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人生100年時代、高齢期に向けて準備すべきこと

  • *本稿は、月刊『企業年金』2021年11月号(発行:企業年金連合会)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 社会政策コンサルティング部 主任コンサルタント 羽田 圭子

1.人生100年時代の到来

厚生労働省の『令和2年簡易生命表』によると、2020年の平均寿命(0歳の平均余命)は、男性が81.64歳、女性が87.74歳となり過去最高を更新した。3大死因の平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数をみると、男性は新生悪性物が0.07年、心疾患が0.01年、脳血管疾患が0.03年、女性は新生悪性物が0.04年、心疾患が0.08年、脳血管疾患が0.04年のプラスであり平均寿命の延伸につながった。一方、新型コロナウイルス感染症は、男性はマイナス0.03年、女性はマイナス0.02年、平均寿命を引き下げた。

平均余命とは、各年齢の人が平均して、あと何年くらい生きるかという期待値で、例えば、90歳の平均は男性94.59歳、女性95.92歳である。2021年9月の敬老の日時点の100歳以上の高齢者は全国で86,510人と最多を更新し、最高齢は女性118歳、男性111歳だった。

25歳から65歳までの40年間は、「青年期」、「壮年期」、「初老期」に区分される。高齢期(本稿では65歳以降と想定)も、一般的に「元気な時」、「虚弱期(フレイル)」、「要介護期」、「人生の最終段階」の4つのライフステージを辿り、最期を迎える。『令和2年版厚生労働白書』によると、2016年の平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)の差は、男性8.84年、女性12.35年と10年前後に及ぶ。

健康に留意して介護予防に取り組むことは、健康寿命を延ばす観点から意義は大きい。しかし、実際は日常生活に制限が生じた後も、平均で10年前後の期間がある。誰しもその期間も生きがいを持って住み慣れた地域で生活を続けたいと思うのではないか。本稿では、尊厳のある高齢期に向け、日常的にできる備えとして5点をお示しする。


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2020年の主な年齢の平均余命(単位:年)
年齢 男性 女性
平均余命 年齢+平均余命 平均余命 年齢+平均余命
0歳 81.64 81.64(平均寿命) 87.74 87.74(平均寿命)
50歳 33.12 83.12(平均寿命) 38.78 88.78(平均寿命)
70歳 16.18 86.18(平均寿命) 20.49 90.49(平均寿命)
90歳 4.59 94.59(平均寿命) 5.92 95.92(平均寿命)

資料:厚生労働省の『令和2年簡易生命表』をもとに作成

2. 5つの備え

(1)やりたいことを諦めない

高齢期も元気なうちは、不自由なく趣味・仕事・家事等を行うことができ、実際、アクティブに活躍する人は多い。健康なうちは意識しないが、ひとたび健康を失うと、自由に外出する等、当たり前にできていたことが、いかに恵まれていたかを実感する。

第一は、「人生の最終段階」になっても、歳だから、迷惑をかけるからと、やりたいことを諦めないことである。病気や認知症になった後も、その人らしい暮らしが尊重されるべきである。好きなことは楽しいし、治療の励み、介護予防の目標にもなる。自身の意思を伝え、周囲の理解と協力を得ながら継続しよう。

実例を挙げると、おしゃれ、買い物、食事、酒・たばこ、会話、家族や知人との交流、家事、働く、外出・旅行、自然に親しむ、読書・芸術、観劇、運動、ゲーム・テレビ・ネット、ICT、動物を可愛がる、社会貢献、投資、「推し」の応援等、様々である。

(2)つながりを大切に

第二は、人とのつながりを大切にすることである。人間は社会的な生き物で、人や社会との関わりという座標軸の中で、自身の存在を確認しながら生きている。家族や友人等、信頼して頼れる人とのつながりを今後も大切にし、さらに、高齢期を見すえ、新しい人とのつながりをつくってほしい。

一般的に、様々なものを獲得する人生の前半に比べ、高齢期は心身機能の低下、身近な人の死等、喪失するものが多い。人は、苦しみを有する時、同じ境遇にある人(仲間)との交流が大きな支えになることがあり、「ピア・サポート」と呼ばれる。口コミやネットを通じて仲間を探すこともできるが、医療機関、自治体、企業等でも紹介してくれる。

周囲に苦しむ人がいたら、声をかけてほしい。苦しみを解決できなくても、苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい。「おたがいさま」の精神でちょっとした声かけや手助けをする取り組みは「社会的処方」といわれ、社会課題を解決し地域共生社会を実現する鍵として近年、注目されている。

現在は、新型コロナウイルス感染症対策のため、長期間に渡り、外出、会話等に制約があることから、オフラインとオンラインを組み合わせて、意識的に人と交流する必要がある。高齢者にも確実にスマホは普及してきている。電話、メール、SNS、WEB会議等で、互いに安否確認をしながら、楽しく交流を継続すると有効だろう。

(3)相談と多様なサービスの活用

人の生活は、「住まい」、「就労・生きがい・社会参加」、「交流」、「見守り・生活支援・福祉」、「健康づくり・介護予防」、「医療・介護」、「お金の管理」等、様々な要素から成り立っている。元気な時は自分で決めて実行できるが、ライフステージがシフトするにつれ支援が必要になる。現在は、世帯が小規模化していて、家族だけで支えることが難しい上に、支援も専門化、細分化している。「友人・知人」、「地域」、「企業」「専門家」、「自治体」、「医療・介護従事者」、「ボランティア・NPO」等の多様な社会資源を活用しよう。

第三は、自身のニーズに合わせて、公的サービス、自費の民間サービス、インフォーマル・サービスを活用して、生活や生きがいを維持することである。インフォーマル・サービスとは、地域の社会資源やボランティア等による任意の支援で、前述のピア・サポートも含まれる。

高齢期より前に、医療・介護・福祉の社会保障制度で利用できるサービスを確認しておいて、不安を感じた時は、かかりつけ医市町村の地域包括支援センター等の公的機関に早めに相談することが備えになるだろう。

(4)本人の意思の尊重

第四は、本人の意思を尊重するしくみや取組みを知ることである。例えば、認知機能や判断能力が低下すると、不利益な契約をする、特殊詐欺の被害にあう等のリスクが高くなる。こうした状況に対し、本人の権利擁護をはかる公的なしくみとして、成年後見制度、日常生活自立支援事業が整備されている。

成年後見制度は、認知症高齢者、障がい者等のうち、判断能力が不十分な人を、法律面や生活面で保護したり支援したりする。日常生活自立支援事業は、判断能力が不十分な人が地域において自立した生活が送れるよう、福祉サービスの利用援助等を行う。

人生の最終段階における医療・ケアに関する本人の意思尊重については、本人・家族等と医療・介護従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスとして、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)がある。本人・家族等が、医療・ケアチームと一緒に、本人の人生観や望む生き方をふまえた話し合いを繰り返し行った上で、本人が意思決定を行えるように支援する取組みである。

(5)お金の寿命も延ばす

第五は、寿命の延びに合わせ、お金の寿命も延ばすことである。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、2021年4月1日から施行され、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化する努力義務が設けられた。高齢期は公的・私的を含めた年金を主な収入源とする人が多いが、高齢期より前から老後の収支の見込みを計算し、不足が見込まれる場合は、働く等して収入・資産を増やす、もしくは支出を減らす対策のどちらか、あるいは両方を考えることが必要となる。

判断能力が低下して、お金の計算や資産の管理が難しくなり、金融機関との契約等が困難になることも想定される。あらかじめ、家計や資産について家族と話し合い、必要に応じ、金融機関、不動産業者、士業の専門家等に相談をしながら計画的に準備を行い、最期まで定期的に資産状況についてチェックや見直しを行うことが有効と考えられる。


  • 本稿は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成しておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。

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