技術開発、サービス販売、ブランド力の面でサポートを受けられるという点である。以下では、これらについて、具体的に述べていく。

(1)技術・製品開発の支援

第一に、通信キャリアが有する豊富な知見を用いて、自社のアプリケーションを開発することができる。これは、自社の既存技術からゼロベースで開発する必要はなく、通信キャリアの支援を受け、効率的に自社の新しいアプリケーションを開発できる可能性があることを意味する。

実際、通信キャリア各社は、5G向けのアプリケーション開発を支援するパートナープログラムを実施している。具体的には、NTTドコモの「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」、KDDIの「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」、ソフトバンクの「OneShip」、楽天モバイルの「楽天モバイルパートナープログラム」などがある。

5Gの特徴を活かしたアプリケーションを開発するには、5Gが有する実際の通信特性を確かめる必要がある。そのため、通信事業を行っていない企業が単独で行うのは容易ではない。このような中で、通信キャリアはテスト用の5G環境や無線ネットワークに関する知見を提供して開発をサポートする。たとえば、ある通信キャリアのパートナープログラムでは、スポーツスタジアムに設置された商用5G環境を活用しAR/VR等のアプリケーションの開発を支援している。

通信キャリア側からすると、このようなプログラムを通じて、競争力のあるアプリケーション開発事業者を見定め、その事業者との関係性を強固にしたいという企図もあるだろう。事業者は、通信キャリアによるサポートを十分に活用しつつも、自社の開発や事業展開の戦略を常に考慮して取り組む「したたかな関係づくり」が必要になってくる。

(2)サービス提供の支援

第二に、通信キャリアが有する顧客基盤や営業体制を用いて、自社のアプリケーションの販路を拡大することができる。通信キャリアは、自社の5Gインフラの付加価値向上のため、顧客にアプリケーションの提案を行いつつ営業を行うからである。

これは、通信キャリアが持つ莫大な個人・法人の顧客にアプローチできることを意味する。また、特に法人の場合を考えると、通信サービスは幅広い業種が利用しているため、これまで接触できていなかった業種・業界とのつながりを築けるだろう。加えて、通信キャリアは強固な営業体制により業種・業界ごとのニーズを把握しているため、アプリケーション開発事業者は自社単独では知り得なかったニーズにも気付くことができる可能性がある。

(3)ブランド力の向上

第三に、通信キャリアが有するブランドを活用して、自社の信頼を高めることができる。通信キャリアは全国展開を行っているため高い知名度があり、また、事業基盤が強固で高い信頼感がある。

通信キャリア各社の5Gネットワーク上で自社のアプリケーションを提供できるようになれば、各キャリアからのお墨付きを得られるので顧客からの信頼感も高まるだろう。


なお、あくまでも可能性の1つだが、さらなるメリットも存在し得る。アプリケーション開発事業者は、5Gビジネスに関する知見を蓄えた後に、特定エリアで専用の5G環境を構築できるローカル5Gの制度を活用できる可能性もある。自社で5Gの通信機器等を取り揃え、通信キャリアを補完する形で、自ら5Gサービスを提供する立場になるという選択肢もあり得るのだ。これらの選択肢も念頭に置きつつ、通信キャリアと柔軟に関係を構築できると戦略の幅を広げることができる。

アプリケーション開発事業者は5Gビジネスに参入するべき

このように、インフラ整備が先行している5Gビジネスにおいてはアプリケーション開発事業者の参画が求められている。通信キャリア側の思惑はあるものの、そのサポートを受けることでアプリケーション開発事業者はさまざまなメリットを享受できる。

不確実性が高まるビジネス環境の中では、多くの事業者に、既存ビジネス以外の新しい収益源である、新規ビジネス・サービスの創出が求められている。その中で、5Gビジネスは各社にとって、大きなチャンスといえるのではないだろうか。

多くのアプリケーション開発事業者が積極的に5Gビジネスに参入することで、5Gサービスの事業化が加速していくことを期待する。

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