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親と同居する中年未婚者の増加と生活上のリスクへの対策(2/2)

  • *本稿は、『生活経済政策』 2019年8月号(発行:一般社団法人生活経済政策研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

求められる対策

では、親などと同居して二人以上世帯を形成する中年未婚者の生活上のリスクに対して、どのような対策が必要であろうか。以下では、必要な対策として、地域における相談窓口の拡充、就労支援策の強化、短時間労働者への厚生年金の適用拡大、介護保険制度の拡充、をあげていく。

(1)地域における相談窓口の拡充

第一に、社会的孤立に陥っている人に対する相談窓口の拡充である。一般に、中年層であれば就職をしているので、社会的孤立には陥りにくいと考えられてきた。また、二人以上世帯に属する中年未婚者は親などと同居しているので、この点からも孤立しにくいと考えられている。

しかし、無職の中年未婚者は、職場での人間関係をもたないので、孤立に陥りやすいことが推察される。また、二人以上世帯では親の介護を抱える中年未婚者の比率も高く、世帯全体として孤立に陥りがちなことが考えられる。さらに、親亡き後、孤立の問題が深刻化することも懸念される。

まずは、孤立を含む様々な生活上のリスクについて、相談できる窓口が必要である。この点、2015年に生活困窮者自立支援制度が施行され、全国の福祉事務所設置自治体には、生活困窮者の相談窓口の設置が義務付けられた。この相談窓口では、経済的困窮のみならず、社会的孤立を含めた幅広い相談にのっている。

一方、孤立に陥っている人の中には、自ら相談窓口に来られない人も多い。相談員が地域に出向くことが望まれるが、このような活動を行えるだけの体制が整っていないところも少なくない。財源を確保して、相談体制を強化することが必要であろう。

(2)就労支援策の強化

第二に、二人以上世帯の中年未婚者に対して就労支援を強化していくことだ。中年未婚者が無職であっても、親に年金等の収入があればそれに頼ることも考えられるが、親亡き後の生活に困難が予想される。一方、長期に無職であった中年未婚者の中には、様々な事情を抱えているために、自力で生活再建が難しい人が少なくない。単に職業を紹介するだけでは就職に結びつかず、それぞれの方の事情をじっくり聞き、本人に寄り添いながら、一緒に生活再建の道筋を考えていくことが重要になる。

また、すぐに一般就労を始めることが難しい人には、何らかの支援を受けながら就労していく場も求められる。こうした「支援付き就労」は、「中間的就労」と呼ばれ、先述した生活困窮者自立支援制度の中に公的な制度として位置づけられた。

しかし、中間的就労への潜在的なニーズを考えると、現在の中間的就労の場は大きく不足していると推察される。今後中間的就労を広げていくためには、中間的就労を行う民間事業者への政府による支援の拡充と、中間的就労を受ける訓練生への生活費等の支援も必要であろう。

(3)短時間労働者への厚生年金の適用拡大

第三に、短時間労働者への厚生年金の適用拡大である。先述の通り、二人以上世帯に属する中年未婚者の6割以上は、国民年金のみに加入して厚生年金に加入していない。この中には、90年代半ば以降の「就職氷河期」に就職活動を行ったため、不本意ながら非正規労働に従事して、中年期を迎えた現在も短時間労働を続ける人が含まれる。国民年金の受給額は、満額で月6.5万円なので、高齢期の収入源が国民年金(基礎年金)だけであれば、貧困に陥りやすい。

問題なのは、短時間労働者は被用者であるにもかかわらず、自営業者等グループが加入する国民年金第1号被保険者となっていることである。短時間労働者は被用者なのだから、被用者グループが加入する厚生年金に加入すべきである。もし短時間労働者に厚生年金が適用されれば、国民年金(基礎年金)に報酬比例部分が上乗せされる。そして、40代・50代の中年未婚者には、10年以上の就労可能期間が残されている人が多い。この期間を厚生年金に加入すれば、高齢期の貧困を自ら予防できる人が増える。厚生年金の適用拡大は、待ったなしで進めていくべき政策である。

(4)介護保険の拡充

第四に、財源を確保して、公的介護保険を強化していくことである。先述のように、二人以上世帯に属する中年未婚者を中心に、親の介護をきっかけに離職し、未婚のまま中年期を迎える者が少なくない。現在は親の年金で生活していても、親亡き後の生活に不安を抱えている人も多いだろう。

公的介護保険制度を充実させて「介護の社会化」を強化できれば、親が介護になっても離職せずに働き続けられる人が増えていくだろう。また、仕事と介護の両立ができるようになれば、日常生活が親の介護だけに終始することなく、様々な人との交流の場をもつことも可能になろう。

以上のように、老親と同居する中年未婚者が増加する中で、世帯内の支え合いだけでなく、社会保障制度や地域における支え合いを強化することが求められている。

  1. *1総務省(2004)『平成16年家計調査』の「用語の解説」では、「標準世帯」の定義として「夫婦と子供2人の4人で構成される世帯のうち,有業者が世帯主1人だけの世帯に限定したものである」と記されている。なお、2005年版以降の『家計調査』には、「標準世帯」という表記はない。
  2. *2本稿において、「中年未婚者」とは、40代と50代の未婚者をいう。
  3. *3本節は、藤森(2016)の一部を要約して執筆した。

参考文献

  • 奥田知志・稲月正・垣田裕介・堤圭史郎(2014)『生活困窮者への伴走型支援』明石書店
  • 訓覇法子・田澤あけみ(2014)『実践としての・科学としての社会福祉』法律文化社
  • 玄田有史(2013)『孤立無業(SNEP)』日本経済新聞出版社
  • 厚生労働省年金局,2018,「被用者保険の適用拡大について」(第4回社会保障審議会年金部会、資料1、2018年9月14日開催)
  • 藤森克彦(2016)「中年未婚者の生活実態と老後リスクについて――『親などと同居する2人以上世帯』と『単身世帯』からの分析」『年金研究』公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構,3:78-111(2019年7月10日取得,(PDF/495KB)).
  • 藤森克彦(2017)『単身急増社会の希望』日本経済新聞出版社
  • 西文彦(2015)「親と同居の壮年未婚者 2014年」(2015年5月28日取得,(PDF/518KB)

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