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静脈産業の事業発展における垂直連携に向けて

リチウムイオン電池のリサイクルを支えるデジタル技術の活用

  • *本稿は、2021年3月10日付の環境新聞「『令和』を拓く資源循環イノベーション」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第1部 シニアコンサルタント 秋山 浩之

この1年間、新型コロナウィルスによる社会・経済活動の停滞、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延期、人の移動を代替するデジタル技術の急速な社会への浸透などがあった一方、資源循環とその関連分野でも大きな動きがあった。昨年7月には環境省から「資源循環×デジタル」プロジェクトの検討結果が公表、10月の臨時国会では「2050年カーボンニュートラルの実現を目指す」ことが宣言され、従来からの協議会の取り組みに、脱炭素や電動化、AI/IoTを包含するデジタル技術活用という視点を加えた厚みのある活動が求められるようになった。そうした動向の中で、資源循環分野だけにとどまらない重要な製品として、リチウムイオン電池がある。

リチウムイオン電池(以下、「電池」と略す)は自動車に搭載される車載用や、太陽光発電等を蓄電する定置用、さらに小型家電等の製品の内蔵型、モバイルバッテリーなどさまざまな用途があり、今後、使用済み製品が多く排出される。コバルトやニッケルなど希少金属が使用されているためリサイクルのニーズが大きいほか、車載用電池は使用後回収され他の用途にカスケード利用される。さらに、ポータブル製品内蔵の同電池が原因と考えられる火災事故が増加しており、安全な回収と処理も必要である。

こうした重要性の高まりとともに、欧州委員会は昨年12月10日、電池に関する法規制の改正案を公表した。2024年7月1日から、欧州市場で販売される産業用、EV用電池のカーボンフットプリントに関する宣言を義務化し、その後の産業用、自動車用、EV用電池の再生材の含有量の開示、モバイル用の性能・耐久性要件の導入、有害物質の使用を制限した責任ある原材料の使用、使用済み製品の回収義務などが挙げられている。さらに、安全なデータ共有、電池市場の透明性の向上、ライフサイクルでの大容量電池のトレーサビリティを目的とした新たなIT技術の活用も記されている。欧州が起点となり、電池の分野でも資源循環×デジタルのルール化、標準化が進む可能性がある。

一方、日本の静脈産業界では、処理業を中心とした合併、資本提携、ファンド参画に加えて、デジタル技術の普及や販売を目的とした新会社設立等の動きもみられる。事業発展とデジタル技術活用の観点から、それらを3つに分類すると、処理エリア・取り扱い品目の拡大とデジタル技術による定型業務効率化システムから成る「水平連携」、高度な資源循環実現のためのリバース・サプライチェーンの強化と製品追跡・情報伝達システムから成る「垂直連携」、地域社会のインフラ機能強化と地域経済圏におけるデジタルサービスへの参画から成る「地域連携」がある。

上記の欧州委員会の提案に見られる電池のトレーサビリティのためのデジタル技術活用は、「垂直連携」に該当する。当社は来年度、民間企業とともに、他の分野ですでに実証経験のあるブロックチェーン技術を活用し、リチウムイオン電池のリサイクルに関するトレーサビリティシステムの実証研究を計画している。

資源循環×デジタルでの水平連携、垂直連携、地域連携の動きが今後進む過程で、この実証で得られた知見が活用され、脱炭素、循環経済、安全・安心社会が形成されることに期待したい。


静脈産業における事業発展・再編とデジタル技術活用の方向
図1

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