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REBC報告 再生可能エネルギーの大量普及に対応するP2P電力取引、その種類と課題(2/2)

  • *本稿は、『PVTECニュース』 2019年7月号(発行:太陽光発電技術研究組合)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 チーフコンサルタント 並河 昌平

3.P2P電力取引の類型

「P2P電力取引」には、様々な形態がある。取引のタイミングを軸に分類したP2P電力取引の3つの種類について、概要を説明する。

[1] 出なりP2P電力取引(実績マッチング)

出なりP2P電力取引は、小売電気事業者を始めとして、国内外で比較的多くの企業が検討している方法である。特に国内では「2.1(1)電力取引に係わる課題」で述べたように、2019年11月以降から発生するFIT制度卒業の太陽光発電余剰電力のP2P電力取引に活用される可能性がある。

このスキームは、スマートメーターで計測した小売電気事業者の顧客である各需要家の買電量、売電量(太陽光発電の逆潮流)の「実績値」をもとに、「後付け」でP2P電力取引を実施するものである。需要家やプロシューマーの需要量や発電量を制御しない「出なり」の電力を取引するスキームとなる。スマートメーターのみで実現が可能であり、後の2つのスキームと比較すると実現に向けたハードルが少ない。国内では主に旧一般電気事業者(小売電気事業部門)などがこの方法での実証を実施、検討していると見られる。また、需要家に時間ごとに消費する電力がどの契約先の電源なのか(再生可能エネルギーなのか)を表示する「見える化」にこの方法を活用している小売電気事業者も出てきている。

[2] 直接P2P電力取引(制御あり)

直接P2P電力取引は、主に新規参入企業が中長期的な視野をもって検討を開始しているスキームである。「2.1(2)電力システムの安定性に係わる課題」のStage3に対応するものであり、再生可能エネルギーを含むDERが大量に導入される時代における次世代電力システムの可能性としても考えられる。

[1]出なりP2P電力取引では、実需給の後に実績マッチングするのに対して、[2]直接P2電力取引では実需給の前に「P2P電力取引市場」において事前に取引し約定する。具体的には、スマートエージェントと呼ばれる各需要家に設置される機器等で予測した各需要家の発電量、需要量等の「予測値」をもとに、スマートエージェントが需要家の設定等に基づき、P2P電力取引市場において事前に需要家間で「直接」電力を取引する。実需給時には、この取引結果にできるだけ合致するように、各需要家の蓄電池や太陽光発電、需要機器等が自動的に制御され、同時同量(インバランス)が達成される仕組みである。なお自動機器制御は実施せずに、同時同量が達成されない場合には小売電気事業者側でインバランスを担う方法も考えられる。直接P2P電力取引の実証を実施している企業はまだ世界でも限られており、国内ではデジタルグリッド社が電力取引プラットフォームを構築して浦和美園実証事業を行っている。

[3] 潮流込み直接P2P電力取引(配電潮流を考慮)

これも[2]直接P2P電力取引と同じく「2.1(2)電力システムの安定性に係わる課題」のStage3に対応するものである。需要家の電気料金のみならず、配電システムの合理的な運用のためにP2P電力取引を活用しようというものである。欧米ではDSO(Distribution System Operator)、国内では特に送配電事業者の配電部門が関心を持っていると見られる。

具体的には、[2]直接P2P電力取引においては、「電力料金」のみが取引対象とされていたが、[3]潮流込み直接P2P電力取引では、取引間の配電における潮流混雑状況を考慮した「託送料金」も含めてP2P電力取引を行う。近距離取引や混雑していない配電を使用する場合は託送料金が低減するなど配電使用の最適化が実現可能となる。一般的には、「トランザクティブ・エナジー」という概念に含まれており、配電システムやそれを運用するDSOと連携した取り組みが必要となる。米国では「トランザクティブ・エナジー」のコンセプトのもと、TeMIX(RATES:Retail Automated Transactive Energyプロジェクト)が実証をしている。

以上を整理し、P2P電力取引の種類ごとの概要と取引イメージを図3-1に示す。

図3-1 P2P 電力取引の種類
図2

4.P2P電力取引の課題

ここでは前項で示したP2P電力取引の種類ごとに、特徴的なメリットおよび事業面、制度面、技術面からみた課題を述べる。

(1)出なりP2P電力取引における課題

[1]出なりP2P電力取引は、ハードウェアの観点からはスマートメーターでも実現が可能なため、課題は残りの2つのスキームと比べると比較的少ないと言える。また、小売電気事業者のメニューの一つの選択肢として、太陽光発電の余剰電力を買い手がより安く、売り手はより高く販売できるプラットフォームをいち早く作ることで、同社の既存顧客の囲い込みや新規顧客獲得につなげることができる。このため、旧一般電気事業者(小売電気事業部門)を含む小売電気事業者を中心に取り組む企業が増える可能性があり、事業面での課題は少ないと言える。制度面については、小売電気事業者が当該事業を行うのであればP2P電力取引は実施可能との整理案が2019年5月に開催された資源エネルギー庁の「第7回次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」で議論されたところである。一方、技術面については、ブロックチェーン技術を使用した取引の管理などシステム面の検証が必要となるため、各企業が実証研究を進めているところである。

(2)直接P2P電力取引、潮流込み直接P2P電力取引における課題

[2]直接P2P電力取引、[3]潮流込み直接P2P電力取引は、ハードウェアの観点からはスマートエージェント等の新たな機器の導入が必要となり課題が多い。一方、実現することで、電力の直接的なP2Pの取引が可能になる他、需要家レベルで電力需給を調整することでインバランス発生の抑制も期待できる。さらに、この考え方をエリア全体に拡張すると、将来DERが大量に普及した場合の次世代電力システムとしての機能を持つ可能性も考えられる。また、[3]潮流込み直接P2P電力取引では配電潮流管理システムとの連携が必要になり、さらに実現のハードルがあがるが、今後DERが主要電源となり、需要家からの逆潮流の急増に対応する新しい配電システムとして、今後想定される配電網増強のためのコストの最適化や抑制につなげられる可能性もある。

これら2つのスキームに共通する事業面の課題として、ユーザーメリットの明確化、収益モデルの確立がある。従来の小売電気事業者の電力販売による事業モデルではなく、様々な顧客データを活用したUX(user experience)事業の展開やP2P電力取引のプラットフォーム運用によるマージンビジネスが想定されるが、競争力を持って実現できるかは現時点では不透明である。また[3]潮流込み直接P2P電力取引については、配電システム運用者であるDSOの新しい事業モデルとしても考えられる。

制度面の課題では、直接P2P電力取引を想定した法制度の整備が不可欠である。電力市場、電力システムの整備とともに、電気事業法等の改訂が必要である。特に直接P2P電力取引ではスマートエージェント等を介した取引など取引形態が多様化するため、これに対応した計量法の整備(従来スマートメーター以外の機器への対応)が求められる。加えて競争力のある直接P2P電力取引を実現するためには、託送料金を含む託送制度の整備が極めて重要である。隣の需要家とのP2P電力取引に際し、従来の特高から低圧への送配電システムを全て利用した高い託送料金を課すのではなく、実際に利用する配電システム相応の託送料金を課すなどの検討が必要となる。

技術面では、直接P2P電力取引を実現するブロックチェーンプラットフォームのコストダウンを実現する技術開発が重要である。直接P2P電力取引において、リアルタイムで取引情報を処理することを想定する場合、特に取引量のスケール拡大に伴うパフォーマンス低下、コストアップを低減するブロックチェーン技術の開発が求められる。また、直接P2P電力取引に様々なDERや需要家が自由に参加できるためには、スマートエージェント等とDER、需要家機器とのインターフェースの標準化が必要となる。また、これは各社の競争領域となるが、AI技術や様々なユーザーデータとの連携をして、P2P電力取引市場に参加する需要家の需要量、発電量の予測を如何に精度高く行い、効率的な電力取引につなげられるかが鍵となる。

5.最後に

本稿では、再生可能エネルギーの普及による課題を解決する新たな再生可能エネルギー取引のスキームとして「P2P電力取引」についてその類型と課題を整理した。

[1]出なりP2P電力取引は小売電気事業者を中心に今後各社競争の中で自発的に取り組みが進む可能性がある。[2]直接P2P電力取引や[3]潮流込み直接P2P電力取引のモデルについては、先進的な技術が必要であり課題も多いが、我が国の電力分野において競争力ある新産業育成の可能性の観点から検討をしておくべき分野でもある。一方で直接P2P電力取引は電力システム自体に密接に関わるものであり、再生可能エネルギーの大量普及を前提とした将来の電力システムの方向性を検討する中で、詳細な検証が必要である。具体的には、DER普及に伴って必要な将来の電力システム全体のコスト(将来必要な調整力(予備力)とそれに係るコスト、配電設備増強に係るコスト等)が、直接P2P電力導入によって効率化できる可能性、さらには直接P2P電力取引市場における電力料金に係る需要家保護の観点、配電潮流管理と直接P2P電力取引システムを接続する場合の電力安定供給、セキュリティの観点等、様々な視点から政府と民間企業、送配電事業者が連携して詳細な検討がされる必要があると考える。

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