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「自助」と社会保障強化は好相性

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2020年11月28日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

「『自助・共助・公助』そして『絆』」――。菅義偉首相は10月の所信表明演説で、自身が目指す社会像をそのように語った。具体的には「まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。そのうえで、政府がセーフティーネットでお守りする」という。

公的支援の前に、できる限り個人や家族の力で生活上のリスクに対応することは、従来行われてきた。とくに、家族の支え合いは日本の特徴だ。この背景には、皆婚社会の下で夫が正社員として安定的に雇用される一方、親の介護や育児などを妻が担うといった、世帯内の男女の役割分担を「標準」としてきたことがある。実際、公的介護保険が導入されたとはいえ、2019年に要介護者を抱える世帯に「主な介護者」を尋ねると、7割弱が「家族」と回答している。

そして、日本では家族が大きな役割を担っているために、政府の役割は小さい。一般に高齢化率が高ければ、社会支出(対GDP〈国内総生産〉比)も高い傾向がある。しかし日本は、高齢化率がOECD(経済協力開発機構)諸国中、断トツで高いのに社会支出は中位である。高齢化率を勘案すれば、日本は「低福祉」の水準だ。

加えて、単身世帯の増加など世帯構造が変容している。家族の支え合いが弱まる中で、日本はどう対応するのか。今、社会像として問われるのはこの点ではないか。

世界の福祉国家は、福祉サービスの主な担い手の違いから「家族依存型」「市場依存型」「政府依存型」の3つに類型化できるという(権丈善一『ちょっと気になる社会保障 V3』)。日本は家族依存型であり続けてきたが、家族機能が弱まる中で、市場依存型と政府依存型の2つの方向が考えられる。

市場依存型は米国が代表国である。介護や育児などの福祉ニーズについて、主に市場からの福祉サービスの購入で対応する。政府の役割は小さいので、税・社会保険料の負担も小さい。一方、市場からサービスを購入するので、低所得者層は福祉サービスの利用が難しく、どうしても階層が生まれる。

政府依存型はスウェーデンが代表国であり、主に政府による社会保障が福祉ニーズに対応する。政府は公的財源によって福祉サービスを提供するので、所得の多寡にかかわらず平等にサービスを享受できる。一方、経済に占める税・社会保険料の比重は高まる。

筆者は、日本の方向性として、政府の役割をもう少し広げて、社会保障の機能強化を図ることが重要だと考える。ただし、巨額の財政赤字を抱えるので、スウェーデンのような「高福祉」は難しい。

これに対し、社会保障の機能強化は、経済成長の足かせになるという見方がある。本当にそうだろうか。例えば公的介護保険を拡充すれば、親の介護のために働けなかった人が就労できる環境を得られる。また、社会保障の機能強化は、医療・介護、子育てなどの分野で多くの雇用を創出する。労働の供給と需要が増えれば、そこに新たな消費が生まれる。このように社会保障の機能強化は、人々の自助を支援するものであり、経済成長に資する側面が強いのである。

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