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科学と政治のギャップのはざまで産業界はいかに動くか

マイクロプラスチック問題を俯瞰する(2/2)

  • *本稿は、『産業洗浄』 No.24(日本産業洗浄協議会、2019年10月1日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第1部 鍋谷 佳希

4.政治的視点

―G20における政府決定と国際枠組の策定―

一方、政治的視点では、科学的根拠の解明を待たずして先進国が一斉に走り出している。我が国においても、2019年6月15~16日に長野県軽井沢町で開催された「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」で海洋プラスチックごみ問題に関する以下3点が政府決定(表2)された。その概要とマイクロプラスチックに関する項目を紹介する。


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表2. G20関係閣僚会議での海洋プラスチックごみに関する3つの政府決定
[1] プラスチック資源循環戦略*3
[2] 海洋漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針の変更*4
[3] 海洋プラスチックごみ対策アクションプラン*5

1 プラスチック資源循環戦略

プラスチックの資源循環を総合的に推進するための方針であり、3R+Renewableを基本原則とし、重点戦略として以下(表3)を掲げている。


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表3. 重点戦略*6
I   プラスチック資源循環
II  海洋プラスチック対策
III 国際展開
IV  基盤整備

マイクロプラスチックに関しては、「2020年までにスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底」「海洋流出の防止」「地球規模のモニタリング・研究ネットワークの構築」「生態系への影響に関する調査の推進」等が掲げられている。2018年のG7において、日本は米国と共に「海洋プラスチック憲章」の署名を見送りマスコミ等から痛烈な批判を浴びる結果となったが、「プラスチック資源循環戦略」では、「海洋プラスチック憲章」よりも厳しいマイルストーンを掲げたことは、汚名返上のための日本政府の強気の一手と言えるであろう。

2 海洋漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針の変更

昨年6月の海岸漂着物処理推進法の改正を踏まえ、政府は以下の基本方針(表4)を新たに加えた。

マイクロプラスチックに関しては、「スクラブ製品中のマイクロビーズの削減徹底、使用抑制」等、プラスチック資源循環戦略と同様の内容が掲げられている。マイクロプラスチックの使用抑制を盛り込んだ法律は同法が国内初であり、今後の具体的な運用に注目したい。


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表4. 基本方針*7
I   海岸漂着物等の円滑な処理
II  海岸漂着物等の効果的な発生抑制
III 多様な主体の適切な役割分担と連携の確保
IV  国際連携の確保及び国際協力の推進
V   その他対策に必要な事項

3 海洋プラスチックごみ対策アクションプラン

「海洋プラスチックごみ問題も経済成長の一要因であり、イノベーションにより問題を解決していく」という考えの下、環境省を筆頭に関係各省が具体的な取り組みを以下(表5)のようにまとめている。


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表5. 具体的な取組*8
I    廃棄物処理制度による回収・適正処理の徹底
II   ポイ捨て・不法投棄、非意図的な海洋流出の防止
III  陸域での散乱ごみの回収
IV   海洋に流出したごみの回収
V    代替素材の開発・転換等のイノベーション
VI   関係者の連携協働
VII  途上国等における対策促進のための国際貢献
VIII 実態把握・科学的知見の集積

マイクロプラスチックに関しては、「途上国におけるモニタリング技術の強化」、「人や生態系への影響調査」、「河川における採取・分析の方法」等が掲げられている。本アクションプランは、3年サイクルで見直し、新たな汚染を生み出さない世界の実現を目指している。

また、この関係閣僚会合では、海洋プラスチックごみに関する初の国際枠組「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が策定された。具体的な数値目標こそ設定されなかったものの、年に1回は各国の取り組みの進捗を報告することになっており、世界共通の問題認識を持つと言う点では一定の成果を挙げたのではないだろうか。今後は、各国が互いに監視し合うことにより、海洋プラスチックごみ対策についての一定のインセンティブが働くことになる。また、2019年6月28~29日に行われた「G20大阪サミット」では、新たな海洋プラスチック汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪・ブルー・オーシャン・ビジョン」も各国に共有された。

以上のように、先進国は待ったなしで自国の政策や国際的な枠組みを制定し始めている。この流れは今後も止まらない可能性が高いだろう。

5 最後に

―産業界の取るべき行動―

G20のサミットでその話題が取り上げられるなど、マイクロプラスチックの問題は、今や地球温暖化と同様に、国際政治問題化しつつある。しかし、その科学的根拠を紐解いていくと、実は不明確な点が非常に多いことが分かる。まさに、科学と政治には大きなギャップがあり、今後このギャップが更に拡大していく可能性は否めない。しかし、国際政治問題として先進国が一斉に走り出してしまった現在、産業界として静観するのは得策ではないだろう。科学的根拠は解明されていないことを理解した上で、短期的には消費者やメディアの動きに敏感かつ柔軟に対応すべきである。また、中長期的には、プラスチックの更なるイノベーションの可能性も見据えるべきだろう。前述の海洋プラスチックごみ対策アクションプランでは、「海洋プラスチックごみ問題も経済成長の一要因であり、イノベーションにより問題を解決していく」という政府の強いメッセージが読み取れ、産業界の技術開発、イノベーションがより一層求められている。産業洗浄分野においては、微細ポリマーに対する高度な洗浄除去技術が一躍脚光を浴びる可能性もあり、プラスチックを用いた洗浄技術開発においても、プラスチックを環境中に流出させない新技術が新たなビジネスチャンスを生むだろう。

様々な憶測が飛び交う中で、いかに最新かつ正しい情報を入手し的確な判断を下せるか、また、この問題をビジネスチャンスと捉え立ち向かうことができるか、産業界の冷静かつ柔軟な対応力が試されている。

引用文献

  1. *1Isobe et al. (2019) Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066
  2. *2環境省 (2016) 平成28年度漂着ごみ対策総合検討業務 報告書
  3. *3令和元年5月31日 環境省報道発表資料 「プラスチック資源循環戦略」の策定について
  4. *4令和元年5月31日 環境省報道発表資料 海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針の変更について
  5. *5令和元年5月31日 環境省報道発表資料 「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について
  6. *6環境省 プラスチック資源循環戦略
    (PDF/273KB)
  7. *7環境省 海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針の変更について(概要)
    (PDF/273KB)
  8. *8環境省 海洋プラスチックごみ対策アクションプラン(概要)
    (PDF/1,450KB)

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