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分散型エネルギー社会におけるブロックチェーン技術(1/2)

  • *本稿は、『太陽エネルギー』 Vol.44 No.6 (一般社団法人日本太陽エネルギー学会、2018年11月30日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 並河 昌平

1. はじめに

ブロックチェーン技術は金融分野を始め、様々な分野において活用が検討されている。本稿では、ブロックチェーン技術の機能と、それらがもたらす可能性のあるビジネスモデルについて示し、今後普及が想定される分散型エネルギー社会においての活用について検討する。

2. ブロックチェーン技術の機能

ブロックチェーン技術の機能は主に三つある。一つ目は中央管理者を通さずに「価値の移転」を可能としたことである。ブロックチェーン技術が活用されているビットコインなどの仮想通貨では、世界中の誰にでもインターネットを通じ、銀行などの中央管理者を介さずに二重支払いせず信頼できる送金を実現している。仮想通貨の場合は通貨という価値が移転されるが、この仕組みを使えば、デジタル資産の価値移転も可能となる。

二つ目は、中央管理者を介さずに「データの保存と共有」を可能としたことである。ブロックチェーン技術はその特徴から分散型台帳とも呼ばれる。従来の取引情報等のデータは中央管理者が管理するサーバー(集中型台帳)で記録、管理していたが、ブロックチェーン技術では、ノードと呼ばれる複数の分散型台帳に整合性を保ちながら記録、管理する。また、PoW*1などの仕組みを導入することで、承認され記録されたデータ(ブロック)については、消去、改ざんが事実上不可能となる。また、従来の集中型台帳の場合、データは中央管理者が管理しており、データ閲覧は必ず中央管理者の許可が必要となるが、パブリックチェーン*2の分散型台帳に記録されたデータは、誰でもインターネットを通じて閲覧が可能であり、簡単に共有することが可能となる。

三点目は、スマートコントラクトを利用した「契約の自動履行」である。スマートコントラクトはいわば契約書をプログラムで明文化したもので、どういう条件を満たした場合何をするかを決めておく。例えば、デジタルコンテンツを販売した場合、従来は契約内容を中央管理者が確認した後、利用者は中央管理者を介して提供者に支払い、事後にその利用料金が提供者の口座に振り込まれた。スマートコントラクトを使用すると、利用者はコンテンツを購入すると同時に、提供者にいくら払うという契約が自動的に履行され、即時で利用者から提供者へトークン*3を通じた直接支払が完了する。また、IoTとの連携により、例えば洗濯機に入れた洗剤が少なくなったことをセンサーが認知した際、洗剤メーカーに自動的に洗剤を発注するといったような契約を自動執行することも可能となる。

以上、ブロックチェーン技術の主な三つの機能とメリットについて図1に示す。


図1 ブロックチェーン技術の機能とメリット
図1

3. 広がりを見せるブロックチェーン技術

2章で示したブロックチェーン技術の機能を応用し、様々な分野でブロックチェーン技術の利用が始まっている。図2にブロックチェーン技術活用のユースケース1)を示す。金融系以外にも、商流管理、シェアリングなどの分野でも活用されている。例えば、商流管理は、サプライチェーン上の企業が協業して実施する必要があり、これまでは誰かが中央管理者になり情報を管理する必要があったが、ブロックチェーン技術を使用すれば、中央管理者が存在しなくても、各企業から直接「データの保存と共有」が可能となり、取り組みがより進む可能性がある。またシェアリングの分野では、提供者と利用者をつなぐ中央管理者(プラットフォーム事業者)が存在したが、ブロックチェーン技術を利用することで中央管理者がいなくても、直接提供者と利用者がシェアリングを実施できるようになる。


図2 ブロックチェーン技術活用のユースケース1)
図2

4. ブロックチェーン技術と破壊的ビジネスモデル

ブロックチェーン技術はその利用方法によっては、既存の様々なビジネスモデルをDisruptive(破壊)する可能性を持っている。

まず一点目は、仲介事業者の中抜きが可能になることである。従来のビジネスモデルでは、もの・サービスの提供者と利用者の間に必ず仲介事業者が介在した。これら仲介事業者を介して提供者と利用者間の決済がされており、利用者がもの・サービスを利用したのに支払わないなどの与信リスクを仲介事業者が負っている。一方、ブロックチェーン技術を導入し、トークンを利用すれば、利用者と提供者の間の直接決済が可能となる。さらに、トークンが支払われたことを確認した後に、もの・サービスを提供するという契約を自動履行する仕組みにすれば、利用者側の与信リスクを回避することができる。これにより、仲介事業者の重要な役割である決済機能の代替と、与信リスクの低減が可能で、分野によっては仲介事業者の中抜きも可能となる。電力業界では小売電気事業者が、発電事業者(または卸電力取引市場)と需要家の間にたつ仲介事業者という位置付けになるが、この小売電気事業者の業務をブロックチェーン技術を使用して自動化する検討もされている。例えば米国Grid+社では、需要家が卸電力取引市場から電力をリアルタイムに自動的に購入するスマートエージェントを開発し、決済にBOLTという米国ドルと連動したトークンを使用してリアルタイムでの支払を可能にしている。さらに、需要家が保有するトークン量が決められた閾値を下回った場合に、需要家にサービス停止を告知することで、電気料金の滞納といった与信リスクを回避する仕組みを想定している。これにより、小売電気事業者が従来取っていた電気料金におけるマージンを大きく低減するとしている2)

二点目は、プラットフォーム事業者の代替である。従来のビジネスモデルでは、もの・サービスの「提供者」と「利用者」のマッチングのためにプラットフォーム事業者が必要とされた。プラットフォーム事業者はもの・サービスの提供者からの使用料を取ることで、ビジネスを成立させている。例えばライドシェアのサービスでは自動車に乗りたい人と乗せたい人のマッチングの場をプラットフォーム事業者が提供し、提供者と利用者間で成立したフィーの一部を回収する。ブロックチェーン技術を導入すれば、プラットフォーム事業者のような中央管理者がいなくても「データの保存と共有」と「契約の自動履行」によりサービス提供が実現可能となる。またこれらマッチングの情報は、プラットフォーム事業者が独占的に管理、使用するのではなく、もともとのデータ所有者(提供者と利用者)同士でも共有可能となる。プラットフォーム事業者として利用者、提供者からのビッグデータを集め囲い込むという時代から、ブロックチェーン技術によってビッグデータをステークホルダー全員が共有して活用する時代になるかもしれない。

図3 仲介事業者の中抜き
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図4 プラットフォーム事業者の代替
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  1. *1Proof of Work、ブロックチェーン上のブロックを生成、記録する仕組み。他にも様々な仕組みが考案されている。
  2. *2ブロックチェーンは不特定多数のノードがデータを承認記録し誰でも参加可能なパブリックチェーン、指定される一部のノードのみがデータを承認記録しアライアンスを組んだ企業だけが参加できるコンソーシアムチェーン、自社のみが使用するプライベートチェーンに分けられる。
  3. *3ブロックチェーン上で発行された独自コインのこと。
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