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分散型エネルギー社会におけるブロックチェーン技術(2/2)

  • *本稿は、『太陽エネルギー』 Vol.44 No.6 (一般社団法人日本太陽エネルギー学会、2018年11月30日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 並河 昌平

5. 分散型エネルギー社会とブロックチェーン技術

ここでは、ブロックチェーン技術が太陽光発電の普及に伴って実現される分散型エネルギー(DER:Distributed Energy Resources)社会でどのように活用されるかを検討する。電力取引ビジネスをDER普及レベルによりフェーズ1からフェーズ3の段階に分けて検討した。

フェーズ1は、あまりDERが普及していない時期で、全ての需要家が小売電気事業者を介して発電所や卸電力取引市場からの電力を購入している。取引結果を事後に記録し、CO2排出量情報などのデータを共有して利用する「電源トレーサビリティーの記録」に使用することが考えられる。これにより需要家は例えば今使用している電力は、再生可能エネルギー由来なのか、それ以外なのかを随時データとして確認することができるようになる。

なお、これらのデータは中央管理者なしの分散型台帳に記録され、記録された情報は改ざんができない。発電所から取得するデータやそれを測定する機器を国際標準化し、国際的な排出権取引などの仕組みにも応用できる可能性もある。


図5 DER普及率低でのブロックチェーン活用例
図5


フェーズ2はDER普及が中程度に進んだ時期で、DERを運用する需要家が増える。また、需給調整市場が出現し、需要家もデマンドレスポンスとして送配電事業者が系統安定化のため必要とする調整力に寄与することが可能となる。これらの取引は1件あたりの取引量が小さく、それらをアグリゲーターが取りまとめるが、需要家とアグリゲーターの間での取引金額は少なく通常の決済方法では相対的に管理コストが高くなることが課題となる。そこで、ブロックチェーン技術を活用し、「小口デマンドレスポンスの取引記録と直接決済」することが考えられる。

ここでは、需要家において、デマンドレスポンスが実施されたことを記録し、その対価支払を自動的にトークンで精算する。決済業務が自動化されることで、アグリゲーターにとって手間のかかる管理コストが低減できる。

ここでは「仲介事業者」としてアグリゲーターが考えられるが、図3「仲介事業者の中抜き」で示したように、電力市場の設計次第ではアグリゲーターを中抜きし、直接需要家(調整力の提供者)と送配電事業者(調整力の利用者)のやりとりを可能にすることも考えられる。


図6 DER普及率中でのブロックチェーン活用例
図6


フェーズ3は、さらにDER普及が進んだ時期で、需要家にDERが標準で設置され、自家消費が電力活用の中心となる。そうなるとDERからの余剰電力を配電網内の需要家同士や、それら余剰電力が集う「DER取引市場」で取引したほうが合理的になる可能性がある。このような状況において、ブロックチェーン技術は、需要家がその他の需要家やDER取引市場と電力の取引内容を決定し、その決済をトークンで自動的に実施する「小口需要家におけるP2P(Peer to Peer)取引」に利用される。ここでも、小口取引のため、フェーズ2と同様、小売電気事業者はトークンによる管理コストの低減メリットを享受できる可能性がある。

なお、P2P取引には、プラットフォーム事業者として小売電気事業者を介した取引も考えられるが、図4「プラットフォーム事業者の代替」で示したように、小売電気事業者(プラットフォーム事業者)なしで電力の提供者(DER運用需要家)と電力の利用者(需要家)が直接P2P取引を実現する可能性も考えられる。


図7 DER普及率高でのブロックチェーン活用例
図7

6. おわりに

以上、ブロックチェーン技術の分散型エネルギー社会における可能性を示した。電力取引の分野は制度、規制や市場が現行の技術で設計されており、すぐにこのような取引が始まるわけではない。しかしながら、海外では当分野におけるブロックチェーン技術の活用事例は日々増加しているところである。また、国内でも東京電力ホールディングスや関西電力が太陽光発電の余剰電力をP2Pで取引するための検討を開始している3, 4)。ブロックチェーン技術が持つポテンシャルをさまざまな実証試験を通じて検証すると同時に、中長期的な視野で我が国の社会便益、最終需要家にとってのメリットを考慮し、制度、市場の設計を検討していくことが求められる。

参考文献

  1. 1)経済産業省商務情報政策局 情報経済課、平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書(2016), 33.
  2. 2)Consensys, GRID+ White paper ver2.0
  3. 3)東京電力ホールディングス株式会社、2017年7月10日プレスリリース ドイツ大手電力innogy社と共同での電力直接取引プラットフォーム事業の立ち上げについて~先端ITを活用し、ドイツで電力取引事業を展開~(2017)
  4. 4)関西電力株式会社、2018年4月24日プレスリリース 豪州パワーレッジャー社とのブロックチェーン技術を活用した電力直接取引プラットフォーム事業に係る実証研究の開始について(2017)
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