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「就業継続」実現のために

企業における女性活躍推進施策検討のヒント

2022年4月27日 社会政策コンサルティング部 渡邉 夏子

昇進昇格に限らない女性活躍推進施策

2020年の女性活躍推進法改正に伴い、企業は女性活躍推進施策に一層積極的に取り組み、かつその成果を公表していくことが求められている。常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、2020年6月以降、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」および「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の2区分から各1項目以上選択し、合計2項目以上の情報を公表することが義務化された*1。2022年4月からは、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主にも、上記2区分から合計1項目以上の公表義務が課せられている。

女性活躍推進施策は、採用や育成、昇進昇格といったキャリア形成に係る施策から、結婚や出産・育児、介護といったライフステージとの両立のための施策まで幅広く存在する。政府では「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取組を進める」とする目標が掲げられており*2、これまで多くの先行研究においても女性役員比率や女性管理職比率、昇進昇格の視点から女性活躍推進施策が論じられてきた。

しかし、実際働く女性にとっては、これらキャリア形成に係る施策のみならず、個人の希望する働き方で就業を継続していくための施策も不可欠であり、特に、従事する仕事の勤務形態、勤務時間などの特徴も、就業継続に影響を与える要素の1つと考えられる。一般に、女性は結婚や出産などに伴うライフステージの変化の影響を受けやすいと考えられている。そうした女性が仕事と家庭を両立しながら自分らしいライフコース*3を築き上げるためには、企業が女性役員や管理職比率の向上を目的とした施策だけでなく、女性自身が希望する形で働き続けられる環境整備を目的とした施策にも取り組んでいく必要がある。

そこで本稿では、女性を対象に当社が実施したアンケート結果を参照しながら、企業に求められる女性活躍推進施策を各業種における就業継続の観点から検討したい。

ライフステージの変化が女性の働き方に及ぼす影響

ライフステージの変化に伴う女性の働き方の変化について、その実態を把握すべく、当社は2021年12月に女性役員・正社員1000名を対象に「女性の働き方に関する調査」*4を実施した。調査結果によると、結婚を経験したことがある人のうち、結婚前と結婚直後(結婚後おおむね半年以内)の働き方を比較した際の変化について、「勤務先を変更した」と回答した人が13.7%と最も多く、次いで「勤務先を辞職した」と回答した人が12.9%であることが分かった(図表1)。

この結果を業種別に集計したところ、女性就業者数が多い「医療・福祉」においては、結婚時に「勤務先を変更した」割合が20.3%と、他業種と比較して特に高かった(図表2)*5。さらに、これを各業種の勤務形態の集計結果と照らし合わせると、医療・福祉は「シフト制」の割合が他業種と比べて高く(34.2%)、むしろ勤務する曜日や時間帯の面で比較的柔軟な働き方が可能とも推察され、必ずしも勤務時間等の面で負担の大きい働き方が、勤務先を変更した理由であるとはいえないと考えられる*6。特に、医療・福祉分野は有資格者が多くスキルの汎用性が高いことから、結婚を機とした異動や自発的転職に伴う人材の流動性も高いと考えられる。

勤務先の変更に至った理由は本調査結果のみでは限定できないものの、経営者からすれば、社員のライフステージの変化に伴う就業継続がいかに困難か推察される。だからこそ、当該人材の雇用・育成コストを考慮すると、社員にいかに勤務先として選ばれ、継続的に働いてもらえる職場環境を作っていけるかが鍵なのではないだろうか。

厚生労働省の調査によると、すでに医療・福祉分野の先行企業では、子の中学校入学まで利用可能な育児短時間勤務制度や事業所内保育施設の整備、横のつながりの形成を目的に社員同士で共同作業に取り組む研修など、勤務先として自社を選び、働き続けてもらうことを目的としたもう一段踏み込んだ取り組みが実践されている*7。これら取り組みは、企業内に在籍するさまざまな勤務形態の社員が仕事と家庭を両立しながら働き続けるための制度拡充の必要性や、企業規模が拡大する中、企業への帰属意識や社員同士のつながりを持つことの必要性など、各企業における就業継続の障壁となりうる要因を踏まえた施策となっている。当業種は、女性比率・管理職比率ともに高い一方で、慢性的な人手不足も課題とされている中、キャリア形成を目的とした取り組みのみならず、このような就業継続を目的とした取り組みも重要な役割を果たすだろう*8


図表1 結婚に伴う働き方の変化
図1

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)「女性の働き方に関する調査結果」


図表2 結婚に伴い「勤務先を変更」した割合(業種別)
図2

※本設問において30名以上の回答者数が確保できた業種のみ掲載。
出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)「女性の働き方に関する調査結果」

企業における女性活躍推進施策検討のヒント

企業に求められる女性活躍推進施策は、業種や職種に限らず各企業の規模や雇用状況、風土などの特徴によっても千差万別であり、一括りにして語ることは不可能である。他方で、例にあげた医療・福祉など人材の流動性が高い業種では、まずは各企業の経営陣が「社員それぞれのニーズや状況に応じた形で働き続けられる環境整備」に主眼を置き、就業継続を重要な経営課題として捉えていくことも重要だと考えられる。法定以上の期間で育児短時間勤務を認める制度や研修機会の提供といった、社員の定着を目的とした独自の施策に取り組むことは、企業自体の魅力となり、ひいては新規人材の採用にもつながるだろう。このように、まずは各業種・職種における就業継続の障壁となりうる要因を見極め、その克服を目的としたきめ細かい施策を検討し実行に移していくことが、女性自身の希望する多様な働き方を実現させる近道ではないだろうか。

  1. *1「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」とは、“採用した労働者に占める女性労働者の割合”“管理職に占める女性労働者の割合”など8項目。「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」とは、“男女の平均継続勤務年数の差異”“男女別の育児休業取得率”“労働者の一月当たりの平均残業時間”など7項目。
    厚生労働省 女性活躍推進法の改正:改正の概要(PDF/763KB)
  2. *2内閣府 第5次男女共同参画基本計画
  3. *3ライフコース研究の第一人者とされるエルダー(1978)は、「個人が年齢別の役割や出来事を経つつ辿る経路」と定義している。
  4. *42021年12月13日~15日にWebモニター調査を活用し実施。調査対象はモニター登録者のうち、役員または正社員(労働契約に期間の定めがない直接雇用の社員)の女性1000名。
  5. *52020年の総務省「労働力調査」によると、業種別の女性就業者数は「医療・福祉」が655万人と全業種の中で最も多い結果となった。また、本アンケートの回答者内訳においても、「医療・福祉」の就業者が260名と、全業種の中で最も多くの回答者数が得られた。
  6. *6回答者の現在の勤務形態を尋ね、その結果を業種別に集計したところ、「医療・福祉」においては、「固定時間制」(56.5%)に次いで「シフト制」の割合が高く(34.2%)、「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」に次いで「シフト制」の割合が高い業種であった。
  7. *7厚生労働省 女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集
  8. *8厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、2020年3月時点における「医師・薬剤師等」の有効求人倍率は4.40、「介護サービス」は3.43、「保健医療サービス」は2.95といずれも高い水準となっている。
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