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気候リーダーズサミットと米国の取り組みからみる気候変動政策を巡る世界の動向(2/2)

  • *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.114 (みずほ銀行、2021年6月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 環境エネルギー第1部 コンサルタント 金池 綾夏

米国の気候変動対策

バイデン政権発足後、世界の気候変動対策におけるリーダーシップの発揮を目標に掲げる米国に着目し、政権の気候変動対策チームの陣容や、気候変動政策に関する外交や内政についてみていく。

(1)バイデン政権の気候変動対策チーム

2021年1月20日に発足した米国バイデン政権は、気候変動対策を政権の柱の一つに据えており、気候変動を担うチームは連邦政府内の主要ポスト経験者や気候・環境政策分野で実績を持つメンバーで構成されている。まず、気候変動外交を担当する気候変動問題担当大統領特使にはオバマ政権時に国務長官であったジョン・ケリー氏が、各省庁の脱炭素政策の司令塔となる国家気候変動担当顧問には同じくオバマ政権時に環境保護庁(EPA)長官を務めたマッカーシー氏が就任している。また、EPA長官にはノースカロライナ州環境品質局(DEQ)前長官で気候変動対策や環境汚染対策で実績を持つリーガン氏が、エネルギー省(DOE)長官には再エネを推進する元ミシガン州知事のグランホルム氏が起用されている。

(2)米国の気候変動外交

気候変動外交において重要な役割を担うのが、気候変動問題担当の大統領特使を務めるケリー氏である。ケリー氏は、2015年に国務長官としてパリ協定に署名した当事者であり、気候変動分野に深く精通した人物として知られる。

ケリー氏は就任以来、気候変動外交を精力的に展開している。2021年3月に欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長と会談を行い、気候変動対策において米欧の強力な同盟関係を再構築し、気候変動の影響に脆弱な人々を支援するために他国と協力することを発表した。また、2021年4月には中国の気候変動事務特別代表の解振華氏と会談を行い、共同声明で気候変動対策において米中相互に、かつ他の国々と多国間の協力を行うことを誓約している。加えてケリー氏は、英国、インド、バングラデシュ等とも会談を行い、協調的に気候変動対策を進めていく方針を確認している。

このように、ケリー氏を中心に、米国は気候変動政策において各国と良好な関係を築いており、国際的に気候変動に関する取り組みを推進するうえでの牽引役のポジションを確立しつつあると言える。

(3)米国雇用計画

米国における主な国内の気候変動政対策に、2021年3月31日にバイデン大統領が提案した米国雇用計画(The American Jobs Plan)がある。これはインフラの再構築や数百万人もの雇用創出をめざし、今後10年間で総額約2兆米ドルを投資する計画である。気候変動関連では、EV市場の拡大に1740億米ドル、2035年までの電力部門の脱炭素化に1000億米ドル、気候変動関連の技術拡大に350億米ドル、実用規模のエネルギー貯蔵、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)、水素等の実証事業に150億米ドル等の投資を行うとしている。この計画には法人税の引き上げや、化石燃料補助金の廃止とクリーンエネルギー生産への税制優遇措置の拡大等を含むメイド・イン・アメリカ税制案(The Made in America Tax Plan)も含まれ、これにより15年以内に同計画に必要な資金全額を賄う見込みとしている。

その後2021年5月21日に、民主党は超党派の合意に向けて計画の規模を1.7兆米ドルに縮小した提案を行ったが、共和党はこの提案に反対しており、2021年5月末時点で合意に至っていない。

(4)炭素国境調整措置

最後に注目すべき取り組みとして炭素国境調整措置を紹介する。炭素国境調整措置とは、他国からの輸入品に対し炭素排出量に応じた炭素価格の支払いを求めるとともに、国内の輸出品に対し炭素価格の負担還付を行うことにより、国内産業の競争力を保護しカーボンリーケージ(炭素価格負担を回避するため生産拠点を国外に移転すること)を防止するための措置である。EUが世界に先んじて2023年1月の導入に向けて準備を進めているが、米国も動き出しつつある。バイデン大統領は選挙公約において米国の労働者と雇用者を守るために気候変動対策が不十分な国からの炭素集約型製品に同措置を適用すると言及した。現在はこの措置に係わるアイデアを模索していると言われている。また、米国通商代表部(USTR)も、2021年3月1日に発表した2021年通商政策方針において、同措置も含めた排出削減方法の検討に言及している。

日本に対して炭素国境調整措置が適用された場合、これらの国と貿易関係にある日本企業の負担が増加し、国際競争力が損なわれるおそれがある。現在、日本国内では、環境省や経済産業省を中心にカーボンプライシングの導入について検討が行われており、企業の間で炭素国境調整や国内カーボンプライシングに関する関心が高まっている。

おわりに

気候リーダーズサミットでは先進国、途上国ともに、排出削減目標を引き上げて気候変動対策を強化する意思を明らかにした。また、バイデン政権の気候変動外交を通して各国が他国と協力した取り組みの実施を宣言する等、気候変動対策の更なる推進に向けて国際的な足並みがそろいつつあると言える。一方で、各国の排出削減目標は1.5℃目標の達成をめざす場合には必ずしも十分ではないことに加え、途上国へのファイナンス拡大や先進国による公平な負担の分担、あるいは炭素国境調整措置等、国際的な気候変動対策を協調的に進めるうえでの課題が数多く残っている。

今回の気候リーダーズサミットはCOP26のマイルストーンとして開催された。今後も、来たる11月のCOP26の動向、その先にある1.5℃目標への各国の対応、および国際的な課題への対応等について、引き続き注目していきたい。

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