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親同居未婚者の増加と「介護の社会化」

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2019年12月7日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

親と同居する中年未婚者が増加している。総務省「国勢調査」によれば、1995年から2015年にかけて、40代と50代の人口は6%程度減少しているというのに、親と同居する40代と50代の未婚者は、95年の113万人から15年の341万人へと約3倍になった。

ちなみに、15年現在、40代と50代の未婚者は650万人いるが、そのうち52%は親と同居し、41%は一人暮らしだ。95年から15年にかけて、親と同居する中年未婚者の比率が、一人暮らしの中年未婚者の比率を上回るようになった。

こうした中、懸念されるのは、親と同居する中年未婚者において無職者の比率が高いことだ。筆者が参加した公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構の調査によれば、親などと同居して2人以上世帯を形成する40代・50代の未婚者(9割以上は親と同居)の約2割は無職者であった。一人暮らしの中年未婚者における無職者の比率は1割強なので、それよりも高い水準になっている。

では、なぜ親と同居する中年未婚者は、無職者の比率が高いのか。よく指摘されるのは、現在の40代は「就職氷河期世代」にほぼ該当するので、希望しない仕事や不安定雇用に従事した結果、無職となり、親との同居によって生計を維持しているという見方である。

しかし、先の調査を見ると、それだけが理由ではない。親などと同居する無職の中年未婚者に「無職の理由」を尋ねると、女性で最も多いのは、「親の介護など、家庭の都合で手が離せないから」であり、38%に上る。また、男性でも22%がこの理由を挙げている。つまり、この調査を見る限り、親と同居する中年未婚者が無職となる大きな要因として、親の介護が考えられる。

ところで政府は、今年6月に「就職氷河期世代支援プログラム」を発表し、就職相談や教育訓練などを実施する予定だ。確かに、就労支援は重要だが、親の介護のために働けない人には、公的介護保険のサービス利用が不可欠だ。公的介護保険は、要介護高齢者の生活を支援するだけでなく、現役世代の就労継続も支えている。

一方、介護保険財政を見ると、高齢化による介護費の急増で、被保険者の保険料負担が重くなっている。このため、今後の介護保険制度改革は、給付を抑制する方向になるとみられている。

筆者は、家族形態が多様化して家族の介護力が低下する中では、給付を充実させて「介護の社会化」を進めるべきだと考える。給付を抑制すれば、親と同居する中年未婚者を含め、親の介護のために無職となる現役世代が増えるだろう。親の年金に依存して生活した場合には、親亡き後、経済的困窮に陥るリスクも高い。また、社会にとっても、介護離職者の増加は、人手不足を一層深刻にして、経済に悪影響を及ぼすことが懸念される。

これを防ぐには、財源を確保して、介護保険財政を長期的に安定させることが必要だ。親が要介護になっても就労を継続できるという安心感を持てるように、現役世代の被保険者の対象拡大を検討してはどうだろうか。

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