大量導入を見据えたエネルギー回収・資源確保の課題
太陽光発電は持続可能な電源なのか
2022年3月31日 グローバルイノベーション&エネルギー部 高津 尚人
2021年10月22日に第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。今回のエネルギー基本計画では、2050年カーボンニュートラルの実現やエネルギーコストの低減に向けた取り組みなどのテーマが重点的に盛り込まれている。その中で、2030年度のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの発電量は36~38%であり、今後も太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーの導入促進が見込まれている中、太陽光発電が本当に持続可能な電源であるためには、製造から廃棄に至る一連のプロセスで投入されるエネルギーの回収性(製造から廃棄で投入したエネルギーを発電エネルギーで回収する考え方)や資源リサイクルの検証が必要である。
現在、市場で最も導入されている太陽電池の主要材料はシリコンである。高純度シリコンの精製は大量の電力を必要とするため、太陽電池の製造工程内でのシリコンのリサイクルは、資源・エネルギー消費の低減に一定の効果がある。高純度のシリコンの塊(インゴット)をスライスしたシリコンウェハ製造時には、3分の1程度のシリコンが損失するといわれている。この製造工程で発生するシリコン損失分を、再度溶融・インゴット化して再利用する場合、製造工程全体におけるエネルギー消費量は、通常と比較して、約11%低減できる。
他方で、一度製品として使用されたシリコンをリサイクルすることは、①製品からシリコンを取り出すために非常に高い技術レベルが求められること、②事業者の経済的メリットが少ないことから、現在商業的に行われている事例は極めて少ない。今後、シリコンのリサイクルを進めるには、発電素子(セル)からシリコンを抽出する技術の開発と制度的なインセンティブが望ましい。
太陽電池の表面カバーに使用されるガラスは、構成材料の中で最も重量が大きいため、ガラスそのものの製造時に消費するエネルギー量が大きい。そのため、既存製品からのリサイクルの実現は、エネルギー消費量を抑制するためのインパクトが非常に大きい。一方で、現在市場に流通している太陽電池は、セルとガラスを樹脂製品(EVA)で接着している。ガラスのリサイクルを効率的に行うためには、セルとガラスが分離しやすい太陽電池の開発・製造が求められる。現状、こうした開発事例は世界で数件しかなく、今後の研究開発に期待がかかる。
今後の太陽光発電の導入拡大を考える場合、シリコン・ガラス以外に金属材料にも注目すべきである。銅は、送配電インフラとしての電線や、電気自動車のモーター用途などの理由から、将来的に大きな需要増加が見込まれる。ただし、銅の国内リサイクル率は約4分の1程度と、他金属材料と比べて高い水準となっているが、今後の需要拡大を見込むと、リサイクル率の向上は必須である。また、銀も同様に、従来の利用用途に加えて、太陽光発電の導入によりさらなる需要が見込まれ、リサイクルへの取り組みの加速が、安定的な太陽電池の大量生産につながると考える。
そのほかにも、2030年から2050年にかけて、太陽電池の導入拡大で、レアメタル(特にガリウム、ゲルマニウム、インジウム、セレン、テルル)の需要量が増加することが見込まれており、希少金属であるこれらのリサイクルへの取り組みが必要である。インジウム、ガリウムは、2011年に経済産業省の審議会において、リサイクルの具体的方策の議論が見送られたものの、希少金属で海外依存度が高く、エネルギーセキュリティの観点も踏まえると、リサイクルに向けた動きが加速化されることを期待したい。
太陽光発電の製造段階における資源・エネルギー投入量の大幅な増加は、太陽光パネルの安定的な製造にブレーキがかかる可能性がある。今後の需要の拡大に伴う太陽光発電の大量導入を見据え、製造段階におけるエネルギー消費量を低減し、エネルギー回収性の向上に寄与する、シリコン、ガラスリサイクルのさらなる取り組みが重要である。また、銅、銀、レアメタル類の金属資源についても、安定的に大量生産を行うための資源確保の観点から、リサイクルの取り組みが必要不可欠である。
上記のような各資源のリサイクルに向けた具体的方策の確立により、太陽光発電が持続可能な電源として、真の意味での再生可能エネルギーの主力電源となり、カーボンニュートラルの世界が実現するのではないだろうか。
[参考文献]
- Life Cycle Inventories and Life Cycle Assessments of Photovoltaic Systems 2020(IEA PVPS Task 12: PV Sustainability, 2020)
- PVリユース・リサイクルに向けた検討 ―LCA分析とPVセルを対象とした簡易型性能評価手法の提案―(電力中央研究所、2019年6月)
- 銅ビジネスの変遷 ―2000年以降―(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、2018年3月[2018年12月一部改訂])
- Raw materials demand for wind and solar PV technologies in the transition towards a decarbonized energy system(JRC, 2020)