ページの先頭です

ドローンによるプラント点検の動向

2022年3月10日 サイエンスソリューション部 三澤 文香

はじめに

近年産業インフラ点検において、ドローンの活用の具体化が進んでおり、国としても導入に向けて動いている最中である。平成30年度に石油コンビナート等災害防止3省連絡会議でガイドラインを発表し、プラントでのドローンの導入における留意点を示した*1。それに続き、令和2年度に経済産業省、総務省消防庁が、目視点検の代替として、ドローンが撮影した画像を活用できるようなルールの見直しを行い*2*3、令和3年度には厚生労働省においても同様の内容の周知を行ったところである*4

ドローンを導入する利点

この様にプラント点検におけるドローンの活用の幅が広がりつつあるが、そもそもドローンを導入する利点は以下の2点であると考える。

「点検の安全性の向上」
従来のプラントの目視点検ではタンク等の高所設備の場合は足場を組み、作業員が高所で作業をしていた。しかしドローンを活用することで、点検現場への移動を代替でき、作業員の危険作業を削減し、労働安全を高めることが可能となる。また、ドローンは気軽に飛行させることができ、日常的に人が目視できない危険箇所や角度からの点検も可能となるため、点検の頻度増加、範囲拡大といった観点からも安全性の向上に資するといえる。

「省力化・省人化」
ドローンの活用により、従来の人による点検の一部を代替できるため、足場、点検時間の削減をはじめとした省力化・省人化が期待できる。また、後述するが最新の技術を活用することで、完全無人でのドローンの運用も可能となりつつある状況である。

技術動向

ここまでは国の動向や活用のメリットを示したが、ドローンによるプラント点検に係る技術は目覚ましい発展を見せている。本コラムはその中から「機体の制御技術」「点検情報の取得技術」「画像処理技術」について取り上げたいと思う。

「機体の制御技術」
ドローンの機体性能は年々向上している。飛行時間や耐風性といった基本的な機能の向上に加え、飛行安定性の向上や各種センサーの搭載により、操縦の難易度が下がり、プラント事業者が自社でドローンを運用する事例も増えている。また、ドローンの運用自体の自律化も進められており、飛行ルートの作成から飛行、データ取得、解析、管理までを一括で自動化したツールも登場している。自律化が進むことで完全無人での点検も出来るようになるかもしれない。

「点検情報の取得技術」
可視光カメラを使い目視を代替するのが一般的なドローンによる点検であったが、様々なセンサーを搭載することで目視以上の情報の取得が可能となっている。その一例として、非破壊検査を行うUTドローンが挙げられる。従来の非破壊検査は作業員が測定地点で作業をする必要があったが、UTドローンの場合はドローンを測定点まで飛行させ、搭載している超音波プローブを測定点に当て測定を行うため作業員が出向く必要がなくなる。 その他には、サーモカメラの活用が挙げられる。熱を検知できるサーモカメラと可視光カメラを併用することで、目視点検に加えホットスポットの検知が可能となる。プラントには配管の断熱材やタンクの保温性等、発熱で異常を判断できる箇所が多数あるため、目視に熱の情報が加わることは、より高精度な点検に繋がる。また、赤外線カメラを搭載したドローンによる巡回点検も有効である。高所から俯瞰的に撮影が出来るドローンと暗所の撮影が可能な赤外線カメラを組み合わせることで、従来の巡回点検では不可能だった暗所、広範囲のデータを取得することができる。

「画像処理技術」
ドローンを活用することで大量の情報の取得が可能となるが、その処理技術についても注目がなされている。特にAIの活用は国によっても検討が進められている*5。AIを適切に活用することで、複数のセンサーデータをリアルタイムで分析し、微細な異常の兆候を発見したり、画像から均一の基準で損傷の状況を判断したりすることが可能となる。更には、静止画等を用いて解析結果を視覚的に理解しやすく出力することも出来る。AIの活用は点検の省力化に加え、俗人的でばらつきのあった点検結果や判断の平滑化も期待できる。 また、レーザー測量で作成していた設備の図面も、ドローンの位置情報等を付与した画像を処理することで作成が可能である。点検結果等のデータを作成したモデルと紐づけて保管することで、経年変化の確認も容易となり、より高度な保全が実現する。

今後の展望

現在、インフラ分野では、高度成長期に建設された設備の老朽化が進み、保全や補修が喫給の課題となっている。更には、人口減少による点検の担い手不足や作業員の高齢化といった問題も生じている。その様な状況の中で、ドローン、IoT、AI等の新技術を活用したスマート保安への期待は更に高まっていくだろう。
プラント点検へのドローン導入の動きはここ数年であるが、技術は急速に発展し、制度も整えられつつある。当社においても、官公庁の委託事業を受託しプラント点検へのドローン導入に係る取り組みに関わっているところである。ドローンを始めとする新技術の導入が進み、あらゆるモノがネットに繋がることで、今回紹介した点検作業の代替のみならず、プラント全体をデジタルで管理する等、更なる技術革新が期待され、我々もその一翼を担いたいと思っている。

ドローンを活用したフレアスタック点検の様子
https://www.terra-drone.net/blog/flare_inspection-2/ より引用。

【参考資料】

  1. *1プラントにおけるドローンの安全な運用方法 に関するガイドライン(2019年3月)
    (石油コンビナート等災害防止3省連絡会議)
  2. *2冷凍保安規則等の一部改正について(目視検査へのドローン活用)(経済産業省)
  3. *3「製造所等の定期点検に関する指導指針の整備について」の一部改正について(消防庁)
  4. *4「化学設備等定期自主検査指針」における目視検査の取り扱いについて(山梨労働局)
  5. *5石油・化学プラントのAIを活用したスマート化を促すため、ガイドラインと事例集を策定しました(経済産業省)
ページの先頭へ