デジタル化時代を制するための日本企業の変革の方向性
海外IT人材動向から読み解く:日本企業のデジタル化を担う優秀なIT人材の獲得に向けた提言(1/2)
- *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.97 (みずほ銀行、2018年6月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 チーフコンサルタント 桂本 真由
拡大する日本の「IT人材不足」
近年、わが国では、「IT人材不足」に対する危機感が高まっている。ITが我々の生活に浸透し、あらゆる領域におけるIT化が進んでいることや、IoT・AIなどの先端的な技術を活用したビジネスのデジタル化への注目が高まっていることにより、ITに関するニーズはますます拡大している。しかし、そのニーズを担う「IT人材」の供給が、ニーズの拡大に追いついていない状況にある。
経済産業省が2016年に公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」*1には、こうした状況が定量的に示されている(図表1)。同報告書によれば、わが国におけるIT人材不足は、2015年の約17万人から2030年には約79万人にまで徐々に拡大する可能性がある。2015年時点での実際のIT人材の規模が約92万人であることをふまえると、約79万人という不足の規模は、かなり大きいものであることがわかる。このIT人材不足は、今やITサービスの提供を専業とするIT関連企業だけではなく、ビジネスにおいてITを活用するあらゆる企業にとっての課題となりつつある。
図表1 2030年までのIT人材の需給予測
出所:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(みずほ情報総研委託)
日本のIT人材不足の背景 ―海外との比較調査結果から―
日本のIT人材の供給が追いつかない背景には何があるのか。1つは、構造的な問題である。わが国では、少子高齢化の進展により若年層の人口が減少し、新卒採用市場において各産業が優秀な新卒人材を奪い合う状況が続いている。また、好景気による“売り手市場”の継続が、この状況に拍車をかけている。冒頭に述べたITニーズの拡大とわが国が抱える構造的な問題が、IT人材の「量」の不足を生み出しているといえる。
もう1つの要因として以前から指摘されてきたのが、日本企業においてIT人材として活躍することの「魅力」である。特に世界を舞台に活躍できるような優秀な人材にとって、日本企業でIT人材として活躍することは十分に魅力的なのか。これが今まさに問われているのである。この問題は、IT人材の「質」の不足の背景にあるといえる。
同様の問題意識に基づく調査として、経済産業省の「IT人材に関する各国比較調査」の結果を紹介したい(図表2)*1。この結果からは、他国のIT人材と比較した日本のIT人材の課題の一端を読み取ることができる。
日本と海外のIT人材の違いとしてしばしば指摘されるのが「給与水準」である。特に、名だたる世界的なIT企業を生み出してきた米国では、IT人材の給与水準が高いというイメージが持たれている。確かに図表2(左)をみると、米国のIT人材の平均年収は1,200万円近くにあり、600万円付近の日本と約2倍近くの差がみられる。図表2(左)のほかの調査対象国と比較しても、米国のIT人材の平均年収は突出した水準にあることが読み取れる。さらに、図表3をみると、米国のIT人材は平均年収が高いばかりか、その分布の幅が広く、20代のうちから非常に高い年収を得られる可能性があることがわかる。
近年、日本の学校を卒業した優秀な新卒人材が米国のIT企業に就職する事例も聞かれるようになっているが、米国のIT企業の高い給与水準は、世界を舞台に活躍できるような優秀な人材にとって、非常に大きな“魅力”になっていると考えられる。
なお、IT人材にとっての“魅力”は、他国との比較における給与水準の高さに限らない。図表2(左)の横軸には、調査対象国のIT人材の平均年収が、その国の国内全産業の平均年収の何倍かが示されているが、この結果によれば、インドやインドネシアでは、IT人材の平均年収が、その国の全産業平均の約9~10倍にも達している。それに比べて日本では、IT人材の平均年収は全産業平均の2倍にも満たない。
米国ほどの高い水準ではなかったとしても、国内他産業よりもかなり高い年収が得られる場合、それは国内の優秀な人材をIT産業に引き寄せる大きな“魅力”になり得る。実際に図表2(右)をみると、他国と比べて年収水準が高い米国のほかにも、国内他産業と比べて年収水準が高いインドやインドネシアでは、「現在のITに関する仕事に“絶対に”就きたいと思っていた」という回答が6割を超えている。これらの国々では、ITに関する仕事に就くことを“切望していた”人材が多い、つまり、ITに関する仕事は“高い人気を誇る仕事”であり、国内の優秀な人材がIT関連の仕事に就いている可能性が高いと考えられる。
翻って日本では、「現在のITに関する仕事に“絶対に”就きたいと思っていた」という回答は1割にも満たな い。米国やアジアの多くの国々でみられるような世界的な“人気”が、日本のIT人材には残念ながらみられないのである。他国との比較という観点では、日本のIT人材の平均年収は、今回の調査対象国中、米国に続く第2位の地位にあり、著しく低いというわけではない。日本のIT人材に米国やアジアの国々のような“人気”がやや足りない原因としては、国内他産業と比較した給与水準が影響しているものと考えられる。
図表2 各国のIT人材の平均年収とIT関連の仕事の人気
出所:経済産業省「IT人材に関する各国比較調査」(みずほ情報総研委託)
図表3 米国と日本のIT人材の給与分布(年代別)
出所:経済産業省「IT人材に関する各国比較調査」(みずほ情報総研委託)
関連情報
この執筆者はこちらも執筆しています
- 2018年4月20日
- デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功に向けて
- ーDX時代の新スキル標準「ITSS+」ー
- デジタル時代のIT人材(1)