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単身者の増加と社会的孤立への対応

  • *本稿は、『月刊福祉』 2020年10月号(発行:全国社会福祉協議会)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

単身者(ひとり暮らし)が増加しており、今後も増えていくとみられている。これまで日本は、さまざまな生活上のリスクに対して、家族が大きな役割を果たしてきた。しかし、単身者は、同居家族がいないので、世帯内で支え合うことができない。このため単身者は、ふたり以上世帯に属する人に比べて、経済的に困窮するリスクや社会的に孤立するリスクが高いと指摘されてきた。この点、経済的困窮についてはさまざまな公的制度による支援があるが、社会的孤立への対応策は必ずしも確立しているわけではない。

そこで本稿では、まず単身者の増加とその要因について概観する。次に、単身者における社会的孤立の実態をみていく。そして最後に、社会的孤立に対する支援として、「伴走型支援」を考える。

単身者数の現状と今後

日本には現在、1842万人の単身者がおり(2015〈平成27〉年)、総人口の約15%がひとり暮らしをしている。そして国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の将来推計によると、2030年には、単身者は今よりも約10%増加して2025万人になると推計されている。

男女別・年齢階層別に2015年から2030年にかけての単身者数の変化をみると、男女ともに20代~40代の単身者数が減少していく。これは、少子化の影響を受けて、40代以下の人口が減少していくことの影響が大きい。

一方で、50代以上の年齢階層では、2015年から2030年にかけて単身者が増えていくと推計されている。具体的には、男性の単身者は、80歳以上で約2.0倍、70代で約1.4倍、増加していく。また、中年男性においても、50代で約1.3倍、60代で約1.2倍、増加すると推計されている。一方、女性においても、2015年から2030年にかけて単身者が大きく伸びる年齢階層は、80歳以上(約1.6倍)と50代(約1.5倍)である。

単身者の増加要因

では、なぜ50代や80歳以上で単身者が増加していくのか。50代で単身者が増加していく大きな要因は、未婚化の進展である。50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼ぶが、生涯未婚率は男女ともに1985(昭和60)年まで5%以下で推移したが、1990(平成2)年以降急激に上昇し、2015年の男性の生涯未婚率は23%となった。そして社人研の将来推計によれば、2030年の男性の生涯未婚率は28%になるとみられている。女性の生涯未婚率は、男性ほど高い水準ではないが、2015年の14%が2030年には19%になると推計されている。

一方、80歳以上で単身者が増加していくのは、「団塊の世代」が80歳以上になるといった人口増の要因と、老親とその子どもが同居しないといったライフスタイルの変化があげられる。

また、今後注目すべきは、未婚化の進展にともなって、未婚の単身高齢者が増えていく点である。未婚の単身高齢者は、配偶者と死別した単身高齢者とは異なり、配偶者だけではなく子どももいないことが考えられる。このため、老後を家族に頼ることが一層難しくなるだろう。

ちなみに、社人研の将来推計によれば、65歳以上の未婚者は、2015年から2030年にかけて約1.8倍増えていく。特に高齢男性で未婚率の上昇が著しく、2015年の6%が2030年には11%に倍増すると推計されている。

単身者の社会的孤立の実態

以上のように、今後、中年層や高齢層において単身者が一層増加するとみられている。では、単身者は、どのような生活上のリスクを抱えているのであろうか。まず、単身者は、ふたり以上世帯に属する人と比べて、経済的に困窮するリスクや、社会的に孤立するリスクなどが高いと指摘されている。ここでは、単身者の社会的孤立の実態をみていこう。

「社会的孤立」については一義的な定義があるわけではないが、ここでは、家族や友人など、他者との関係性が乏しいことと定義する。そこで、「会話頻度」と「頼れる人の有無」から社会的孤立の実態をみていこう。

まず、会話頻度について「2週間に1回以下」と回答した人の割合は、18歳以上の回答者総数では2%なのに対して、高齢期の単身男性は15%、現役期の単身男性は8%と高い水準にある。一方、単身女性は高齢期5%、現役期4%と単身男性よりも低い(国立社会保障・人口問題研究所『2017年社会保障・人口問題基本調査 生活と支え合いに関する調査』)。単身者であっても、現役期であれば、職場における会話があるはずだが、無職の単身者は職場での会話もなく、会話頻度が乏しいことが推察される。

次に、「頼れる人の有無」をみると、「介護や看病」について「頼れる人がいない」と回答した人の割合は、総数では28%なのに対して、単身男性では、高齢期58%、現役期44%と高い水準である。一方、単身女性では、高齢期45%、現役期26%となっている。

また、電球の交換など「日頃のちょっとした手助け」については、総数では7%が「頼れる人」がいないのに対して、単身男性では、高齢期30%、現役期23%が「頼れる人」がいない状況である。一方、単身女性では、高齢期9%、現役期10%が「頼れる人」がなく、単身男性よりも低い水準となっている。

総じてみると、高齢期と現役期の単身男性は、ほかの世帯類型に属する人よりも孤立に陥りやすい。なお、同じ単身者でも、女性は男性ほど孤立していない。この背景には、単身女性は「別居家族」との関係をもつ人の比率が単身男性よりも高いことに加えて、高齢期の単身女性は「近所」、現役期の単身女性は「友人」とのつながりをもつ人の比率が単身男性よりも高いことがあげられる。

社会的孤立の課題

では、社会的孤立には、どのような課題があるのだろうか。

第1に、社会的孤立に陥っている人は、いざという時に「頼れる人」がいないために、生活上のリスクが顕在化した場合の対応が難しい。先にあげた「介護や看病」のみならず、身体機能や判断能力が低下した際に、病院同行や買い物などの生活支援や、入院時に病院から身元保証を求められた場合に頼れる人がいないという課題もある。さらに、死亡後の葬儀や家財処分を託せる人がいないという課題も考えられる。家族と同居する高齢者であれば、生活支援、身元保証、死後の事務をさほど心配する必要はなかった。多くの場合、家族が対応すると考えられてきたためだ。しかし、身寄りのない単身高齢者は、対応してくれる家族がいない。頼れる友人・知人がいればよいが、社会的に孤立する高齢者は少なくない。特にコロナ禍では、身寄りのない単身高齢者のなかには、感染した場合の対応などを懸念している人が多いのではないか。

第2に、社会的孤立は、生きる意欲や自己肯定感の低下を招く点である。生きる意欲や自己肯定感は、他者との関係性のなかで醸成されることが多い。例えば、働く意欲には、「家族のため」といった、他者の存在が考えられる。また、他者との関係性が乏しければ、自らの課題も見えにくくなる。

社会的孤立に対する「伴走型支援」の意義

こうしたなか、専門職の相談支援のあり方として、「伴走型支援」の重要性が指摘されている。例えば、厚生労働省の地域共生社会推進検討会は、2019(令和元)年12月に「地域共生社会」の構築を唱え、今後の専門職による相談支援として、従来の「課題解決を目指すアプローチ」(課題解決型支援)とともに、「つながり続けることを目指すアプローチ」(伴走型支援)をあげて、「支援の両輪」としている。

筆者は、伴走型支援が重視される背景には、社会的孤立への対応という側面があると考えている。すなわち、伴走型支援は、孤立する人などに対して、必要な支援を包括的・継続的にコーディネートする機能を担う。これまで家族は、老親などが必要とする支援を、分野を問わず包括的に提供してきた。無論、家族で対応できない場合には、家族は公的制度等につないでいく。その場合でも、つなぎっ放しにするのではなく、生活支援から死後事務を含めて、人生の最期まで関わる。伴走型支援は、こうした家族の機能を代替して、包括的な支援を人生の最期までコーディネートする点に特長があると考えられる。

また、伴走型支援は、社会的孤立に陥って自己有用感を喪失し、次のステップに向かえない人に有効だと考えられている。先述の通り、他者との関係が乏しければ、解決すべき課題自体が見えなくなることも多く、課題解決型支援に向かうのは難しい。この点、伴走型支援では、時間をかけて課題を解きほぐし、周囲との関係を築くなかで、別の展開が始まることを待つ。伴走型支援は、つながり続けること自体に意味があると考えられている。

今後も未婚化の進展にともなって、孤立する単身者は増えていくだろう。こうしたなか、身寄りがなくても安心して人生の最終段階を迎えられるように、孤立する単身者に伴走をする機関が求められている。この機関は、生活支援、身元保証、死後事務について包括的・継続的にコーディネートする役割を担う。高い信頼性を保ち、単身者の状況に合った支援を行える機関をいかに構築していくか。身寄りのない単身者が増えるなかで、新たな支え合いの仕組みが求められている。

参考文献

  1. 奥田知志他『生活困窮者への伴走型支援』明石書店、2014年

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