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障害者自らも動き出した「合理的配慮」への理解促進に向けての動き

「合理的配慮」を広げるための取組み

2022年3月11日 社会政策コンサルティング部 田中 陽香

障害者の権利に関する条約を踏まえた「合理的配慮」の提供についての法制化

2013年6月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定され、2016年4月1日より施行された。この法律は、障害のある人への「不当な差別的取扱い」を禁止し、「合理的配慮」の提供を通じて、共生社会(その人らしさを認めながら共に生きる社会)の実現を目指すものである。同法律は、2006年12月に国連総会で採択され、その後、2014年に我が国も批准した「障害者の権利に関する条約」に対応するものである。同条約によると、「合理的配慮」は以下のように定義されている。

【障害者の権利に関する条約 第2条参考】
合理的配慮とは、障害のある人が、他の人と平等にすべての人権及び基本的自由を享有・行使するために必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされる ものでありもかつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの

障害者差別解消法に基づき、行政機関等及び事業者は、その事務・事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことが求められることになった。

同法律が求める具体的な取組みを進めるために、国は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」を定めた。具体的には、バリアフリー化や情報アクセシビリティの向上等の環境の整備、相談及び紛争の防止等のための体制整備、行政や企業における研修や地域住民も含めた啓発活動の実施、障害者差別解消支援地域協議会の設置、差別の解消に係る施策の推進に関する国内の具体例・裁判例等の収集・整理、提供を行うことが示されている。

障害者差別解消法の改正

施行から5年が経過した2021年5月、同法律は主に以下の4点について改正された。また、改正法の施行は、公布の日(同年6月4日)から起算して3年を超えない範囲内とされた。

(国と地方公共団体に対する事項)

  • 障害を理由とする差別解消推進に必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう国と地方公共団体の問の達携協力の義務化
  • 国及び地方公共団体への相談対応する人材の育成・確保の義務化
  • 地方公共団体への障害を理由とする差別解消のための取組に関する情報(事例等)の収集、整理及び提供の努力義務化

(事業者に対する事項)

  • 事業者による社会的障壁の除去の実施に係る必要かつ合理的な配慮の提供の義務化

同法律の改正にあたっては、法律制定時点での附帯事項として、当時より予定されていたことではあるが、事業者に対して、「合理的配慮」の提供が努力義務とした点が課題であることが指摘されている。つまり、不当な差別的取扱いの禁止については、国・地方公共団体、民間事業者全てが、法的義務を負っているものの、「合理的配慮」の提供については、国・地方公共団体には法的義務が課されているが、民間事業者は、努力義務であり、法律的な拘束力が弱いといえる。

実際、「合理的配慮」についての認知度は、依然として低い。昨年、東京都が行った調査では、回答者の7割弱は知らないという結果*1もあり、施行から5年が経過する現在においても社会全体に広がっていない状況にあると考えられる。

「合理的配慮」の認知度を高めるための取組み 社会福祉法人ふらっとの例

こうした状況に一石を投じるべく、一昨年、民間事業所が、公益財団法人みずほ福祉助成財団の社会福祉助成事業*2を活用して、「合理的配慮」に関する理解を促進するための動画を作成した。

島根県松江市に本部のある社会福祉法人ふらっとは、「誰もが活かしあう社会を目指して」を基本理念に掲げ、障害者の相談支援や就労支援を展開している法人である。同法人は、日頃の活動を通じて、障害当事者自身が、「合理的配慮」がどういったものか曖昧であること、また、当事者に対して「合理的配慮」のポイントについて理解を深める、知識を広めることを目指した活動が少ないことを感じていた。そこで、当事者が参加するワークショップ等を通じて、「合理的配慮」に関する事例を話し合い、専門家のサポートを得ながら、シナリオを作成し、当事者自らが出演する映像を制作した。

コロナ禍での撮影は、必ずしも企画通りに進めることができなかった点もあったが、完成した動画は、現在、YouTube上で公開されている。また、地元ケーブルテレビで放映された他、中学校、高校の授業で活用されたり、同法人への講演依頼が寄せられたりもしている。行政機関での職員研修などにも活用されているという。

図1

図2

本動画制作の責任者である、ふらっとの新田理事長によると、動画を作成した一番の効果は、「教育現場の中で動画が活用され、学生に「合理的配慮」について考える機会を持ってもらうことができたこと」であるという。

おわりに

前述のように、改正法により、2021年6月から3年以内、つまり2024年6月までに民間事業者に対しても、「合理的配慮」を提供することが義務付けられる。地方公共団体の中には、法律の改正に先立ち、既に条例において事業者の「合理的配慮」を義務付けているところも複数みられる*3。地方自治体の後押しにより、社会における認知度がさらに高まることで、今後「合理的配慮」の提供が加速度的に進んでいくと考えられる。その際、あらゆる領域において、官民連携により、当事者にとって真に意味のある「合理的配慮」の提供され、全ての人が互いの状況を理解し合い生活する共生社会が実現することに期待したい。

  1. *1東京都「令和3年度第4回インターネット都政モニターアンケート 東京都障害者差別解消条例等について」
  2. *2障がい児者の福祉向上のための先駆的・開拓的事業や研究に対して実施している助成事業であり、1年間あたり40施設ほどに助成をしている。助成事業の詳細についてはhttp://mizuhofukushi.la.coocan.jp/business/business01.html参照。
  3. *3内閣府「平成29年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書
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