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中小企業にとってのSDGsビジネスチャンス

なぜ今SDGsなのか?

  • *本稿は、『カレントひろしま』2019年6月号(発行:一般財団法人ひろぎん経済研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 山本 麻紗子

はじめに

近年、企業の評価、企業価値の創造という文脈において、「SDGs」というキーワードが話題となっている。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2015年9月に国連サミットにおいて採択された国際目標である。2030年までを期限とし、貧困、エネルギー、成長・雇用、気候変動等、持続可能な社会の実現のための17の目標と169のターゲットから構成される。

なぜ今SDGsが企業に注目されているのか。本稿では、日本企業にとってSDGsが経営戦略上、重要な目標となりつつある背景と経緯を説明し、日本企業、特に中小企業がSDGsをどのように導入すべきかについて紹介する。

1.SDGsとは何か

(1)SDGsを巡る企業参入の背景

SDGsは、2015年に期限を迎えた国連の「MDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)」を前身としている。MDGsは開発途上国向けに設定された目標であったため、ODA(Official DevelopmentAssistance:政府開発援助)の実施主体である外務省以外の政府関係機関や民間企業にとっては国外の政策的課題と認識されており、関心が薄かった。

これに対し、SDGsは貧困、飢餓といった開発途上国に寄った課題だけでなく、気候変動、イノベーション、働きがい等、先進国の課題も内包する広範囲な目標である。

また、SDGsはすべての人々にとって「どういう状態になっているべきか」という成果目標である。つまり、SDGsは2030年の世界のあるべき未来を定義し、全世界が合意した未来像といえる。成果を達成するために、課題解決のためのソリューションの提供や実行のためのイノベーションが必要とされており、そこには大きな市場が潜在していると考えられている。

実際、2017年のダボス会議において、SDGsに関連する市場が12兆ドル、創出される雇用の規模が3億8千万人との推計が出されたことにより、経済界がSDGsにコミットする一つの契機となった。

(2)SDGsにおける17の目標の構成

包括的で捉えどころがないように思われるSDGsだが、17の目標の構成を見てみると、目標1~6で人間生活の基盤となる「持続的な社会を創出」し、目標7~12で「持続的な経済を創出」しつつ、目標13~15で社会・経済を取り巻く「環境を保護・育成する」という段階を踏んでいる。そして目標1~15を実行するために必要な手段として、目標16・17は平和・公正と関係者間の連携を掲げている(図表1)。

とはいえ、SDGsの目標は相互に関連しており、必ずしも何か一つの目標を達成して完結するものではない。例えば、都市ゴミ処理への取組は、目標11「住み続けられるまちづくりを」に該当するが、衛生環境整備という意味では、目標3「すべての人に健康と福祉を」や目標6「安全な水とトイレを世界中に」にも沿う。さらにバイオマス発電等のビジネスに繋げられれば、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」にも合致する多様な展開が想定される。このように、SDGsで掲げられた未来像の実現のためのニーズを探って行くと、ありとあらゆるSDGsビジネス展開の可能性が考えられる。

図表1 SDGs目標の構成
図表1

(出所)外務省「持続可能な開発のための2030アジェンダと日本の取組」をもとにカテゴリー分けはみずほ情報総研

2.中小企業にとってのSDGs

(1)日本企業のSDGs導入の現状

日本企業が経営目標にSDGsを取り入れる動きは、メーカーをはじめとする大企業を中心に広がっている。また、企業のSDGsへの取組が、企業価値や投資を呼び込む面で評価の対象になる等、事業を維持し、拡大していく上でもSDGsの必要性・重要性が高まっている。

経団連が会員(大企業等)向けに実施したアンケート(2018年7月)によると、SDGsの各目標に自社の事業活動を紐付けた企業の割合は約35%であり、検討中又は検討予定と回答した企業も併せると約80%に上った。

では、中小企業によるSDGsの認知度についてはどうか。関東経済産業局が500社を対象に実施した調査(2018年12月)によると、「SDGsについて全く知らない」と回答した企業は約84%と、中小企業へのSDGsの浸透は限定的であることがうかがえる。

(2)中小企業がSDGsに取組むメリット

SDGsの達成には、民間企業によるイノベーションや商品・サービスが必要とされており、日本の企業数の99%、従業員数でも約70%を占める中小企業に期待される役割は大きい。自社事業をSDGsの17の目標と結びつけることで、社会課題への対応のアピールになり、企業の信頼性の高まりや人材確保、従業員のモチベーション向上等が期待される。また、意思決定のスピードの速さ、柔軟性の高さや地域との密着性の高さ等の面から、中小企業にはSDGsに取組みやすい土壌があるといえる。

他方、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)や環境に関する専門の部門を持つ大企業とは異なり、中小企業がSDGsに取組む際に「マンパワーの不足」や「資金の不足」は大きな課題である。

これに対し、政府や自治体では、中小企業や地方企業のSDGs導入を促進する取組を行っている。例えば、金融庁は、地域金融機関が地元企業のニーズを捉えた付加価値の高いサービスを提供することで、安定した顧客基盤と収益を確保できると期待し、地域金融機関と地元企業との共通価値の創造に向けてSDGsが有効であると公言している。そのために、金融庁は、地域金融機関が地元企業のSDGsへの取組を適切に評価することや、それに基づく融資、本業支援を促進している。

(3)広島県の取組

広島県は、「SDGsの達成に向けて平和の活動を生み出す国際平和拠点ひろしまの取組を加速する~マルチステイクホルダー・パートナーシップによるSDGsの取組の強化~」を掲げている。2018年、内閣府はSDGs達成に向けた優れた取組を提案する「SDGs未来都市」(全29都市)に広島県を選定した。県が策定した「広島県SDGs未来都市計画」では、SDGsに取組む企業を発掘・表彰するビジネスコンテストや国内外のSDGs起業家とのビジネスマッチングイベントを開催する他、海外展開を目指す企業に対し、JICA中国センターと共同で「SDGs起業家育成プログラム」や「SDGsビジネス孵化(ふか)支援事業」を実施し、企業のSDGsへの取組を支援している。

3.SDGsのビジネス化

(1)企業の本業とSDGsの関係性

SDGsをビジネス化するにあたっては、企業の本業である事業価値の創造とSDGsとの関係性に着目する必要があるが、実はそれは全く新しい概念というわけではない。SDGsに先立ち、2000年代にCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)という概念がビジネス界に登場した。CSVはCSRを基礎とするが、事業価値が社会にとっての価値になると考え、より社会価値や市場における競争優位性に着目する点でCSRとは異なる。他方、CSVに基づく戦略こそが企業の次なる成長の推進力とされることから、CSVとSDGsはビジネスチャンスを社会価値と事業価値から見出すという視点で親和性が高い。

(2)SDGsの導入ステップ

SDGs導入のステップは、大きく分けて3つある(図表2)。第一段階は、自社の競争優位になる専門性やリソース・資源といった自社の強みをSDGsと紐付けて確認する。第二段階では、SWOT分析をはじめとする、企業にとっておなじみの分析によってビジネスチャンスを洗い出し中長期的な視点で事業計画の中にSDGsを取り入れる。第三段階として、SDGsの達成に貢献するような自社商品・サービスを提示するという段階に至る。現状として、日本においては第一段階の既存の自社事業とSDGsを紐付けているに留まる企業が多い。今後、中長期的な視点でSDGsを取り入れ、より強くSDGsへコミットしていくことが企業に期待される。

図表2 SDGsをビジネス化するステップ
図表2

(出所)国連SDGsコンパスをもとにみずほ情報総研作成

おわりに

SDGsに取り組もうとしている企業の中には、CSRと同様、SDGsを「コスト」として捉えているケースもあるが、SDGsは様々なマーケットで新たな事業機会を生み出す「ビジネスチャンス」と言える。

また、品質を重視し、確実に事業を遂行し、地域コミュニティを重視することは日本企業の美点でもあり、これらが投資インパクトの大きさにも繋がっており、SDGsが目指す未来像との親和性が高い。SDGsビジネスへの参入を促進するためには、自社の理念・戦略や既存事業とSDGsとの紐付けのみならず、新規事業を立ち上げる段階において、SDGsを達成することを念頭に事業を設計するべきであろう。

SDGsの目標から想定される課題、それに対するソリューションとなる商品・サービスは何かを洗い出し、SDGsビジネスのコンセプトを策定、それに基づくSDGsビジネスモデルを検討することで、日本企業が新たなビジネスチャンスを見出し、社会課題の解決に貢献することが可能となると期待される。

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