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「身寄り問題」と包括的支援

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2020年8月1日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

「身体機能や判断能力が低下した際に、病院同行や買い物支援を誰に頼んだらよいか。また、入院時に求められる身元保証や、死亡後の葬儀や家財処分を誰に託せるか」。これは、身寄りのない単身高齢者にとって、切実な悩みであると聞く。とくにコロナ禍では、身寄りのない高齢者の多くが、感染した場合の対応などを懸念しているのではないか。

家族と同居する高齢者であれば、生活支援、身元保証、死後の事務をさほど心配する必要はなかった。多くの場合、家族が対応すると考えられてきたためだ。しかし、身寄りのない高齢者は、対応してくれる家族がいない。頼れる友人・知人がいればよいが、孤立している高齢者も少なくない。

今後も未婚化の進展に伴って、身寄りのない高齢者は増えていきそうだ。未婚の高齢者は、配偶者だけでなく子供もいないと想定されるためである。例えば、65歳以上の男性の未婚率は、2015年は6%であったが、30年には11%に倍増すると推計されている。

もっとも身寄りがなくても、貧困や要介護の状況になったり、判断能力が低下したりすれば、生活保護や介護保険、成年後見などの公的制度に支えられるだろう。

しかし公的制度は、家族のように必要な支援を、包括的に最期までコーディネートしてくれるわけではない。また、改善されてきたとはいえ、多くの公的サービスは縦割りで、対象者やサービスに限界がある。例えば介護保険は、死後事務には対応できない。また、成年後見人は、買い物などの生活支援を行うわけではない。さらに、公的支援は法律の下でのサービス提供であるため、各自の状況に合った柔軟な支援が難しい。

こうした中、身寄りのない高齢者において、民間の身元保証団体と契約する人が増えている。身元保証団体は、身元保証の代行を有償で行うが、多くの団体では、追加料金を支払うことによって、身元保証のみならず、生活支援や死後事務といったサービスも、ワンストップで提供している。また、民間サービスなので、法的な縛りが小さく、公的支援よりも柔軟な対応ができる。このため、身元保証団体のサービスは公的支援よりも使い勝手がよく、同サービスへの需要が伸びる要因となっている。

一方、身元保証団体が提供するサービスには、課題も指摘されている。その1つは、信頼性の担保である。身寄りのない単身高齢者の場合、本人死亡後の契約履行についてチェック機能が働かない。また、料金体系が曖昧な場合が多い。高額な料金であれば、低所得者の利用は難しい。さらに、民間の団体なので倒産のリスクもある。

身寄りがなくても安心して人生の最終段階を迎えられるように、官民が協力して、生活支援、身元保証、死後事務を継続的・包括的にコーディネートする機関を構築できないだろうか。筆者は、公的機関のもつ信頼性と民間サービスの柔軟性を組み合わせることが1つのポイントだと考えている。

これまで家族がいることを「標準」としてきたが、身寄りのない人が増える中で、新たな支え合いの仕組みが求められている。

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