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企業の「適応」の取り組みの推進

2022年3月14日 環境エネルギー第1部 高木かおり

「適応」をめぐる国内外の動向

英国グラスゴーで開催されたCOP26では、石炭火力発電や各国の排出目標などの「緩和」に関する議論だけでなく、すでに顕在化している気候変動の影響にどう「適応」していくかについても議論が行われた。採択されたグラスゴー気候合意の中でも、適応の対策・能力の強化に向けた行動の緊急性を呼びかけ、先進国が適応資金の拠出を強化することが決定した。

国内でも適応の議論は進められている。本年10月に改定された政府の気候変動適応計画では、農業や健康などの幅広い分野で適応策の拡充や、適応に関する施策の目標を新たに設定するなど、適応の取り組みを大きく前進させる内容となっている。

ここで、適応について改めて説明したい。「適応」とは、主に気候変動に伴う気温上昇や降水パターンの変化、異常気象の増加による気象災害や農作物への被害などの物理的影響を最小限に抑えることをいう。温室効果ガス排出量を削減する「緩和」を最大限実施しても一定の気候変動は避けられないことから、気候変動対策は、緩和に加え適応も同時に進めることが重要となっている。

TCFD提言と企業にとっての適応

世界経済金融安定理事会(FSB)が設置した気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(TCFD提言)は、企業に対して気候変動がもたらすリスクの定量分析および開示を推奨している。世界の投資家も、気候変動は企業活動に大きな影響を与えると認識しており、TCFD提言に沿った情報開示を企業に求めている。日本国内でも、大企業が中心となる東京証券取引所のプライム市場(2022年4月再編予定)では、上場企業に対してTCFD提言などの国際的な枠組みのもとで気候変動による事業や収益への影響に関する情報開示を要求することになっている。

気候変動が企業にもたらすリスクとはどのようものか。TCFD提言は、そのリスクを「移行リスク」と「物理的リスク」に分類している。移行リスクは、気候変動対応によって政策・規制、技術、市場動向、市場での評価などの変化が企業に与えるリスクである。これは、緩和の取り組みが進むことで発生するリスクである。物理的リスクは、気候変動に伴う異常気象や気温上昇などの現象が企業に与えるリスクである。物理的リスクは気候変動による気象の激化に伴う災害などのリスク(急性リスク)と、気温上昇や降水パターンの変化に伴う農業生産や調達地等の構造変化等のリスク(慢性リスク)に分けられる。この物理的リスクを回避・低減する取り組みが、まさに企業にとっての「適応」である。

現在、気候変動影響に関する研究は進んでおり、気候変動による農作物の収量や栽培適地の将来変化などが推計されている。これらの推計を用いることで、特に食品・飲料業界などでは自社の扱う原料について定量的な影響分析を行うことや、分析結果を踏まえて調達の多様化など具体的な適応策を検討することも可能になっている。

企業の適応策に期待される効果

近年、気候変動に起因すると思われる気象災害や農作物への被害が頻発している。また、将来において一定の気候変動が避けられないと予測されている。こうした状況の中で企業が自社の物理的リスクの把握とそのリスクへの適応策を検討することは、投資家等からの情報開示要求への対応につながると同時に、自社のビジネスの競争力強化にもつながるはずである。各社のこうした取り組みが、自社の事業活動の持続可能性を高めるとともに、それが社会全体の経済システムの安定にもつながることを期待したい。

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