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地域における「つながり」の再構築

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2020年2月8日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

「幸福で健康な人生には何が必要か」。米ハーバード大学が75年間にわたり724名の人生を記録した研究結果によると、それは富でも名声でもなく、家族、友人、コミュニティーとのつながりであるという(2015年11月TEDでのロバート・ウォールディンガー教授による講演)。

近年、日本では、生きづらさやさまざまな生活上のリスクを抱える個人や世帯が増えている。この背景には、地縁、血縁、社縁といった共同体機能が脆弱化する中で、社会的に孤立して、他者とのつながりが乏しい人が増えていることがあるのだろう。

例えば、孤立している単身高齢者は、電球の取り換えや病院通いといった身近な生活課題への対応が困難だ。同居家族がいれば対応できることが、孤立した単身高齢者には生活上のつまずきとなる。

また、「8050問題」といわれるように、80代の親が50代の子どもの生活を支える世帯は、貧困、介護、障害などの複合的な課題を抱えていることがある。世帯内での解決が難しいうえに、世帯自体が孤立していれば、外部に支援を求められない。さらに、孤立は生きる意欲や自己肯定感を低下させるといわれている。なぜなら、生きる意欲や自己肯定感は、他者を通じて得ることが多いからだ。

こうした中、厚生労働省の地域共生社会推進検討会は、昨年12月に「地域共生社会」の構築を唱え、市町村における包括的な支援体制などを提言した。いわば、人とのつながりを再構築して、支え合える地域を目指している。

提言の中で筆者が着目した第1の点は、専門職による相談支援として、従来の「課題解決を目指すアプローチ」とともに、「つながり続けることを目指すアプローチ」(伴走型支援)を「支援の両輪」としたことだ。長期に孤立して自己肯定感が低下している人は、具体的な課題が見えないことも多い。この場合、継続的なつながりを持ち続けること自体に意味がある。時間をかけて課題を解きほぐし、周囲との関係を築く中で、別の展開が始まることも考えられる。

第2に、高齢、障害、子ども、生活困窮といった属性ごとに分かれていた相談窓口を一体化して、幅広く相談を受けられる体制にすることだ。これにより、複合的な課題を抱える世帯や個人も、相談をしやすくなるだろう。

第3に、住民の創意や主体性に基づいて、多様な参加の場や居場所を地域に確保できるように支援していく点だ。近年、全国で急速に広がる子ども食堂は、「地域のホームパーティー」のような形で、地域住民が楽しみながら気軽に参加している面がある。こうした緩やかな関係を増やすことが、住民同士の支え合いにつながるだろう。さらに、孤立している人が社会との関わりの中で役割を見いだせるように、就労や学習などを通じた社会参加の支援も提言されている。

現代社会は、「経済的な貧困」のみならず、「関係性の貧困」も大きな課題である。地域共生社会の構築は新たな課題の解決に向けた一歩であり、人々の生き方や幸福観にも影響をもたらすかもしれない。

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