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製品・サービスによるGHG削減貢献の必要性と最新動向(1/2)

  • *本稿は、『電機』 No.802 (一般社団法人日本電機工業会、2019年1月28日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 岡田 晃幸、内田 裕之、古島 康

1. はじめに

製品・サービスの普及が社会全体の温室効果ガス(GHG)排出量の削減に資する量を定量化する「削減貢献量(Avoided Emissions)」について、電機・電子、ITサービス、鉄鋼、化学などの産業分野を中心に、例えば国際化学工業協会が2009年に事例集を発行するなど、2010年前後よりその算定が活発化している。2010年代の前半には電機・電子業界をはじめ、いくつかの業界で算定方法のガイドラインが開発・公開されてきたが、2018年になり、経済産業省は国内製品・サービスによる海外における貢献を評価する仕組みとして「グローバル・バリューチェーン(GVC)貢献量」のガイドラインを公開、また一般社団法人 日本経済団体連合会(以下、経団連)は「グローバル・バリューチェーン(GVC)貢献量」の事例集を公開するなど、その動きが国内の全業界へと拡大している。

この動きは日本だけではない。例えばフランスでは、企業が製品・サービスによるCO2排出削減の取組みを開示することを推奨しており、そのためのガイドラインをADEME(フランスエネルギー管理庁)が作成・公開している。経済産業省、経団連、ADEMEはこの12月に行われるCOP24の公式サイドイベントで活動内容を紹介するなど、削減貢献量に関する取組みが国際的な動きとなってきている。

他方で、削減貢献量の不適切な開示について警鐘を鳴らす団体もある。Scope1,2,3などGHG排出量算定方法のグローバルスタンダードを多く開発しているGHGプロトコルの運営機関である米国World Resource Institute(世界資源研究所。以下、WRI)は、独自に行った調査の結果を基にスタンダード開発を行うことが困難であるという結論に至ったと発表した。また、日本LCA学会では、学会としてのガイドラインを作成し、国際的な普及活動を行っている一方で、世界の有識者へアンケートを行ったところ、削減貢献量の算定・コミュニケーションに根強い反対があることが判明した。WRIや日本LCA学会は、削減貢献量の算定には総論として賛成の声が多い一方で、コミュニケーションに注意することが重要であるとしている。

本稿では、削減貢献量に関して、その必要性、概要、最新の動向とともに、世界の有識者が考えている技術的懸念の一部を紹介する。

2.削減貢献量の必要性と概要

2.1 削減貢献量の必要性

(1)バリューチェーンにおける削減の必要性

企業が提供する製品・サービスは、その製造や使用など、ライフサイクルの各段階を通じ、自社工場・オフィス等の範囲だけではなく、世界全体に張り巡らされたバリューチェーンの活動に関与している。その活動に伴ってGHGも排出されるため、世界全体のバリューチェーンの中でGHGも排出されていることになる(図1)。

すでに多くの企業がLCAやScope3などの手法で、バリューチェーン上のGHG排出量の把握を進めている。Scope3の排出量は、多くの企業が環境データなどで開示しているが、その結果、自社工場・オフィスの排出であるScope1、Scope2に比べてScope3の排出量の大きい企業が多い。すなわち、社会全体のGHG排出量を効率的に削減するためには、バリューチェーン上の排出量で削減を考えていくことが重要であると言える。

図1 バリューチェーン全体での排出量
図1


(2)削減貢献量という指標

バリューチェーン上のGHG排出量を削減することは、製品ライフサイクルを通じてより社会全体の削減となる製品・サービスを生み出すことである(図2の新製品[1]と[2]を比べれば、気候変動対策の側面からは[2]を開発すべき)。そのためには、図2のように自社の製品・サービスのライフサイクルを通じた排出量を定量的に把握し、既存の製品と比較して削減となっているかどうかを把握することが必要である。「削減貢献量(Avoided Emissions)」は、このライフサイクルを通じた削減(図2の従来製品と新製品の差分)を定量的に把握した指標である(削減貢献に関するライフサイクルの範囲については、「2.2 削減貢献量の概要」も参照のこと)。

Scope3の排出量が企業バリューチェーン全体の「排出実態」を把握する指標であるのに対し、削減貢献量は製品・サービスがライフサイクルを通じて発揮する便益(削減効果)を把握する指標である。言い換えれば、Scope3基準排出量は、企業の気候変動リスクに対する備えであり、その削減は自社活動の抑制につながるのに対し、削減貢献量は自社製品・サービスを気候変動対策が必要とされる市場へと売り出すための製品開発やイノベーションの方向性に示唆をもたらすなど、自社活動の拡大を促す指標と言える(表)。

図2 製品ライフサイクルを通じたGHGの削減
図2

製品[1]よりも製品[2]を普及させた方が工場生産時のCO2排出量は増えるが、社会全体のCO2はより削減される

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表 Scope3 基準排出量と削減貢献量の関係
Scope3
基準排出量
  • 企業活動に関連するバリューチェーン全体の排出量を把握する指標
  • 排出量の削減は、企業活動の抑制につながる
削減貢献量
  • 製品やサービスの普及が社会全体の排出を回避することを示す指標
  • 削減貢献量を増加させることで、自社活動の拡大につながる
  • 今後の製品開発・イノベーションの方向性を示唆する

2.2 削減貢献量の概要

削減貢献量については、電機・電子製品、ITサービスをはじめ、鉄鋼、化学などの業界で算定が行われ、業界ごとに国際的なガイドラインが示されている。2015年には日本LCA学会が学術団体としてガイドラインを示し、2018年には経済産業省もガイドラインを作成している。これらのガイドラインで、削減貢献量の定義は、それぞれわずかに異なっているが、共通した考え方の特徴は以下の通りと考えられる。

  1. [1]原則として製品・サービスのライフサイクルを排出量の算定範囲*とする。
  2. [2]評価する製品・サービスがなかった場合をベースラインと設定し、ベースラインからの削減量を算定する。
  3. [3]製品・サービス1単位当たりの評価ではなく、社会全体に普及している、あるいは普及するであろう数量に対して算定が行われる。
  4. [4]時間的な概念について明確な取決めはない(目的に従ってどのような時間軸で捉えても良いと理解できる)。
  • *素材や部品などの中間製品の場合には、その中間製品が組み込まれる最終製品の使用段階までを含む評価も多い(通常のライフサイクルの評価やScope3などでは、最終製品の使用段階を含めないケースが多い)。

算定プロセスはおおよそ図3のとおりである。加えて、貢献量には、その結果を自社製品や部品のバリューチェーン上の利害関係者と、その「寄与度」に応じて配分するという概念が存在する。しかし、寄与度の考慮は利害関係者間での合意形成などの面で難易度が高いこともあり、各ガイドラインでも定量的な設定を義務化しているものは今のところない。

図3 削減貢献量の算定手順
図3

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