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高齢者向け住まいでの看取り推進に向けた研修事業(1/2)

  • *本稿は、月刊『シニアビジネスマーケット』2019年6月号(発行:綜合ユニコム株式会社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 医療政策チーム コンサルタント 村井 昂志

サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどの高齢者向け住まいは、人生の最期を迎える場として重要な選択肢の1つとなりつつある。本稿では、厚生労働省の平成30年度老人保健健康増進等事業の1つとして実施された「高齢者向け住まいにおける看取り等の推進のための研修に関する調査研究事業」の概要を報告する。

本事業の背景・目的

住み慣れた住まいで最期を迎えたいと考える人が多いなかで、また高齢化が進み、日本が「多死社会」を迎えるにあたり、人々が最期を迎える場所としてどのような所を選ぶのか、またそのような人をどのように看取るのかは、ますます重要なテーマとなっている。

看取りにあたり、もっとも尊重されるべきは、最期を迎える本人の意思である。近年では、住み慣れた住まいで最期を迎えたいと考える人にとって、選択肢は通常の居宅にとどまらない。サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームといった「高齢者向け住まい」も、自らが希望する最期を迎える「終の住みか」としての、重要な選択肢の1つとなりつつある。

このような高齢者向け住まいでは、多くの介護職が、居住者と日常の生活を共にしている。高齢者向け住まいにおいて、介護職は、居住者がふだん何を望み、最期をどのように迎えたいと感じているかを、最も感じとりやすい職種といえる。場合によっては、居住者の家族よりも、居住者の想いを感じとれる立場にあるともいえるだろう。高齢者向け住まいの介護職には、高齢者の暮らしを支えるプロフェッショナルとしての役割があると考えられる。

その一方で、居住者本人がどこで、どのように最期を迎えたいかについて、本人の意思の確認や、意思決定支援を行なっている高齢者住まいは少ないのが現状である。また、高齢者住まいの介護職の多くが、住まいでの看取りに対し、不安を感じている。

今回報告する「高齢者向け住まいにおける看取り等の推進のための研修に関する調査研究事業」では、このような課題意識のもと、高齢者住まいの介護職をはじめとした職員が、看取りに対して抱えている不安を軽減するような研修を作成・試行実施し、その効果や課題を把握した。このような研修を通じて、高齢者向け住まいが、そこを「終の住みか」とすることを希望する居住者に対し、住まいでの看取りを提供できるようになること、ひいては高齢者住まいにおける看取り実施を普及させることが、本事業の目的である。

本事業は、厚生労働省の補助金事業である「平成30年度老人保健健康増進等事業」の1つとして、みずほ情報総研が実施したものである。事業の実施にあたっては、有識者等からなる「事業検討委員会」および「プログラム作成ワーキンググループ」を設置して、研修内容について議論するとともに、(株)シルバーウッドと連携して研修を試行実施した。

研修の内容

[1]研修の場所・対象者

研修は、高齢者向け住まいの職員の多数が参加することで、住まい単位で看取り実施の機運を高め、看取りの実施につなげることを狙いの1つとした。そのため、高齢者住まいの職員が参加しやすくなるよう、原則として高齢者向け住まいの会議室を研修会場とした。研修プログラム自体は、高齢者住まいの介護職を念頭においた内容としているが、さまざまな立場の方が看取りについて話し合えるよう、参加者に制限は設けず、介護職以外の職員、協力事業所の職員、居住者本人やその家族の参加も可能とした。

研修会場の確保は、モデル事業所の公募によって行なった。研修の募集案内を、高齢者住まい事業者団体連合会を構成する各団体等を通じて、全国の有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に発信し、全国43か所の住まい等からの応募を受けた。この43事業所等の中から13事業所等を選び、それぞれの住まい等で研修を行なった。

[2]バーチャル・リアリティ(VR)の使用

本事業で行なった研修の大きな特徴は、紙媒体の資料だけではなく、バーチャル・リアリティ(VR)による視聴覚教材を併用した点にある。VRによって、研修参加者は住まいにおいて看取るケースや、住まいで看取らずに救急搬送され、救命措置を受けるケースを疑似体験する。視聴覚に訴える教材を用いることで、高齢者向け住まいで看取ることの意味や、その進み方をイメージしやすくし、高齢者向け住まいの介護職をはじめとした職員が、住まいでの看取りに対する不安を軽減させ、看取りに対して積極的になることを、研修プログラムの狙いとした。

VR教材(図表1)は(株)シルバーウッドが作成したものを利用した。

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[図表1]研修に用いたVR 教材
表題 内容
救急医療における心肺蘇生 終末期に救急搬送されると、救命のためにいかなる処置(心肺蘇生など)を受けることになるかを体験する。
看取りまで
―日常―
普段からケアをしている介護職の立場から、高齢者「トメさん」が会話の端々に自身の意思を語っている場面や、看取り期に入りつつある状況を目にする。
看取りまで
―あるカンファレンス―
普段からケアをしている介護職の立場から、「トメさん」の看取りに関するカンファレンスに出席する。
看取りまで
―ある日―
自室で、息をしていない穏やかな様子の「トメさん」を介護職が発見する。

[3]グループディスカッション

VRを視聴したうえで、それについてどう感じたか、登場人物(居住者)がどのような希望をもっていると感じたか、自分であればどのようにしたいか等を話し合うグループディスカッションを行なった。

ここでは、住まいに関わる多職種、会場によっては居住者本人・家族を含めた参加者が、それぞれの意見を出し合うことで、異なった職種や立場の人同士が、どのような考えをもっているのかを知りあうことを狙いとした。

[4]ロールプレイング

研修では、最後に図表2のような場面を設定したロールプレイングを行なった。「住まいでの看取りに同意していたが、いざいつ最期を迎えてもおかしくない居住者を前にして、家族が動転している」場面を設定することで、そのなかでどのように振る舞えるかを体験する場とした。

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[図表2]ロールプレイングの場面設定と進め方
ロールプレイングの場面設定
  • 入居者は92歳の女性。
  • 入居者・家族とも、住まいでの看取りに関し同意済み。
  • いつ最期を迎えてもおかしくない状態であり、下顎呼吸をしている 様子を見た家族の気が動転している状態。
ロールプレイングの進め方
  • 上記のような場面設定を講師が説明したうえで、1班6名程度のグ ループワークを行ない、どのように演じるかについて話し合う。
  • 役割は、各班の中で、居住者本人、介護職、家族、主治医、ホー ム長、看護師などの中から自由に分担する。
  • グループワークののち、講師が1班を指名し、指名された班が、「い つ最期を迎えてもおかしくない入居者を前に家族が動転している」場面を演じる。

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