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導入が検討されている「カーボンプライシング」とは何か?(1/2)

  • *本稿は、『企業実務』2021年7月号(発行:日本実業出版社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 環境エネルギー第1部 課長 元木 悠子

カーボンプライシングとは何か

菅義偉内閣総理大臣は、2020年10月の所信表明演説で、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロ(脱炭素化)を目指すと宣言しました。

さらに、2021年1月の施政方針演説では、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)までに意欲的な2030年目標を表明することや(2021年4月の気候サミットで46%削減を表明)、「成長につながるカーボンプライシングにも取り組んでいく」ことを宣言しました。

カーボンプライシング(CP)とは、炭素排出を「見える化」し、企業に炭素排出に伴う費用負担を求める制度です。脱炭素化の実現には、エネルギー消費量の削減(省エネ)やエネルギーの低炭素化(再エネ)を促す代替技術の導入が求められます。

カーボンプライシングが導入されると、企業は支払いを回避するため、限界削減費用(炭素の削減量を追加するのに要するコスト)が炭素価格と等しくなる水準まで、代替技術の導入を進めることを選択します(図表1)。

つまり、カーボンプライシングによって削減の深掘りが行われることになります。もちろん、高コストな対策(現在商用化されていない技術等)については、カーボンプライシングのみでは普及を後押しできないため、補助金など別の施策が必要となる点は留意しなければなりません。


図表1 カーボンプライシングの役割
図

(出典)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

カーボンプライシングの種類

政府が実施する主なカーボンプライシングに炭素税と排出量取引制度があります。いずれも炭素1トン当たりの価格が明示されることから、明示的カーボンプライシングと呼ばれています(図表2)。

それ以外のエネルギー課税や省エネ法などは、その遵守のための費用が生産者や消費者に間接的に課されることから、暗示的カーボンプライシングと呼ばれています。

加えて、企業が自主的に行うカーボンプライシングもあります。VCSやGold Standardなど民間セクターが主導するクレジット制度を活用し、自社の削減量を環境価値として取引することができます。

また、自社の炭素排出に独自に価格付けを行うインターナルカーボンプライシング(社内炭素価格)に取り組む企業も増えています。


図表2 カーボンプライシングの種類
図

出典:経済産業省「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」(2021年2月17日)(資料1)、OECD(2013)「Climate and carbon: Aligning prices and policies」等よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

炭素税と排出量取引制度

以下では、政府が実施する明示的カーボンプライシングである炭素税と排出量取引制度に注目したいと思います。一長一短あるものの、いずれも長期的な価格シグナルを通じて人々の行動変容を促すとともに、脱炭素技術への投資やイノベーションを促す役割が期待されています。

(1)炭素税

炭素1トン当たりに対する課税です。政府が税率を設定することから、価格が安定する、企業や家計など幅広い主体に価格シグナルを付与できる、排出量に応じた負担のため公平性に優れるなどのメリットがあります。加えて、政府に税収をもたらし気候変動対策などに充当できる、企業にとっては炭素価格の見通しが立てやすく長期的な投資計画を立てやすいなどの長所があります。

一方、確実な削減量を見通せない、価格転嫁(販売価格への上乗せ)の度合いによって削減効果が左右されてしまうなどの短所があります。

(2)排出量取引制度

企業の一定期間(通常は1年間)の排出量に上限値(排出枠)を定め、実際の排出量がこれを上回った場合、余剰が生じた企業から排出枠を調達する(支払いを行う)ことにより、義務遵守を求める制度です。

国の総量削減を確実に達成できる、企業が削減手段を自由に選択できる、企業に排出枠の売却益がもたらされる、政府にオークション収入がもたらされるなどの長所があります。

一方、価格が日々変動するため企業が長期的な投資計画を立てにくい、義務遵守のモニタリングが必要となり中小事業者を対象とすることが困難、排出枠の割当に係る行政コストが高いなどの短所があります。

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2021年5月
カーボンプライシングに関する世界の潮流とビジネスへの影響
『みずほグローバルニュース』 Vol.113 (2021年3月発行)
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