ページの先頭です

ジョブ型雇用時代の住宅・教育費

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2020年10月3日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

在宅勤務が広がる中で、ジョブ型雇用が注目されている。ジョブ型雇用とは、欧米に見られる雇用形態であり、「ジョブ(職務)」を前提に、それに見合う人材を採用していく。職務の範囲が限定的で、専門スキルを身に付けやすいが、職務が不要になれば解雇されるリスクがある。

これに対し、日本の雇用形態は職務を前提にせず、会社の「メンバー」にふさわしい人を採用するメンバーシップ型である。そこでは職務は限定されずに配置転換が行われる。これにより、ある職務が不要になっても、雇用は維持されやすい。「人と職務の結び付き」を自由に変えられる点が特徴だ。

また、メンバーシップ型における賃金は、年齢や勤続年数に伴って上昇していく「年功賃金」であり、50代前半ごろがピークとなる。このような賃金カーブには「生活給」が盛り込まれ、人々はライフサイクルにおける支出の変化にうまく対応できた。

例えば、結婚して子どもが成長していけば、住宅を購入してローンを返済する世帯が増えていく。また、40代や50代になると、子どもの大学進学などによって教育費が増える。年功賃金は、こうした支出を吸収してきた。

しかし、ジョブ型雇用になれば、賃金は職務をベースに定まるので、年功賃金ではなくなる。課題になるのは、年功賃金でカバーしてきた住宅費や教育費を、今後いかに賄っていくのかという点である。

筆者は、住宅や教育に向けた費用には、公的支援を拡充すべきだと考えている。これは、単に家計が大変になるからという理由ではない。住宅や教育は、市場経済の下で自立した生活を送る基盤になるからだ。低所得者を含め、誰もが生活基盤を形成できれば、社会参加できる人が増えて、社会の活力を高めることにつながるだろう。

例えば失職しても、住居が安定していれば、就職活動を行っていける。また、住まいの見通しが立てられれば、世帯形成を諦めた若者が別の選択肢を考える余地が生まれてくる。一方、教育は、将来仕事を持ち、生活の糧を得る基盤である。さらに教育には、家庭の経済状況に関係なく、子どもの学力を伸ばし、人生のスタートラインをそろえる機能がある。

海外を見ると、ドイツや北欧諸国では、住宅を「社会資本」と考えて、幅広い層を対象に、公的機関や非営利組織などが手頃な価格で社会賃貸住宅を提供している。社会賃貸住宅には公的助成が組み込まれており、民間セクターの家賃を抑え、質を改善する効果がある。また、生活保護制度とは別に、低所得者層を対象にした家賃補助制度を設けている国も多い。

教育分野でも、海外は公的支出が大きい。2016年の小学校から大学までの教育機関に対して行われた公的支出の割合(対GDP〈国内総生産〉比)を見ると、日本はOECD(経済協力開発機構)35カ国(当時)で最も低い。また、日本の高等教育における公的支出の割合は31%であり、OECD平均の66%を大きく下回る。

ジョブ型雇用の機運が高まる中で、住宅や教育の費用負担のあり方を社会全体で考える必要がある。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2020年10月
単身者の増加と社会的孤立への対応
『月刊福祉』 2020年10月号
2020年9月
「身寄り問題」と包括的支援
『週刊東洋経済』 2020年8月1日号
2020年7月
求められる短時間労働者の待遇改善
『週刊東洋経済』 2020年6月6日号
ページの先頭へ