ページの先頭です

REBC報告 再生可能エネルギーの大量普及に対応するP2P電力取引、その種類と課題(1/2)

  • *本稿は、『PVTECニュース』 2019年7月号(発行:太陽光発電技術研究組合)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 チーフコンサルタント 並河 昌平

1. はじめに

本稿は、PVTECが受託された経済産業省事業「平成30年度再エネ電力のブロックチェーンを用いた取引スキームに関する標準化調査」を元に、議論された内容や得られた知見について概要を報告するものである。本事業活動では、ビジネスモデルや標準化の可能性等、様々な切り口で議論がされたが、ここでは本事業活動の背景とP2P(Peer to peer)電力取引の種類、課題を中心に報告する。P2P電力取引は、需要家(需要家端末)の間で電力取引を行うスキームのことである。

2.本事業活動の背景

2.1.再生可能エネルギーの普及がもたらす課題と対応

世界的な再生可能エネルギーの発電コスト低下、さらにはESG(環境・社会・ガバナンス)投資、企業のRE100への取り組みを中心とした再生可能エネルギーへの投資の加速を背景に、再生可能エネルギーが今後世界的に主要な電源となる方向にあることはご承知のとおりである。国内では特にFIT(Feed-in-Tariff)制度下で太陽光発電をはじめとするDER(分散型電源:Distributed Energy Resources)の導入が大幅に進んできた。これら再生可能エネルギーが普及していく状況下で、主に2つの課題が出ている。

(1)電力取引に関わる課題

1点目は、より直近の課題であるが、電力取引に係わる課題である。住宅太陽光発電の普及に伴い、企業しか参加していなかった電力取引の世界に、いわゆる「プロシューマー(電気の消費者=電気の生産者)」という新しいステークホルダーが出現している。これまで、「プロシューマー」は、FIT制度下のもと、発電した太陽光発電の余剰電力を「固定価格」で小売電気事業者または送配電事業者に自動的に非常に高い価格で買い取ってもらっていた。しかしながら、FIT制度下の買取期間が終了した後は、各自が余剰電力の販売先を検討する必要が出てきたのである。2019年11月以降、国内で初めてFIT制度下の買取期間が終了する住宅用太陽光発電が大量に出現し始める。具体的には、2023年までに累積で約165万件、670万kWにも達する。

この対応として、一般的には「小売電気事業者」が提示する価格で、FIT制度下での買取期間が終了した太陽光発電の余剰電力は買い取られる。この価格は小売電気事業者によっても異なるがおおよそ8円/kWh程度となっており、これまで非常に高い価格で買い取ってもらっていたプロシューマーにとっては低い価格と言わざるを得ない。

一方で、デジタル技術を活用し、ものやサービスを個人間で効率的に売買するP2P取引サービスが国内外で台頭しており、同じような考え方を住宅用太陽光発電の余剰電力の売買に適応したP2P電力取引サービスが展開される可能性が出てきている。P2P電力取引サービスではプロシューマーは太陽光発電の余剰電力をより高く販売でき、電力の消費者は太陽光発電の余剰電力をより安く購入できる可能性がある。

(2)電力システムの安定性に係わる課題

2点目は、より中長期的な課題であるが、電力システムの安定性に係る課題である。電力システムを安定して稼動するためには時間断面で電力の需要量と供給量を同量にする(需給をバランスさせる)ことが必要である。一部の電力エリアでは、日中に火力発電等の他電源の出力を抑えてもなお、エリア需要量を越えるだけの太陽光発電の発電量が発生し、需給をバランスさせるために太陽光発電の出力抑制が実施される事例も出てきた。また、住宅太陽光発電の所有者である「プロシューマー」の増加により、電力システムの下流に位置する需要家からの配電網への逆潮流が増加している。今後大量に太陽光発電が導入されると、配電網の不安定化をもたらす可能性も出てきている。

この課題については、電力の市場化とデジタル化を通じて、一部取り組みが進められている。図2-1にDERの普及レベルと電力の市場化とデジタル化の推移を示す。DERとは分散型電源のことであり、ここでは、配電レベルに設置されている再生可能エネルギーや、需要家に設置されている蓄電池(EV等の蓄電池も含む)等を指す。

DERの普及レベルが低いStage1では、電力エリア内での時間断面の再生可能エネルギーの発電量がエリア需要より過多となるケースはそれほど多くなく、送配電事業者からの出力抑制による対応や、各再生可能エネルギー発電事業者が保有している蓄電池等のエネルギー貯蔵装置を活用し、再生可能エネルギーの電力を時間シフトさせて使用する考え方が導入されてきた。

さらにDER普及レベルが高くなるStage2では、再生可能エネルギーによる系統への影響をより低減させるため、送配電網の需給等の状況に合わせてDERを広くエリアで群制御することで系統安定化を図るアグリゲーション事業が導入されようとしている。国内においては2021年から順次需給調整市場が立ち上がり、その中でアグリゲーション事業が活躍することが期待されている。現在はエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会が経済産業省と関連企業により組成されており、アグリゲーションに関する実証研究とビジネス開発が進められている。

DERが相当普及するStage3においては、配電レベル下の再生可能エネルギーや住宅用太陽光発電、蓄電池(EV等の蓄電池も含む)など、DERの数が限りなく増え、これらのDERが時間単位で電力取引を行うことになる。これらのDERを全てアグリゲーション事業の中で制御して運用し、取引価格を決めて決済していくことには限界がある。このため、Stage3では、多種多様のDERや需要家が自立的に需給バランスしながら取引し決済する電力取引が必要になる可能性がある。このような議論は、既に昔から予想され議論されてきた。1981年にMITのF. C. Schweppeらが提唱した「ホメオスタティック・コントロール」が、電力配電網の不安定化に対する対策として提案したのが最初で、以来多くの議論が行われ、今日の「トランザクティブ・エナジー」や「P2P電力取引」のスキームが形作られてきた。

図2-1 電力の市場化とデジタル化の推移
図1

2.2.再生可能エネルギーの大量普及に対応するP2P電力取引

2.1で示したとおり、再生可能エネルギーの普及がもたらす課題への対応では、「P2P電力取引」が鍵となる可能性がある。既にこの動きは国内や、英国、米国、オーストラリア、東南アジア等の世界中で現れており、P2P電力取引スキームを活用した小規模プロジェクトや再生可能エネルギーの環境価値取引プロジェクト等が実証段階にある。また、この時期と同じくして「ブロックチェーン」技術が新たなデジタルテクノロジーとして期待されており、この技術を使用することで、自立的で低コストのP2P電力取引の具体的実現が検討されているところである。これらの背景から本事業では、主にブロックチェーン技術を活用した「P2P電力取引」について議論を実施した。

以降の項目では、本事業で調査した国内外の様々なP2P電力取引の事例をもとに「P2P電力取引」を類型化するとともに、「P2P電力取引」の課題について概要を説明する。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2019年2月
分散型エネルギー社会におけるブロックチェーン技術
『太陽エネルギー』 Vol.44 No.6 (2018年11月30日発行)
ページの先頭へ