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製品含有化学物質管理の「再確認」(1/2)

  • *本稿は、『月刊化学物質管理』 2019年6月号(発行:情報機構)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 菅谷 隆夫

はじめに

製品含有化学物質に関する法規制対応や情報伝達の拡がりに伴って、サプライチェーンにおける製品含有化学物質の管理も広く普及してきている。今回、寄稿の機会をいただいたので、最近の動向もふまえて、製品含有化学物質管理の「再確認」という観点で、以下の内容について説明をする。

  1. 1.製品含有化学物質とは
  2. 2.製品含有化学物質を管理する
  3. 3.用語の確認として、化学品と成形品など
  4. 4.製品含有化学物質管理基準
  5. 5.製品含有化学物質に関わる法規制
  6. 6.製品含有化学物質管理におけるリスク
  7. 7.経営戦略としての製品含有化学物質管理

1. 製品含有化学物質とは

製品含有化学物質は、「製品中に含有されることが把握される化学物質」(製品含有化学物質管理-原則及び指針(JIS Z 7201:2017)、以下JIS Z 7201)1)と定義されるが、それだけではぴんとこないかもしれないので、単語ごとに確認してみる。

「製品」は、サプライチェーンに関わる組織が、その活動の結果として顧客などの別の組織に引き渡す「もの」を指す。ここではサービスを含まず、何らかの「もの」ということになる。後述の定義を踏まえると、別の組織に引き渡す「もの」とは、化学品と成形品のどちらかである。

「含有」は、文字通り、何かに含まれている状態を指すが、英語で“chemicals in products”と表記されるように、通常、製品中に存在していれば含有である。塗料や接着剤の成分でも、合金を構成する元素でも、化学結合なしに樹脂に混ぜ込まれた添加剤でも、まずは含有と考えて、漏れのないように管理する必要がある。ただし、厳密には、法規制によって定義が異なるところもあるので、管理基準を検討する際などには詳細の確認が必要である。

「化学物質」は、身の回りにあるもの全てが化学物質で構成されているので、もちろん「製品」も化学物質でできている。そうすると、製品含有化学物質は、化学物質の中の化学物質ということになってしまうが、ここで対象とすべき化学物質は、有害性が高いなどの理由によって法規制の対象となっているような、特定の化学物質と考えることができる。どのような化学物質を管理の対象とする必要があるかについては、製品分野や仕向け先となる国・地域、ビジネス上の対応などで異なる。

2. 製品含有化学物質を管理する

本稿で取り上げるのは、前述の製品含有化学物質を、組織として体系的・継続的に管理する「製品含有化学物質管理」である。

JIS Z 7201や製品含有化学物質管理ガイドライン(以下、管理ガイドライン)2)に示されているのが、狭義の製品含有化学物質管理(管理の仕組み)だとすると、一般的な広義の製品含有化学物質管理は、管理の仕組みと、組織が扱う製品に関する製品含有化学物質情報の授受からなると整理することができる(図表1参照)。

製品含有化学物質情報の授受と、管理の仕組みは、広義の製品含有化学物質管理を支える両輪であり、管理に基づかない製品含有化学物質情報は本来あり得ず、また、製品含有化学物質情報がなければ、製品含有化学物質管理も成り立たない。

これは、組織において製品含有化学物質管理を実践するアプローチともいえる。図表2の左からのアプローチは、まずはサプライヤから調達する製品の情報を集めて、自組織が供給する製品の情報を提供して法規制等に対応するやり方であり、右からのアプローチは、自社製品の製品含有化学物質を管理するために必要な仕組みを構築し、その中で、調達品の必要な情報をサプライヤから入手するやり方である。

それらは不可分のものであるが、製品含有化学物質の情報授受は伝達方法・書式によるところが大きいため、それぞれの伝達方法・書式に従って適切に行われるものとし、本稿では、サプライチェーンや製品分野が異なっても、共通的、あるいは普遍的と考えられる製品含有化学物質の「管理の仕組み」に焦点を合わせる。

実務においては、法規制や顧客への対応を優先せざるを得ない面はあるが、それらに追われるだけでは、適切に製品含有化学物質を扱うという認識・知識が高まりにくい。成形品を扱う事業者においても、常に化学物質を適正に使用し、製品含有化学物質を管理する意識を持ち、仕組みを作り、拡充していくことが重要である。

製品含有化学物質管理は、図表2のように、購買、製造、引き渡し(出荷)の各段階において、必要な確認を行うことが基本となる。製品含有化学物質の体系的な管理の詳細については、JIS Z 7201や管理ガイドラインを参照していただくこととし、ここではいくつかの事項を取り上げて、管理の仕組みのポイントについて再確認を行いたい。

図表1 組織における製品含有化学物質管理を支える情報伝達と管理の仕組み
図表1

図表2 組織における製品含有化学物質管理の仕組みのイメージ
図表2

3. 用語の確認として、化学品と成形品など

製品含有化学物質管理に関わる用語は、JIS Z 7201や管理ガイドラインの中で定義されている。ここでは、その中で特に重要となる用語について確認する。自社の事業内容や業態、化学物質との関わり方と結びつけて用語を理解することは、製品含有化学物質管理の基本となる。

○化学品(chemicals)
化学物質又は混合物

製品含有化学物質管理では、サプライチェーンで扱われる製品を、「化学品」と「成形品」に2つに大別して考えることが多くある。「化学品」は、化学物質と混合物を合わせたもので、成形品については次頁で説明する。

また、扱う製品に合わせてサプライチェーンを分けて化学品を扱う「川上」、主に成形品を扱う「川中」、「川下」と呼ぶことがある。

○化学物質(chemical substance)
天然に存在するか、又は任意の製造工程において得られる元素及びその化合物

CAS登録番号(CAS RN®)が付与された化学物質は約3000万種、そのうち工業的に生産されているものは約10万種などといわれるが、製品含有化学物質の管理対象として考慮されるべき化学物質は、サプライチェーンで実際に流通し、製品含有化学物質情報を授受することが必要となるものが対象となる。

○混合物(mixture)
2つ以上の化学物質を混合したもの

混合物の例として、塗料、インク、接着剤、合金のインゴット、はんだ、添加剤を含有する樹脂ペレットなどがあげられる。塗料や接着剤などは、直観的にも「混合物」として理解しやすいが、形状は固体である合金のインゴットやはんだ(使用前)も混合物に該当することに注意する必要がある。これらは通常、製造工程での使用時に一度、融解してから固化して成形品(部品)に変わるものであり、成形品としての管理では適切でない。

重要なことは、製品含有化学物質管理のために、どのような管理や情報授受が必要になるかを考えて、用語の意味を理解し、実際の管理において判断して行動することである。

○成形品(article)
製造中に与えられた特定の形状、外見又はデザインが、その化学組成の果たす機能よりも、最終使用の機能を大きく決定づけているもの

成形品の例として、金属の板材、歯車、集積回路、電気電子製品、輸送機器などがあげられる。

前述のインゴットや使用前のはんだ、樹脂ペレットなどは、固体なので成形品かどうか判断に迷うケースがあるかもしれないが、いずれも溶解して特定の用途に使用するものであり、外見やデザインよりも、その化学組成の方が重要な機能を有すると考えることができる。

○部品(part)
完成品に至るまでの成形品

○完成品(end product)
化学品及び/又は部品を組み合わせたり、加工したりして製造した最終の成形品。

変換工程によって製造され、供給される製品は成形品となる。成形品を説明や理解のためにさらに分類すると、部品と完成品となる。部品の例として、図表3のようなものがあげられる。

成形品の一部には、化学品が含まれる場合がある。“Guidance on requirements for substances in articles”3)には、機能に必要な物質または混合物を含む成形品の例として、液体を含む温度計、カーペット固定用粘着テープ、電池、検出管などがあげられている。また、成形品(容器または担体の材料として機能)と物質または混合物との組み合わせの例として、プリンタ・カートリッジ、プリンタ・リボン、ペイントスプレー缶、ウェットクリーニングワイプ、乾燥剤バッグなどがあげられている。前者は、EU REACH規則において、成形品としての責務、後者は、成形品と化学品の責務を負うことになる。潤滑油やグリスなどの潤滑剤、防錆剤・防食剤など、開放形で使用される化学品の管理にも留意する必要がある。

○製品(product)
組織が、その活動の結果として、顧客に引き渡す化学品、部品及び完成品

製品の包装に使用する包装材や保護材などもその製品の一部として扱われる場合がある。

自社の調達品及び供給する製品のそれぞれが化学品なのか、成形品なのか、具体的に確認することが必要である(図表4参照)。対応の必要な法規制が異なり、製品含有化学物質管理のポイントも違ってくる。製品含有化学物質情報も、化学品か成形品のいずれかに合わせた伝達方法や書式を用いて授受する必要がある。


図表3 部品・完成品の例
図表3

図表4 化学品と成形品
図表4


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