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求められる短時間労働者の待遇改善

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2020年6月6日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

「ステイホーム」の生活は、感染リスクを抱えながらも家の外で働く人々の支えがあって初めて成り立つ。これは、在宅勤務を続ける中で気づかされた点だ。例えば、医療や介護、スーパーマーケットなどの小売業、ゴミ収集、宅配、行政サービスなどの従事者がいなければ、ステイホームの生活を送ることはできない。

欧米では、生活維持に不可欠な仕事に携わる人々を「エッセンシャルワーカー」と呼ぶようだ。どの業種を「不可欠」というのかは難しいところだが、一般にエッセンシャルワーカーと呼ばれる人々の業種をみると、短時間労働者の比率が高いように思われる。

例えば、2018年の業種別の短時間労働者(パート・アルバイト)の割合をみると、医療・福祉30%、小売業55%、生活関連サービス44%、持ち帰り・配達飲食サービス業65%である。

ところで、社会保険の面から短時間労働者の課題をみると、被用者であるのに厚生年金や健康保険といった被用者保険に加入しておらず、自営業者などの加入する国民年金や国民健康保険に加入している点が挙げられる。被用者保険に加入すれば、労使折半で保険料を負担できる。また、給付面をみても厚生年金であれば、満額で月額約6.5万円の基礎年金に加えて、報酬比例部分を受給できる。短時間労働者は、自営業者と異なり定年があるので、基礎年金だけで高齢期の貧困を防ぐのは難しい。

しかも、短時間労働者の多様化が進み、従来のように夫の被用者保険で扶養される「主婦パート」とは限らない。主たる生計維持者として短時間労働に従事する人が増えている。厚生労働省の調査によれば、パートタイム労働者のうち、主たる生計維持者の割合は33%に上る。とくに、シングルマザーの多くは主たる生計維持者として働くが、就業者の44%は短時間労働に従事している。

こうした中、短時間労働者への被用者保険の適用拡大が進められている。16年には、従業員数が501人以上の企業において、月収8.8万円以上などの要件を満たす短時間労働者が新たに被用者保険に加入した。そして今国会では、企業規模要件を段階的に引き下げて、22年に101人以上、24年からは51人以上の企業に拡大する法案が審議されている。

51人以上に引き下げた場合、新たに被用者保険が適用される短時間労働者は約65万人と推計されている。これは、週労働時間20~30時間の被用者の約15%に相当する。前進ではあるが、まだ不十分だ。

本来、働き方や企業規模にかかわらず、被用者の全員が被用者保険でカバーされるべきだ。事業主負担は高まるが、従業員の老後のために支払うべきコストである。

また、コロナ禍が落ち着く頃には、深刻な人手不足が再来する可能性がある。生産年齢人口は20年から30年にかけて約530万人減少すると推計されている。こうした中で、適用拡大は人材の獲得や定着にプラスに作用するだろう。

人々の生活を支える短時間労働者が、高齢期の貧困を防げるように、さらなる適用拡大が必要だ。

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