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製品・サービスによるGHG削減貢献の必要性と最新動向(2/2)

  • *本稿は、『電機』 No.802 (一般社団法人日本電機工業会、2019年1月28日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 岡田 晃幸、内田 裕之、古島 康

3.最新動向

3.1 経済産業省/経団連

(1)経済産業省によるガイドラインの公開

削減貢献量については、一部の産業界でこれまでガイドラインや事例の整理を行ってきた。主な国際的ガイドラインとしては、電機・電子製品に関するIEC TR62726(2014年)、ITサービスのITU-T L.1410(2015年改訂)、化学のAvoiding Greenhouse Gas Emissions TheEssential Role of Chemicals(2017年改訂)などが挙げられる。これに対して日本の経済産業省は、2017年12月よりグローバル・バリューチェーン貢献研究会を開催し、2018年3月に「温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン」*1を公開した。このガイドラインは、業界ガイドラインの上位文書として、フレームワークを示したものとなっている。

(2)COP24サイドイベントの開催と、経団連コンセプトブック

経済産業省は、2018年12月のCOP24において、公式サイドイベント“Progressive Practices on QuantifyingAvoided Emissions”を開催した。このイベントでは、経済産業省よりガイドラインの基本的な考え方が説明された。また、共催する経団連からは国内産業界の活動が説明された。このほか、ADEMEが作成したガイドライン*2やそれに基づいた事例の紹介、国内外の企業による事例紹介が行われた。経団連は、このCOP24にも合わせ、削減貢献量のコンセプトブック『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献-民間企業による新たな温暖化対策の視点-』*3を英文・和文の2言語で公開した。このコンセプトブックでは、削減貢献量に取り組む必要性の解説とともに、国内の17組織から27の事例が取りまとめられている。

3.2 海外の動向

海外では、前述のようにADEMEが2016年にガイドラインを公開している。このガイドラインは産業界の要望に基づいて作成されたものである。また、フランス民間企業の集まりであるEpE(Enterprises pourl’environnment)が、主に適切なコミュニケーションの観点からガイドラインと企業による事例を取りまとめた文書を公開している。また、WRIは、日本LCA学会主催「講演と討論会『温室効果ガスの削減貢献量』」(2018年2月)の講演で、330以上の企業が削減貢献量の結果を開示、CDPデータでも70%の企業が削減貢献量に資する製品を保有していることを発表している。この他にも、2018年1月のグローバル・バリューチェーン貢献研究会では、世界の七つの事例が挙げられており、電機業界からはSIEMENS社の事例などが記載されている。

3.3 情報開示取組みにおける取扱い(CDP、TCFD)

(1)CDP気候変動質問書における取扱い

企業へのアンケートを基に、世界の主要企業の気候変動対策に関する情報開示や組織内のガバナンスを評価するCDPでは、気候変動質問書に、企業が「低炭素もしくは削減貢献に資する製品を保有しているか」という設問を用意している。設問は、「目標とパフォーマンス」の1設問となっており、企業が製品レベルで貢献量の目標設定、パフォーマンスの把握を行っているかどうかが問われる。この設問は、2017年度までは採点されることがなく、回答内容は評価に影響しなかったが、2018年度から採点対象となっている。

(2)TCFDにおける取扱い

企業の適切な気候変動関連の情報開示に関して、金融セクターが検討を行うために設立された気候変動関連財務情報タスクフォース(TCFD)(G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請で設立)は2017年6月に、タスクフォースとしての情報開示への提案となる最終報告書を公開している。報告書では、削減貢献量が「全ライフサイクルを通して回避されるGHG排出量」と称されており、企業が気候変動対策のリスクと機会を管理するための指標の一つとして明記されている。

4.技術的懸念の紹介

以上のように国際的な活動が行われている削減貢献量ではあるが、その一方で手法に対する懸念も挙げられている。WRIは運動の広がりを認識しつつ、他方で多くの利害関係者のコンセンサスを得ることが難しいという理由から、スタンダードなどの作成を行う予定がないことを示している。例えばベースラインの設定方法やバリューチェーンパートナーとの貢献量の配分などは、結果の正確性や信用性において重要であるが、コンセンサスを得ることは難しいとしている。

5.まとめ

削減貢献量は「削減」をアピールする指標であるため、不適切なコミュニケーションに基づく誤解が懸念されることから、技術的な課題にも注目が集まっている。その一方で、企業の情報開示の在り方の中では、貢献量が企業の市場獲得機会につながる指標として推奨されている。経済産業省、経団連やADEMEなどによるガイドライン・事例集の公開は、企業の削減貢献量把握の活動を後押しする存在になると考えられる。他方で、事例が増えつつある現状において、その信用性を担保するため、算定の堅牢性を高めるルール・仕組みの検討が求められる。

参考文献

  1. *1経済産業省「温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン」(2018年3月)
    (PDF/449KB)(2018年12月13日現在)
  2. *2ADEME “Quantifying the impact of an emission reduction action on GHGS - Methodological guide, version 2”(2016年)
    (PDF/2,170KB)(2018年12月13日現在)
  3. *3日本経済団体連合会『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献-民間企業による新たな温暖化対策の視点-』(2018年11月)
    (PDF/20,910KB)(2018年12月13日現在)
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