ページの先頭です

高齢者向け住まいでの看取り推進に向けた研修事業(2/2)

  • *本稿は、月刊『シニアビジネスマーケット』2019年6月号(発行:綜合ユニコム株式会社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 医療政策チーム コンサルタント 村井 昂志

研修の効果測定

[1]効果把握の方法

研修の試行実施の際に、その効果を測定するため、研修参加者に対するアンケート調査を実施した。調査票は、研修開始直前における意識と直後における意識とを、同一の設問で回答する形式とし、これによって研修前後の意識の変化を把握した。

また、これとは別に、高齢者向け住まいにおける研修実施後の看取りの取組状況について把握するため、事業所向けのフォローアップアンケートも実施した。

[2]参加者アンケートの主な結果(図表3)

「看取りを行なうことに不安がある」との設問に「はい」「どちらかというとはい」と回答した参加者の割合は、研修前後で59.9%から21.2%に下がり、また「本人の意向をどのように確認したらいいかわからない」との設問に「はい」「どちらかというとはい」と回答した参加者の割合も、61.0%から21.4%に下がった。一方で、「ここで看取りたい」との設問に「はい」「どちらかというとはい」と回答した参加者の割合が70.9%から80.2%に上がるなど、住まいでの看取りに積極的な参加者も増える結果となった。

「最期は病院に行くべきだ」との設問に「はい」「どちらかというとはい」と回答した参加者の割合は、研修前後で17.9%から1.6%に下がるなど、終末期について、入院や救急車利用が必要とする回答も大幅に減った。

[図表3] 研修の直前/ 直後における参加者の意識の変化(抜粋)(n=364)
図表3

[3] 事業所フォローアップアンケートの主な結果(図表4)

研修後の事業所の様子として、「看取りに関する研修や話し合いを実施している」「研修前に比べ、居住者本人の意向把握を積極的に行なうようになった」「本人の意向について、家族や多職種との共有を行うようになった」という設問に対し、いずれも90%以上の事業所が、「はい」または「どちらかというとはい」と回答した。

また、研修後に実際に高齢者向け住まいでの看取りを行なう事業所が5事業所現われ、うち2事業所は過去1年間における実績がなかった事業者であった。本事業の研修が、看取り自体の実践にもつながった可能性がある。

[図表4] 研修後の事業所における行動の変化(n=12)
図表4

[4]本研修の効果

本研修を通じて、高齢者向け住まいにおいて看取りを行なうことに対する不安や、「どのようにすればよいかわからない」といった感情は、大きく低減されたものと考えられる。また、最期は病院に行くべきだとの考えをもつ職員が少なくなり、「ここで看取りを行ないたい」といった高齢者向け住まいでの看取りの実践に肯定的な意見が増加する結果となった。

さらに、研修直後における職員等の意識の変容にとどまらず、その後の高齢者向け住まいにおける状況としても、看取りに関する研修や話し合い、居住者本人の意向把握や家族・多職種との共有が、より積極的に行なわれるようになった。

今後に向けた課題

今後、本事業で試行的に行なったような研修を社会に普及させ、高齢者向け住まいにおける看取り実施を普及させるには、講師人材の確保や、VRコンテンツ・器材の継続的な確保など、研修としての持続性のある体制作りや事業化が必要となる。

また、事業の効果測定にあたっては、さらに数か月の間をおいた中期的な効果測定を行ない、実際に看取りの実践に至った事業所がどれだけ増えたか、実際に看取りを行なってみていかなる課題が生じたか、研修終了後、時間を経過した後も、看取りや居住者の意向を把握し、それを実現するという機運が保たれているか等について、継続的に把握を行なうことが望まれる。

関連情報

ページの先頭へ