ページの先頭です

FIT制度からFIP制度へ 需要家に増える選択肢

  • *本稿は、2020年7月31日付の日刊工業新聞 第2部「地球環境特集」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部
チーフコンサルタント 佐藤 貴文、コンサルタント 古林 知哉、コンサルタント 境澤 亮祐

再生可能エネルギーは2012年の固定価格買取制度(FIT制度)開始から急激に導入が加速し、その進捗に合わせ制度の見直しが行われ、事業準備期間の期限設定や、入札の採用など改善がなされてきた。今回は、FIT制度に代わる予定のフィードインプレミアム制度(FIP制度)と、再エネの中でも導入量の大きな太陽光発電、風力発電、そして両者の導入に深く影響する電力系統の直近の動向について紹介する。

再生可能エネルギーの直近の動向

12年から開始されたFIT制度の抜本見直しに向け、再エネ特措法などの改正案が今年2月25日に閣議決定された。発電事業者にとって最大の変更点は、22年度以降に風力発電と一定規模以上の太陽光発電で導入される見通しのFIP制度だ。FIP制度では、卸電力市場などでの取引価格に「プレミアム価格」を上乗せして再エネの経済性を担保する。

FIP制度におけるプレミアム価格の決定方法は複数あり、FIT制度と同等の収益見通しが可能な完全変動型プレミアムや、収益予見性の低い固定型プレミアムなどがある(図1)。双方を取り入れる中間型の制度を構築していくことが適切との見方があるが、プレミアム価格の決定方法は今後国の審議会などで議論される。

また、FIP制度ではFIT制度で免除されていた、事前に報告した発電量計画値に実発電量を合わせるインバランス負担が一部課されるほか、自ら電力販売先を確保する必要がある。このため、発電事業の収益予見性の低下や、プロジェクト運用コストの上昇が予想され、今後の制度設計に注目が集まる。

一方で、今後の制度次第では、FIP制度下において非化石証書という環境価値を発電事業者に条件付きで帰属させる可能性もある。電源とひもづけられた再エネ電力を求める環境意識の高い需要家にとっては、再エネ調達の選択肢が増えることも期待される。

図1 FIP制度のプレミアムの種類
図1
出典:資源エネルギー庁

太陽光発電の動向

太陽光発電はFIT制度下で最も導入が進んだ電源だ。19年末時点で約5300万kWが導入されており、これはすでにエネルギーミックス(30年の国の見通し)に示された太陽光発電の83%に達している。このハイペースでの導入により、調達価格算定委員会で報告された太陽光発電設備の平均価格(kW単価)は12年の42.1万円から18年の28.6万円まで低減した。大規模太陽光発電設備が対象となる入札の直近の結果では、落札案件の平均売電価格はkWh当たり12円台まで低下し、従来型電源の発電コストに肉薄している。19年度に落札された太陽光発電所の計画を分析すると、スケールメリットを活かした1万kW以上の大規模発電所か、広い土地が不要かつ高圧送電線に連系可能な1000-2000kW規模に二極化している。

20年度から適用された大きな変更としては、太陽光発電は従来型電源と同等の競争力を目指す「競争電源」と、「地域活用電源」に大別されたという点がある。出力が50kW未満で自家消費率30%以上など一定の基準を満たす発電所は、従来のFIT制度が継続されるため50kW未満の余剰売電型の小規模太陽光発電の割合が増加すると考えられる。

太陽光発電は価格低下の効果で自家消費のインセンティブが高まっている。多様なビジネスモデルが派生し、蓄電池または電気自動車と相補的に組み合わせ自家消費を高める工夫を行った導入事例もある。FIT制度下で最も価格低減に成功した電源として、企業の脱炭素ニーズを追い風に、将来の主力電源化が期待される。

風力発電の動向

陸上での適地が終息気味だとささやかれることが多い風力発電ではあるが、陸上でもまだ開発余力はあり、水面下では着々と計画が進行している。しかしながら、ここでは近年注目度の高い洋上風力発電の動向について紹介する。

洋上風力発電は、欧州を中心に10年以上前から導入が進み、島国の日本でも導入ポテンシャルが高い電源とされてきた。しかしながら、ノウハウの不足や高コスト、加えて漁業などの海域の先行利用者との調整の枠組みが不明確なことや海域を占用するための統一的なルールがなかったことから、導入が進んでこなかった。

先行する欧州の法制度を参考に、19年に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行された。一般海域において自然条件や先行利用者との調整などの要件に適合した海域を、国が促進区域として指定し、公募で選定された事業者が促進区域を最大30年間占用できることとなった(図2)。19年12月に長崎県五島市沖、そして今年7月には秋田県の3区域と千葉県銚子沖が促進区域に指定された。さらに国は促進区域の指定に向けて、既に一定の準備段階に進んでいる区域として、ほかに10区域を整理している。東北地方を筆頭に今後も促進区域の指定が進んでいく見込みだ。

再エネ海域利用法の施行に伴い、企業の動きが激しくなった。電力会社や商社に加えて、ガス会社や投資会社も発電事業に名乗りを上げており、欧州で実績のある外資系企業も日本の市場に関心を持ち、国内企業との協業を検討している。

また、既に複数の建設会社が、洋上風力発電の建設に必要な専用作業船(1隻数百億円)の建造を計画している。1事業で数千億円もの資金が動く洋上風力発電に対して、発電事業者やメーカー、建設会社、銀行などが機会を狙っている状況だ。

国は再エネ海域利用法の重要業績評価指標(KPI)として、30年までに5海域で洋上風力発電が運転していることを掲げている。1海域の目安を35万kWとしていることから、洋上風力のみで150万kW以上となり、エネルギーミックスで示されている洋上風力発電の見通し82万kWを軽く超える水準にある。

今後はノウハウの蓄積や企業の競争を通じた、国内の洋上風力発電市場の成熟が期待される。

図2 再エネ海域利用法下における区域の指定状況
図2
出典:資源エネルギー庁資料をもとにみずほ情報総研作成

電力系統への影響

太陽光発電と風力発電は、発電側が発電量をコントロールすることができないことや、発電量に見合う容量を持つ送電線がない場合などを理由として、どこでも電力系統に接続できるわけではない。そして、電力の需要に比して発電量が過剰になる場合は発電を抑制する「出力制御」を条件として接続契約を結ぶことが現在は基本となっている。

再エネの導入が特に進んでいる九州エリアについては、18年10月から電力供給量の超過懸念に対する再エネの「出力制御」が開始され、春と秋を中心に19年度までに119日間実施された。その他の地域でも再エネの導入は進んでおり、将来的に出力制御が実施される見込みだ。これまで電力需要の大きい中3社(東京・中部・関西)エリアでは出力制御実施の可能性は低いとされていた。しかし今年、中部エリアでの実施可能性が報道され、国の系統ワーキンググループでは関東エリア・関西エリアでも出力制御に関する評価がなされる予定だ。

こうした「出力制御」の問題や、送電容量不足により新たな電源を接続できない「接続問題」などについて対策が検討されている。

一つは、系統の構造そのものを改善すべく系統増強工事を実施する「プッシュ型のネットワーク形成への転換」に向けたマスタープランであり、今後検討が本格化する。他方、国の審議会では、自家消費や地域内系統の活用を含む需給一体型モデルを促進することによる系統の負荷軽減が提案された。これはレジリエンス強化や地域活性化の観点からも重要だとされている。

需給一体型モデルとしては、電気自動車や蓄電池の統括運用、電力から水素やメタンなどの気体燃料を製造するPower to Gas(P2G)の技術などが挙げられ、商用化に向けた技術開発や実証などの政策支援が進められている。これらの技術は電力の過剰供給によって出力制御される再エネの利用先となり、再エネの最大限の活用に寄与するものとして期待されている。

事業者としては今後検討が進められるマスタープランの行方を見つつ、需給一体型モデルの検討を進めることが必要だ。例えば洋上などの好風況地域においては、風力発電事業者であれば地域の需要構造を把握することが抑制量を減らすことにつながる。需要家であれば洋上風力についての理解を深めることで、電力需要の再エネ比率を高めることにつながる。

また、欧州では既に再エネから化学製品や自動車用燃料への転換の実証も進められている。電力用途以外の利用も視野に入れたうえで、総合的に再エネ事業を検討することが勝機につながる。

関連情報

この執筆者(佐藤 貴文)はこちらも執筆しています

2019年12月
蓄電池技術はどこに向かうのか?
―次世代・革新型蓄電池技術の現状と課題―
2019年12月10日
太陽光発電が切り拓く自動車部門のCO2削減可能性
―自動車における「創エネ」のすすめ―

この執筆者(古林 知哉)はこちらも執筆しています

2019年6月
再生可能エネルギーの現状と将来(2019年版)
―出力抑制シミュレーションによる蓄電池併設の効果の分析―
2019年6月3日
洋上風力発電導入のカギを握るSEPの動向

この執筆者(境澤 亮祐)はこちらも執筆しています

2019年11月22日
再エネとの共生に向けた日本の系統運用策 ―日本版コネクト&マネージ
2019年6月
再生可能エネルギーの現状と将来(2019年版)
―出力抑制シミュレーションによる蓄電池併設の効果の分析―
ページの先頭へ