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「多様な働き方」と「公正・公平な処遇制度」をセットで考える

働きやすく、働きがいのある職場づくり

  • *本稿は、『かながわ働き方改革ワーク・ライフ・バランスコラム』(神奈川県、2018年12月21日)に掲載されたものを、同県の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 小曽根 由実

「働き方改革」は、長時間労働の是正だけではない

「働き方改革」と聞くと、長時間労働の是正をイメージされる方が多いのではないでしょうか。読者の皆さんの勤務先でも、ノー残業デーの設定などの早帰り推進に向けた取組が行われているかもしれません。

「働き方改革関連法」と聞くといかがでしょうか。「関連法」という点がポイントです。2018年6月に成立した同法は、時間外労働の上限規制(*1)、有給休暇取得の義務化(*2)、勤務間インターバル制度の普及促進(*3)といった「長時間労働の是正」を目的とした法律のみならず、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」を目的とした法律など、一連の法律のことを指します。

後者については「同一労働同一賃金」という言葉が先行している向きもありますが、厚生労働省のホームページでは「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取組を通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにします」と記されています(*4)

「多様な働き方」の導入は、人材の確保・定着に寄与する

労働者の働き方に対するニーズは「フルタイムの正社員として働きたいけれど、家庭の事情があって難しい」「地元を離れたくないので、転勤の可能性がある正社員にはなれない」など様々です。

少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少するなかで企業が持続的に成長・発展していくためには、必要な量・質の人材を確保し、確保した人材のモチベーションの維持・向上を通じて定着を促進させなければなりません。結果として企業は、正社員として働きたい方のニーズも鑑みながら働き方の選択肢を増やす、すなわち、多様な働き方を導入するようになってきました。

たとえば、上記のニーズを満たす働き方の選択肢には「短時間勤務の正社員」「特定の地域の事業所間でしか異動の可能性がない正社員」といった、「労働時間、勤務地、仕事の範囲の1つあるいは複数に限定がある正社員としての働き方=限定正社員区分」があります。実際、限定正社員区分を導入した企業は「人材の定着率が高まった」「人材の採用がしやすくなった」といったメリットを感じていることが明らかになっています(*5)

「働きがいのある職場」をつくる

他方、「夢を実現させることが最優先なので、アルバイトとして働きたい」というニーズもあります。コンビニエンスストアや外食業など、パート・アルバイト等の非正社員が主力として活躍している、言い換えれば、非正社員がいないと「事業がまわらない」業態も多数みられます。

しかしながら、非正社員の賃金水準は正社員と比較して低いケースが少なくありません。そのため「正社員と同じ仕事をしているのに時給が低いので、もう辞めたい」という非正社員の嘆き、「新しくオープンするショッピングモールのスタッフの時給は自社の時給よりもだいぶ高いので、そちらに簡単に転職してしまう」といった企業人事担当者の悩みを、筆者は数多く聞いてきました。非正社員が自身の時給額に納得していないものと推察されます。

企業にとって人材の確保・定着が喫緊の課題であることはこれまでみてきたとおりであり、企業には多様な働き方の導入に加えて「非正社員にとって働きがいのある職場」をつくる必要があるのです。

「公正・公平な処遇の実現」により、社員の納得感を高める

では、そのような職場はどのような職場でしょうか。答えの一つとなるのが「雇用形態にかかわらない公正な待遇が確保された職場」なのです。

法律上は「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消」と示されていますが、筆者は「正社員・限定正社員・非正社員等の社員区分(雇用形態)を問わず、働く方すべてに対して公正・公平な処遇が実現している職場」と、より広い概念で捉えた方が望ましいと考えています(*6)。正社員と非正社員の間に加え、正社員と限定正社員の間等にも限定の内容や度合いに応じた処遇、すなわち、同じ内容・同じ責任の範囲の仕事を担っている、異動等の範囲が等しいのであれば誰もが同水準の処遇、異なるのであればその相違度合いに応じた処遇が実現していることが望まれます。このような職場は、正社員・限定正社員・非正社員といったすべての社員区分間で公正・公平さが担保されたバランスがよい処遇が実現しており、各社員の自身の処遇に対する納得感が高まるでしょう。

したがって、「多様な働き方」の導入に当たっては、それと同時に、公正・公平な処遇を実現する人事制度の設計が不可欠です。これが、非正社員のみならずすべての社員にとって「働きやすく、働きがいのある職場」の一つの条件となるのです。

注釈

  1. *1一部職種を除き、時間外労働の上限を原則として月45時間、年360時間とするもの。
  2. *2使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者に、そのうち5日を取得させなければならない。
  3. *3事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない
  4. *4https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html(2018年12月21日アクセス)
  5. *5独立行政法人労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査)」(2018年9月)
  6. *6みずほ情報総研「多様な人材が活躍できる働き方改革に関する研究会」報告書(2018年10月)
    →ここでは、正社員・限定正社員・フルタイム非正社員・パートタイム非正社員・嘱託社員(定年後再雇用者)の5つの社員区分のうち、とりわけ基本給体系を見直すべきは「役職レベルの仕事を担当するフルタイム非正社員」「役職レベルの仕事を担当する嘱託社員」「パートタイム非正社員」である旨が把握された。
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